小田急多摩線相模原延伸

唐木田~相模原~上溝

小田急多摩線は、新百合ヶ丘-唐木田を結ぶ鉄道路線です。唐木田から先、相模原駅を経て上溝駅までの延伸計画があり、さらに愛川町方面から厚木市まで延ばす構想もあります。唐木田-上溝間については、2016年の国土交通省交通政策審議会答申198号に盛り込まれました。

唐木田-上溝間に、途中2駅(うち1駅が相模原駅)が設けられる計画です。相模原駅までの先行開業が見込まれています。開業予定時期は未定です。

小田急多摩線延伸の概要

小田急多摩線は1974年に新百合ヶ丘-小田急永山間が開業し、1990年に唐木田まで延伸されました。これを上溝まで延伸しようというのが小田急多摩線の延伸計画です。

小田急多摩線延伸は、相模原市と町田市が要望しており、両市は2014年5月26日、多摩線延伸推進に関する覚書を取り交わし、中央新幹線開業が予定される2027年までの実現を目指すことで合意しました。

2016年に8月には「小田急多摩線延伸に関する関係者会議」(関係者会議)を設置。小田急、JR、学識経験者などを交え、2019年2月まで7回にわたり延伸の採算性などを検討しました。その結果をまとめた報告書が2019年5月に公表されています。

ルート詳細

小田急多摩線の延伸ルートは下図の通りです。

小田急多摩線延伸
画像:広報さがみはら2023年8月号より

唐木田駅の先にある小田急唐木田車庫の東側2線を延伸し、町田市に入り、小山田地区付近に「中間駅」を設置。さらに返還された米軍相模総合補給廠跡を縦断し、相模原駅で横浜線と交差します。

小田急多摩線延伸
画像:小田急多摩線延伸に関する関係者会議報告書(2019)

相模原駅は地下で、地下道でJR横浜線の相模原駅と接続します。

小田急多摩線延伸
画像:小田急多摩線延伸に関する関係者会議報告書(2019)

その先は県道503号の下を通り相模線上溝駅に到達します。上溝駅は高架で、JR相模線と平行に駅を設置し、改札口の位置も揃えます。

小田急多摩線延伸
画像:小田急多摩線延伸に関する関係者会議報告書(2019)

 

運行形態と所要時間

総延長は8.8km、設計最高速度は100km/hで、開業した場合、小田急多摩センター-上溝が約8分、新宿-相模原が48分、新宿-上溝が51分で結ばれるとしています。

小田急多摩線延伸
画像:小田急多摩線延伸に関する関係者会議報告書(2019)

急行運転も想定しており、ピーク時の急行は唐木田駅と中間駅を通過します。オフピーク時の急行は両駅にも停車し、多摩センター~上溝間は各駅停車となります。

小田急多摩線延伸
画像:小田急多摩線延伸に関する関係者会議報告書(2019)

運転本数は、ピーク時に毎時9本(急行3本、各停6本)、オフピーク時に毎時6本(急行3本、各停3本)と想定しました。10分間隔をベースとし、ラッシュのみ急行を20分間隔で追加設定する形です。

多摩センター駅での追い越しを可能にするために、同駅を2面4線化します。また、多摩センター駅の唐木田寄りに引き上げ線も設置します。

輸送人員と建設費

2033年に開業すると仮定して、想定輸送人員は2033年に1日あたり73,300人、2045年に67,100人となっています。想定輸送密度は2033年に50,500人キロ、2045年に46,000人キロです。

概算建設費は1,300億円で、単年度資金収支で黒字転換まで11年、累積資金収支は黒字転換まで42年です。費用便益比については、開業後30年が1.2、50年が1.4です。

費用便益比は基準となる1.0を上回るものの、累積資金収支は基準となる40年を下回りませんでした。このため、報告書では、相模原駅の位置を変更し乗り換え利便性を改善する案と、相模原-上溝間の建設を先送りして唐木田-相模原間を先行開業する段階的整備案を検討。段階的整備案では、累積資金収支が26年となり、劇的に改善することがわかりました。

この報告書を受けて、相模原市の本村賢太郎市長は「唐木田―相模原の先行整備を軸に検討を進める」との姿勢を示しました。相模原先行開業での事業化方針を明らかにしたわけです。

相模原までの開業時期は未定ですが、報告書では建設期間を約6年と想定していて、2033年開業と仮定しています。ただし、相模原市は行財政改革のメドが付く2027年度までは事業着手をしない方針を示していて、調査のみにとどめています。

また、相模原先行整備案が浮上したため、相模原-上溝間の延伸時期は見通せなくなりました。

上溝から先、愛川町に入り、相模川西岸を本厚木まで延伸する構想もあります。ただ、上溝以遠は構想段階で、ルートや事業費などの詳細案は出ていません。

小田急多摩線延伸
画像:小田急多摩線延伸に関する関係者会議報告書(2019)

小田急多摩線延伸の沿革

多摩センター開業まで

1958年、小田急電鉄は、小田原線鶴川駅を起点とし、横浜線矢部駅、相模線上溝駅などを経由して津久井郡城山町(現・相模原市緑区)へ至る21.4Kmの「城山線」の免許申請を行いましした。この路線は結局実現しなかったのですが、小田急の上溝乗り入れの原点は、この城山線にあるともいえます。

多摩ニュータウンの開発が決まると、1964年に、小田急は喜多見駅を起点とし、稲城本町、多摩(多摩センター)、横浜線橋本駅を経由し城山町へ至る30.5Kmの新線建設免許を申請しました。これは、喜多見-稲城本町、稲城本町-城山間に分けて認可されます。

しかし、喜多見付近の住民から反対運動が起き、1967年に喜多見-多摩センター間の計画を放棄し、新たに新百合ヶ丘-多摩センター間の免許を受けました。この時点で、小田急多摩線は、新百合ヶ丘-多摩センター-橋本-城山に至る路線として計画されていたわけです。

1975年に小田急多摩線は小田急多摩センターまで開業します。しかし、多摩センター以西は京王相模原線と競合することもあり、小田急は1987年に小田急多摩センター-城山間の免許を失効させました。

さらなる延伸へ

城山延伸をあきらめた小田急は、多摩センターから南西方向への延伸を試みます。1990年3月に唐木田まで延伸し、唐木田駅の先に車両基地を設置しました。車両基地には留置線とは別に本線用線路が数百メートルほど敷かれ、さらなる延伸に備えた形となっています。

小田急多摩線延伸
画像:小田急多摩線延伸に関する関係者会議報告書(2019)

町田市、相模原市でも、小田急多摩線の延伸を求める声は強く、2000年の運輸政策審議会答申第18号で「唐木田から横浜線・相模線方面への延伸」が「今後整備を検討すべき路線」として盛り込まれました。

2006年8月には、ルート上にある在日米軍相模総合補給廠の一部返還が決定。これを受け、町田市、相模原市では、2006年11月に「小田急多摩線延伸検討会」を設立し、小田急などの協力を得て延伸の検討を進めました。2011年には、両市による「小田急多摩線延伸実現化検討調査」の結果をまとめ、これを公表しました。

唐木田から上溝に至る経路は、このときにおおむね決まり、途中駅も3駅とされています。

リニア開業を視野に

2012年7月に、検討会メンバーに学識経験者、国、東京都、神奈川県、多摩市を加えた「小田急多摩線延伸計画に関する研究会」を設置し、より深度化された検討を実施。2014年3月に調査結果を「小田急多摩線延伸計画に関する研究会報告書」としてまとめ、これを公表しています。

2014年5月には、町田市と相模原市が、協力して小田急多摩線延伸の取組みを進めることについて覚書を交わし、リニア中央新幹線の橋本駅開業する2027年度を開業目標としました。

2016年4月20日の交通政策審議会答申第198号『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』では、小田急多摩線の延伸(唐木田~相模原~上溝)が「地域の成長に応じた鉄道ネットワークの充実に資するプロジェクト」として盛り込まれています。

答申198号では、収支採算性の確保などの課題が示され、これに関する意見交換・検討を行うため、町田市、相模原市などでは「小田急多摩線延伸に関する関係者会議」を2016年8月に新たに設置。課題の解決に向け検討し、その報告書が2019年5月に公表されました。その内容は上記の通りです。

上溝より先、愛川、厚木方面への延伸については、2009年7月に相模原市、厚木市、愛川町及び清川村により「小田急多摩線の延伸促進に関する連絡会」が設立され、検討が進められることになりました。2014年10月には取組状況報告を公表。JR相模線上溝駅から本厚木駅方面に延伸するルートについて、今後検討の深度化を図っていくこととしました。

小田急多摩線延伸のデータ

小田急多摩線延伸データ
営業構想事業者 小田急電鉄
整備構想事業者 未定(公設民営方式)
路線名 小田急多摩線
区間・駅 唐木田-町田市内新駅-相模原-上溝
距離 唐木田-相模原5.8km
相模原-上溝3.0km
想定利用者数 53,300人/日(相模原先行整備)
73,300~74,900人/日(上溝全線整備)
総事業費 870億円(相模原先行整備)
1,300億円(上溝全線整備)
費用便益比 1.3~1.5(相模原先行整備)
1.2~1.4(上溝全線整備)
累積資金収支黒字転換年 26年(相模原先行整備)
40~42(上溝全線整備)
種別 未定
種類 普通鉄道
軌間 1067mm
電化方式 直流1,500V
単線・複線 複線
開業予定時期 未定
備考 都市鉄道利便増進事業

※データはおもに『小田急多摩線延伸に関する関係者会議調査のまとめ』(2019)より。

小田急多摩線延伸の今後の見通し

小田急多摩線の延伸は、2014年3月の『小田急多摩線延伸計画に関する研究会報告書』で具体化され、2019年5月の『小田急多摩線延伸に関する関係者会議報告書』で決定的になったといっていいでしょう。米軍相模総合補給廠の一部返還により、実現への物理的な障壁はなくなりました。

事業化にあたっては、都市鉄道利便増進事業の適用し、小田急電鉄は整備費を負担しない「公設民営方式」を導入することを決めており、小田急も前向きに事業参加を検討しています。

関係者会議報告書によると、費用対効果は悪くないものの、収支採算性が課題であることが浮き彫りになりました。このため、採算性に劣る相模原-上溝間を切り離し、まずは唐木田-相模原間の先行開業に漕ぎ着けようという情勢になっています。相模原までなら、費用対効果も採算性も悪くなく、延伸は実現可能性がかなり高いといえます。

相模原、町田両市は、リニア開業の2027年度までの開業を目標としてきましたが、環境アセスに3年、建設に6年かかることを考えると、このスケジュールは難しいでしょう。

また、相模原市は2027年度までを期間とする行財政改革を進めており、それが終わるまでは小田急多摩線の事業化に着手する予定はないそうです。となると、事業着手が2028年、そこから10年程度を見積もると、開業は速くても2030年代後半になりそうです。

上溝までの延伸については実現可能性が怪しくなりました。採算性を考えれば相模原までの延伸を先行させそうですが、ここで上溝延伸を先送りしたら、永遠に実現しないかもしれません。そのため、2027年以降の巻き返しもありそうで、現時点で「相模原までの先行整備」が決まったとはいえません。

上溝以遠に関しては、構想の域を出ないので、実現可能性を論じる段階とはいえません。

なお、小田急は小田原線に「小田急相模原駅」があります。多摩線がJR相模原まで延伸した場合、混乱を防ぐため、現小田急相模原駅は改称されそうです。