東武スカイツリーラインが、有楽町線の延伸区間と直通運転をすることになりました。公表された直通区間はスカイツリーラインから豊洲までですが、線路は東上線までつながっています。どういう運行計画になるのでしょうか。
メトロと東武が基本合意
東京メトロ有楽町線は、豊洲~住吉間で延伸工事に着手しており、2030年代半ばに開業する予定です。「豊住線」とも呼ばれる地下鉄新路線です。
東京メトロと東武鉄道は、この有楽町線新線区間とスカイツリーラインが相互直通運転することで基本合意しました。合意したのは「有楽町線延伸区間(豊洲・住吉間)」と「半蔵門線(住吉・押上間)及び東武スカイツリーライン・伊勢崎線・日光線」の区間です。
スカイツリーラインの列車が、押上から半蔵門線を経由して住吉に至り、さらに有楽町線新線区間(豊住線)に入り、豊洲まで走るということです。
運行計画は「今後検討」
気になるのは、直通運転列車が有楽町線本線にまで乗り入れるのか、さらにはその先の東武東上線や西武池袋線にまで足を伸ばすのか、それとも豊洲止まりになるのかという点でしょう。
また、東武スカイツリーラインから乗り入れてくる列車の種別もポイントです。公式発表では「直通運転区間や運行計画は今後検討」としており、詳細は明らかになっていません。
東武10両なら「急行」か
発表によると、直通列車は10両編成です。東武側で10両編成が停車できる駅は、曳舟~北千住間と、西新井以北の急行停車駅です。したがって、10両編成の列車が直通運転するならば、急行列車が基本になります。
東武スカイツリーラインの日中ダイヤは、北千住以南で急行と普通が各10分間隔、北千住以北で急行が10分間隔、日比谷線直通が5分間隔で運行されています。急行はすべて半蔵門線・東急田園都市線直通です。
現在のダイヤを基に10両編成を有楽町線に振り向けるとすれば、急行(南栗橋・久喜発着)しかありません。急行の一部を豊洲発着にするという形です。
しかし、この場合、半蔵門線直通(半直)の列車が減少してしまいます。それを避けるなら、浅草~北千住間の普通列車の一部を10両化し、豊洲~北千住間の運行にする方法もあるでしょう。ただし、浅草~曳舟間の列車が減少してしまいます。
「半直」の一部を「豊直」に?
東武線内の運行本数を変えないなら、この二つしか選択肢はなさそうです。どちらになりそうかといえば、おそらくは「半直」の急行を減らして有楽町線新線に乗り入れる形(ここでは「豊直」と表記します)になるのではないでしょうか。
というのも、プレスリリースでは、直通運転の効果として「臨海副都心と東京・埼玉東部のアクセス性が飛躍的に向上」することを挙げているからです。埼玉東部のアクセスを向上させるなら、「半直」の一部を「豊直」に振り向けるほかありません。
振り向ける本数ですが、利用者数から考えると、2本に1本を「豊直」にするのは多すぎます。また、「半直」は久喜と南栗橋の交互発着なので、2本に1本とすれば、発着地と乗り入れ先が固定されています。
これに対し、たとえば3本に1本を「豊直」にすれば、交互運行となっている南栗橋と久喜での行き先の偏りが生じません。したがって、現ダイヤを基にするならば、「半直」の3分の1を「豊直」にするとバランスがよさそうです。日中に30分間隔で、有楽町線新線区間に乗り入れるということです。
半蔵門線内は清澄白河発着が復活も?
「半直」が減るなら、メトロ半蔵門線内の列車の手当が必要になります。これについては、押上折り返しの列車を増やせば、半蔵門線内の本数は維持できます。
押上付近の線路容量が問題になるなら、清澄白河折り返しの列車が増えることになるでしょう。
もちろん、直通運転にあわせて、ダイヤを抜本的に変える可能性もありますので、その場合は別の形になるでしょう。
有楽町線本線に乗り入れるのか
10両編成の東武線直通列車が豊洲に来た場合、この列車は豊洲で折り返すのか、それとも有楽町線本線に乗り入れるのかも気になります。
東京メトロは、計画段階から、新線(豊住線)列車の一部を有楽町線本線に乗り入れさせる意向を示しています。ただ、その乗り入れ規模は明らかになっていません。
現在、有楽町線は日中6分間隔の運行で、全列車が新木場に乗り入れています。一部を住吉方面に振り向けると、新木場~豊洲間の運行本数の減少は避けられません。
新木場~豊洲間の利用者数からみれば、本数が少し減っても、輸送力不足にはならないでしょう。運転間隔にばらつきが生じるのが問題ですが、前後の列車のダイヤを調整すれば、10分間隔程度には詰められそうです。
基本合意の区間は豊洲まで
新線(豊住線)から本線への直通列車が運行されるのは確かなようですが、それが東武線直通列車になるのかは別の話です。
ここでプレスリリースを読み返してみると、記された相互直通区間は、「有楽町線延伸区間(豊洲・住吉間)」と「半蔵門線(住吉・押上間)及び東武スカイツリーライン・伊勢崎線・日光線」の区間です。すなわち、本線区間(豊洲~和光市)は含まれていません。
この区間で「基本合意」したということですから、有楽町線本線には乗り入れないことで、話はついていることになります。したがって、その先の東武東上線や西武池袋線に乗り入れる話にもなっていないでしょう。
「相互直通ネットワーク」の意味
プレスリリースには「運行計画については、東京メトロ・東武鉄道及び相互直通ネットワーク各社との協議の上、改めてお知らせいたします」とも記されていて、メトロ、東武以外の直通先とも協議することが示されています。
ただ、メトロ・東武以外の会社は直通運転の「基本合意」に含まれていないのですから、この一文を以て、たとえば西武線に乗り入れる可能性を考えるのは無理があるでしょう。ダイヤを決める上で、メトロ・東武以外の直通先と協議をするのは当たり前なので、その程度の意味と受けとめたほうがよさそうです。
直通区間拡大の可能性は?
ただ、「基本合意」は現時点のものなので、開業までに直通運転区間を拡大する可能性はあるでしょう。そのとき考慮されるのは、「都心へ向かうのに豊洲を経由する人がどれだけいるのか」という点でしょう。
プレスリリースによれば、直通運転により、豊洲~押上間が14分で結ばれます。銀座一丁目~豊洲間が6分、押上~北千住間が9分なので、銀座一丁目~北千住間は29分です。日比谷線を利用すれば、北千住~銀座間が26分なので、「豊直」に優位性はありません。
乗り換えの手間などを勘案しても、スカイツリーラインの「豊直」利用者が直通で乗車するのはせいぜい有楽町までとみられます。永田町なら「半直」が早いので、その点でも、「豊直」が有楽町線本線に乗り入れる意味はあまりなさそうです。
むしろ、乗り入れ会社数の多い有楽町線・副都心線系統に入ることで、ダイヤ乱れがスカイツリー線内にまで波及しやすくなるというデメリットもあります。東上線への直通となると、なおさら複雑なことになりそうなわりに、利用者を見込めません。
特急乗り入れはあるか?
最後に、東武の特急系統が、豊洲方面に乗り入れる可能性についても考えてみましょう。
東武特急の都心側の発着地は浅草です。この一部列車を押上から豊洲を経て、市ヶ谷の留置線で折り返す形での特急に振り向けることはできるかもしれません。
ターゲットは観光客でしょうか。銀座、豊洲、押上(スカイツリー)、日光と、インバウンドに人気の観光地や宿泊地をつなぐ列車なので、外国人観光客の需要はありそうです。
もっと夢を膨らませれば、有楽町線と千代田線は霞が関付近の連絡線でつながっています。これを活用すれば、箱根湯本~東武日光を結ぶ列車の運行も可能です。定期列車としてはともかく、イベント列車などで運行することはできるでしょう。
メトロも東武も前向きで
東京メトロは、当初、有楽町線豊洲~住吉間の建設に消極的でした。しかし、東京メトロ株上場と引き換えという取引に応じる形で、単独事業として建設に合意した経緯があります。
メトロとしては、取引に応じた以上、経緯がどうあれ、閑古鳥が鳴くような結果にするわけにはいきません。その点で、東武スカイツリーラインとの直通運転は、新線区間の利用者増につながる重要な施策と考えたのでしょう。
いっぽうの東武としても、臨海副都心方面へのアクセスを改善させる好機です。メトロも東武も前向きで、東京の鉄道ネットワークがさらに充実しそうです。(鎌倉淳)