京阪中之島線とJR桜島線延伸、なぜいま調査するのか。大阪府市が夢洲鉄道アクセスを検討

IR開業を見据え

大阪府と大阪市は、夢洲への鉄道アクセスを検討する協議体を設置します。京阪中之島延伸とJR桜島延伸のふたつが対象ですが、なぜいま調査するのでしょうか。

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3路線を調査

大阪府と大阪市が「夢洲アクセス鉄道に関する検討会」を開催すると発表しました。大阪市中心部と夢洲とを結ぶ鉄道新線を検討する会議です。

いうまでもなく、夢洲は2025年大阪・関西万博の会場で、統合型リゾート(IR)の予定地です。IRは2030年秋ごろの開業を目指しています。大阪メトロ中央線が2025年1月に夢洲まで延伸されますが、それ以外の鉄道路線は未着手です。その着手に向けた検討をする会議を開催するというわけです。

夢洲鉄道アクセス
画像:大阪市

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検討路線

検討対象となる路線は、以下の3路線です。

・答申路線(中之島~西九条~新桜島~舞洲~夢洲)
・京阪中之島線の九条延伸(中之島~九条)
・JR桜島線の夢洲延伸(桜島~舞洲~夢洲)

答申路線とは、運輸政策審議会答申第10号(1989年)と近畿地方交通審議会答申第8号(2004年)で示されたルートをまとめたものです。基本的には京阪中之島線の延伸を想定していますが、具体化はしていません。

検討会には学識経験者や、JR西日本、京阪電気鉄道、阪神電気鉄道、大阪メトロ、大阪港トランスポートシステム(OTS)が参加。2024年11月に議論を始め、2025年度前半に結論を出す予定です。

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10年前にも調査

夢洲への鉄道アクセスについては、2014年にも大阪府が調査がおこなっていて、『夢洲への鉄道アクセスの技術的検討について』という調査結果をとりまとめています。

このときは、答申路線(京阪中之島線の夢洲延伸)と、JR桜島線(桜島線の夢洲延伸)、地下鉄中央線延伸(コスモスクエア~夢洲)の3つが検討され、中央線延伸が事業着手に至りました。

今回は、残る2路線に京阪中之島線の九条延伸をくわえた3ルートが検討対象になる、ということです。

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注目は中之島線九条延伸

注目は、初めて調査される京阪中之島線延伸でしょう。現在終点となっている中之島駅から九条駅まで約2kmを延伸する計画です。京阪が九条駅で大阪メトロ中央線と接続することで、夢洲から京都方面へ、1度の乗り継ぎで移動できるようになります。

京阪はかねてから延伸に前向きな姿勢を見せていて、2023年度に事業化を判断する方針を示していました。ただ、IR事業者に解除権が残されているために、IR計画の実現が確定するまで判断を先送りしています。

しかし、IR事業者は、近く解除権を放棄すると報じられています。解除権を維持したままでは、建設会社が工事を受けてくれないといった事情があるようです。解除権放棄により、IRは開業に向けて大きく動き出します。

となると、中之島延伸も動き出す可能性が出てきたわけです。

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事業着手に向けて

中之島延伸は京阪の単独事業ではなく、上下分離による建設が見込まれます。したがって、事業には多額の補助金が投じられます。

補助金事業の場合、透明性を確保するため、事前に費用便益比や採算性を調査し、公共事業としての基準をクリアしなければなりません。中之島線延伸は、これまで公式にそうした調査がおこなわれていないため、事業着手を前に、行政として事業性や採算性などを確認する必要があります。

このタイミングで検討会が開かれるということは、中之島線延伸の着手に向けて、京阪としても行政としても、費用便益比と採算性をきっちり固めておく必要があるからでしょう。

2025年度前半に検討会が結論を出すという予定からは、2025年度中に事業化の判断をして、2026年度から動き出すというスケジュール観も見て取れます。

IRが本当に2030年秋に開業するとして、中之島線延伸開業をできるだけ近いタイミングで目指すなら、このスケジュールでも遅いくらいです。

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JR桜島線夢洲延伸

夢洲アクセスについては、長く答申路線が検討されてきたという経緯もあり、調査するのであれば、中之島線だけでなく、他のルートと比較する必要があります。また、全体として適正な輸送力でなければなりません。今回、「夢洲鉄道アクセス」として総合的に調査するのは、そうした意味合いがあるのでしょう。

前回(2014年)に続いて調査対象となるJR桜島線延伸は、現在の終点桜島駅から舞洲を経て夢洲に至るルートで、概算で6km程度です。2014年調査では、概算事業費1700億円、標準工期は11年と見積もられました。

2014年の調査後、JR西日本は建設に前向きな姿勢を示し、2022年度までの中期経営計画では2030年ごろの「夢洲アクセス検討」が記されていました。

しかし、コロナ禍を経て、慎重姿勢に転換。現在の中期経営計画では、夢洲アクセス検討は曖昧な表記になっています。ただ、延伸計画を撤回したわけでもないので、夢洲IRが実現し、高い集客力の施設になれば、再び推進姿勢に転じる可能性もあります。

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答申路線

答申路線は京阪中之島線を西九条から舞洲を経て夢洲まで伸ばすという壮大な案で、総延長は11kmです。2014年調査では事業費3500億円と見積もられています。

すでに京阪は九条延伸をする方針を固めていますし、答申路線は20年前の構想なので、いまから実現する可能性は低いでしょう。にもかかわらず調査をするのは、前述したように、他路線との比較のためとみられます。

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JR西日本の背中を押せるか

ということで、今回の検討会では、これまで公式な調査がおこなわれていなかった京阪中之島線九条延伸について、事業費と採算性を調査し、オーソライズするのが第一の目的と思われます。

それにくわえて、JR桜島線夢洲延伸についても、最新情勢に基づいて調査をしなおすということでしょう。IR事業が本格的に動き出す情勢を受けて、夢洲アクセス鉄道について方向性を定めておこうというのが、この検討会の趣旨とみられます。

おそらく、大阪府市側としては、京阪の九条延伸より桜島線の夢洲延伸に期待しているはずです。桜島線延伸が実現すれば、夢洲から大阪駅まで直通列車を走らせられるからです。行政としてはJRの背中を押したいところでしょう。

ただ、最近のJR西日本は、新型コロナ禍を経て投資に消極的になっている印象があります。桜島線の調査結果がどのような内容になり、それを受けて、JRがどのような姿勢を示すのか。じつは、それこそが最大の注目点かもしれません。(鎌倉淳)


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