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仙台郊外、都市型ロープウェイに実現可能性。富谷市「ジッパー」導入調査の概要

泉中央~明石台

宮城県富谷市が、都市型ロープウェイ「ジッパー」について、導入可能性調査の結果を発表しました。2つのルートで建設が可能で、採算も取れるという結論でした。富谷市では2033年以降の導入を目指します。調査結果の概要をみてみましょう。

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泉中央駅と明石台を結ぶ

仙台市郊外にある富谷市は、仙台市地下鉄の泉中央駅と富谷市明石台を結ぶ新たな交通機関の導入を検討しています。

これまでに、地下鉄延伸や専用地下道によるBRTについて調査を実施してきましたが、さらに、都市型自走式ロープウェイ「Zippar(ジッパー)」も検討対象に加えていました。

その導入可能性調査の結果がまとまり、2025年11月21日に公表されました。

富谷市都市型ロープウェイ「Zipper」
画像:「都市型自走式ロープウェイ導入可能性調査の結果について」(富谷市)

 
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2つのルート案

検討されたルートは仙台市地下鉄の泉中央駅と、富谷市の明石台を結ぶ区間です。県道22号に沿って直線的に向かう案(ルート1)と、将監第一団地を経由する案(ルート2)の2つが検討されました。どちらの案も、中間駅を1~2箇所設置します。

ルート1の距離は約3.45kmです。ルートに将監トンネルがあるため、トンネル上空を並走しなければならず、用地調整や大規模な工事が必要となります。

表定速度を25km/hとした場合、所要時間は片道8分。事業費は約100億円です。

富谷市都市型ロープウェイ「Zipper」
画像:「都市型自走式ロープウェイ導入可能性調査の結果について」(富谷市)

 
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将監第一団地ルート案

ルート2の距離は約4.05kmです。将監第一団地を経由することで一定の交通需要が見込めます。

また、将監トンネルを回避したルート取りであるため、施工面での整備難易度は直線案よりも低いとみられます。

ただし、道路幅員が狭いことなどから、構造物の配置を含めルート取りが難しくなります。表定速度を25km/hとした場合、所要時間は片道10分。事業費は約147億円です。

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黒字確保は可能

いずれのルートでも、途中、高圧送電線の下を横断するという課題がありますが、支柱の高さを調整すれば、敷設は可能としています。

車両基地については、必要車両数が少なければ、起終点駅に車庫や点検場を併設することで対応でき、不要です。一方、車両数が多くなると、駅構内に収容しきれないため、車両基地の用地を確保する必要が生じます。

単年度の事業収支は、運賃をバスと同額の280円、1日の利用者数を10,760人と仮定すると、いずれのルートでも黒字を確保できます。

費用便益比(B/C)や収支採算性については示されていません。

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地下鉄と比較すると

富谷市では、過去に地下鉄やBRT(バス高速輸送システム)の導入調査をしており、概算事業費は地下鉄が354~451億円、専用地下道のBRTが85~208億円となりました。

ジッパーの100億円~147億円というのは、地下鉄より安く、地下BRTと同規模です。

地下鉄の試算は2022年度の数字なので、最近の建設費の急騰を考慮すれば、500億円台か、それ以上になるでしょう。となると、ジッパーは地下鉄に比べ3割程度の相場観となります。

金額としては低めですが、調査前、富谷市の若生裕俊市長は「地下鉄の10分の1で導入できるのが魅力」と発言していましたので、それよりはだいぶ高い印象です。

工期については、今回の調査では示されていませんが、5年程度と見積もられています。地下を掘るといった大規模な土木工事が必要ないため、地下鉄よりは短く済むでしょう。

輸送力については、ジッパーは毎時1,872人と試算されています。単線整備で毎時4本の地下鉄の2,304人に比べれば少ないですが、このエリアなら十分でしょう。

富谷市都市型ロープウェイ「Zipper」
画像:「都市型自走式ロープウェイ導入可能性調査の結果について」(富谷市)

 
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バス運転士不足に対応

ジッパーを敷設しても、仙台市内へ向かうには泉中央駅での乗り換えが必要で、利便性では地下鉄に大きく劣ります。地下鉄を延伸できるなら、それに越したことはありません。

ただ、事業費からみて地下鉄延伸が難しいのであれば、BRTを導入するか、既存バスで済ますのか、ジッパーのようなロープウェイを新設するか、という議論になります。

単純に費用の問題だけなら、既存バスでもよさそうです。しかし、今後、バスの運転手不足が深刻になるのは間違いありません。既存バス路線はいずれ維持できなくなる可能性が高く、BRTでも似たような状況になりそうです。

それを踏まえると、無人運転が可能な点で、都市型ロープウェイ(ジッパー)には価値があります。富谷市は「持続可能な公共交通の実現」を目指していますので、選択肢としてジッパーは十分あり得るでしょう。

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大きな期待

ただし、ジッパーは、現時点で開発中のシステムです。実用化には至っていないため、本当に導入できるかには、不透明感が残ります。

若生市長は21日の記者会見で、国土交通省が事業を認可すればと前置きしたうえで「基幹公共交通を自動運転で担える。大きな期待を寄せているので、実現に向けて取り組んでいきたい」と述べ、導入に前向きな姿勢を見せました。

富谷市では、2033年以降の導入を目指していて、実現すれば、日本初の本格的な都市型ロープウェイになる可能性もありそうです。(鎌倉淳)

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