東急蒲田駅と京急蒲田駅を結ぶ、「東急新空港線」の実現が正式に決まりました。10月3日に、国土交通省が計画を認定し、鉄道事業を許可しました。羽田空港アクセスをめぐっては、2030年代以降に鉄道新線が相次ぎ開業する予定で、大きな変化のときを迎えます。
蒲蒲線の通称も
東急新空港線は、東急蒲田駅と京急蒲田駅を結び、羽田空港へのアクセスを改善する鉄道新線です。二つの蒲田駅を結ぶため「蒲蒲線」との通称もあります。
国交省関東運輸局は、2025年10月3日に、営業主体の東急電鉄と整備主体の羽田エアポートラインが申請した「速達性向上計画」を認定しました。
この申請は、既存施設を活用して都市鉄道の利便性を高める「都市鉄道等利便増進法」に基づくものです。認定を受けたことで、鉄道事業法における鉄道事業の許可を得たとみなされます。つまり、新空港線が鉄道事業許可を得たことになります。
東急蒲田~蒲田新駅0.8km
計画では、東急多摩川線矢口渡駅から、東急蒲田駅を経由し、京急蒲田駅付近に新設する蒲田新駅までの連絡線を地下に建設します。
新線区間は東急蒲田~蒲田新駅の0.8kmで、全体の整備距離は約1.7kmです。総事業費は約1248億円で、2038〜2042年ごろの開業を目指します。

速達列車も設定
東急新空港線が開業すれば、渋谷から東急東横線、多摩川線を経由し、京急蒲田駅で乗り換えて羽田空港に至るルートができます。
計画によると、新空港線の運行本数は朝ラッシュ時に毎時20本程度、日中時間帯は毎時10本程度です。8両編成の速達列車と、3両編成の各駅停車が走る予定です。
8両編成の速達列車は、東横線に直通運転する見通しです。多摩川・新空港線で8両編成が停まれる駅は、多摩川、下丸子、東急蒲田、蒲田新駅となります。
開業後は、中目黒駅から京急蒲田駅は現在の約36分が約23分に、自由が丘駅から京急蒲田駅は同約37分が約15分に短縮します。東京メトロ副都心線などを経由し、池袋や埼玉県南部と羽田空港とを結ぶ新ルートにもなります。
第2期区間は先送り
新空港線は、蒲田新駅までの整備計画が認定されたわけですが、これは全体の整備計画の「第1期区間」にあたります。「第2期区間」として、蒲田新駅からさらに地下を進み、大鳥居駅付近で京急空港線に接着する計画もあります。
そこから京急線に直通すれば、渋谷から乗り換えなしで羽田空港につながります。ただし、両線の軌間の違いもあり、実現性には疑問があり、第2期区間は先送りとなっています。
JR羽田空港アクセス線
羽田空港アクセスについては、新空港線以外についても、新たな計画が進行中です。
最大の計画と言えるのが、JR東日本の羽田空港アクセス線です。「東山手ルート」「西山手ルート」「臨海部ルート」の3つの路線計画があり、東山手ルートは新橋駅と羽田空港を結ぶ計画で、2023年に着工済みです。開業予定は2031年度です。
羽田空港アクセス線東山手ルートが開業すれば、東京駅と羽田空港が直通18分で結ばれます。同社は、東京テレポート駅と羽田空港を結ぶ臨海部ルートも、東山手ルートと同時期の開業を目指しています。実現すれば、羽田空港と新木場駅が20分で結ばれます。
都心部・臨海地域地下鉄
臨海部ルートは東京臨海高速鉄道のりんかい線に乗り入れます。その国際展示場駅付近からは、新たな地下鉄計画があります。都心部・臨海地域地下鉄(臨海地下鉄)で、東京駅と有明・東京ビッグサイト駅(仮称)を結ぶ計画です。りんかい線と同じ東京高速臨海高速鉄道が運営し、2040年ごろの開業を目指しています。
羽田空港アクセス線の臨海部ルートと、臨海地下鉄ができれば、羽田空港駅から国際展示場駅で乗り換えて、晴海や勝ちどきに至るルートができます。
臨海地下鉄はりんかい線の車庫を使用するため、国際展示場駅付近では、両線が直通できる構造になりそうです。すなわち、JR羽田空港駅から国際展示場駅を経て、晴海や勝ちどきへの直通運転も、設備上は可能になるでしょう。
臨海地下鉄は、さらに、つくばエクスプレスにも乗り入れる計画もあります。実現すれば、つくば駅からJR羽田空港駅までレールがつながります。
京急の改良計画
現在の羽田空港アクセス鉄道の主役は京浜急行です。その京急も進化します。羽田空港第1・第2ターミナル駅に引き上げ線2線を設置する計画で、2030年頃の供用開始を目指しています。
また、品川駅の改良工事をおこなっていて、現状の2面3線のホームを、2面4線に拡張します。2027年度ごろに供用を開始し、事業全体の完了は2029年度となる予定です。
品川駅地平化と、羽田空港駅の引き上げ線設置により、京急空港線は毎時3本程度の増発が可能になります。
京成の有料特急
京急線は都営浅草線、京成線と直通運転をしていて、線路は成田空港までつながっています。京成電鉄は、新たな有料特急を、押上~成田空港間で2028年度に運行を開始する予定です。
この特急は、当面は押上発着ですが、羽田空港駅での引き上げ線が2線設置されることにより、羽田空港発着も可能になります。引き上げ線1線を一般列車に充当しても、残り1線を有料特急の折り返しに使えるからです。
そのため、将来的には、押上~成田空港間の有料特急が、羽田空港~成田空港間に拡張される可能性もありそうです。
東京メトロ南北線品川延伸
品川駅では、東京メトロ南北線の乗り入れ工事も進められています。白金高輪~品川間の約2.8kmです。距離は短いですが、開業すれば品川駅と麻布十番や永田町が地下鉄で結ばれます。
羽田空港アクセスという視点でみれば、空港から京急線に乗り品川駅で乗り換えて、麻布や六本木、永田町といったエリアへのアクセスが改善します。
東京パノラマライン
羽田空港への軌道系アクセスの本家本元といえば、東京モノレールです。浜松町駅と羽田空港を結びますが、羽田空港アクセス線が開業すれば、山手線東側からの利用者の多くを奪われます。
また、南北線の品川延伸により、これまで都営大江戸線の大門駅でモノレール浜松町駅に乗り継いでいた、麻布や六本木方面からの空港利用者も、品川経由に奪われるでしょう。新線に空港旅客を奪われて、かつての本家本元も、いよいよ脇役に追いやられそうです。
そうした未来を見越してか、東京モノレールは、新たなネーミングとして、「東京パノラマライン」という愛称を使うこと決定しました。開放的な車窓から眺められる東京の大パノラマをPRする名称です。空港到着客に、眺望観光をかねて都心へ向かってもらおう、というアイデアでしょうか。
大変化の時代へ
羽田空港アクセスは、2030年代から2040年代にかけて、大きな変化を迎えます。時期がはっきりしていませんが、JR羽田空港アクセス線の西山手ルートが開業すれば、羽田空港から渋谷、新宿、池袋方面への直通列車も登場します。
羽田空港に到着した旅客は、東京駅や新宿駅、臨海部方面ならJR線に、品川駅や港区、成田空港、神奈川県方面なら京急線に、ゆったり眺望を楽しみたいなら東京モノレールに乗るようになるでしょう。京急線に乗った旅客は、東急沿線へ向かうなら京急蒲田駅で乗り換えます。
東急新空港線の事業許可は、羽田空港アクセスの新時代を告げる号砲です。東急、京急、JR、モノレールが、ときに競争し、ときに協力しながら、より利便性が高まりそうです。(鎌倉淳)