新潟空港を拠点とする格安航空会社LCCのトキエアが就航準備を進めています。佐渡空港への試験飛行も実施。いまわかっている情報をもとに、どういうビジネスモデルの航空会社なのか、研究してみました。
2022年就航めざす
トキエアの準備会社が設立されたのは2020年7月。新潟空港を拠点として日本各地への路線展開を目指す地域航空会社です。2022年の運行開始を予定しており、新潟空港と佐渡、札幌、仙台、愛知、関西圏などを結ぶ路線や、佐渡空港と首都圏を結ぶ路線の開設を検討しています。
導入を想定する機材は、欧州ATRのターボプロップ機(プロペラ機)であるATR72-600型機(70座席)と、ATR42-600S型機(48座席)。日本経済新聞2021年6月11日付によりますと、このうち、ATR72-600型機について、2022年初頭からの機材リース契約を結ぶ方向だそうです。
5月24日には、成田空港と佐渡空港の間で調査飛行を実施しました。佐渡空港は滑走路が890mと短く、これまではコミューター機しか離着陸できませんでしたが、短距離離着陸性能(STOL性能)に優れた最新鋭機ATR42-600Sが投入されれば、離着陸が可能になります。
羽田空港は60人以下の小型機の乗り入れを制限していますが、成田空港なら就航可能。佐渡空港には現在航空路線がないため、首都圏への路線開設には期待の声が大きいようです。
なぜLCCなのか
トキエアは、格安航空会社「LCC」を標榜しています。LCCに明確な定義はありませんが、一般的には単一機材を高回転率、高搭乗率で運航し、低価格を提供する航空会社を指します。トキエアは、機材を2種類使うようですし、路線的に高搭乗率を期待するのは難しそう。小型機なので、ある程度の客単価にしなければ運航経費をまかなえないのでは、と疑問に思う人もいるでしょう。
小型機を使って地方を拠点に運航するという点では、静岡を本拠とする地域航空会社フジドリームエアライン(FDA)に性格が似ています。しかし、FDAはLCCではありません。トキエアがあえて、「LCC」を標榜するのはなぜでしょうか。
これについて、トキエアの長谷川政樹社長は2020年9月の講演で、FDAが導入している小型ジェット機ERJと、トキエアが導入予定のプロペラ機ATRを比較して、次のように述べています。
「70人乗りタイプ(のATR)は、運航コストのうち、特に着陸料、運航援助施設使用料というところが、(ERJと比べて)65パーセントぐらい低い。運航全体で言いますと、約30パーセント運航コストが下がります。そういう意味で、ジェットではなくプロペラが日本の国内で非常に安く運航できる形態の飛行機と言えます」(「第1回インフラ推進委員会~新潟空港の未来について~報告書」より。括弧内は筆者が加筆)
つまり、プロペラ機(ターボプロップ機)を用いることで、空港関連のコストが劇的に安くなり、「格安航空」が実現できる、ということのようです。
「プロペラLCC」という新業態
同じ講演の座談会で、同社長は「平均単価を1万円で見ています」とも述べました。他の国内LCCと比べると、2019年度データで、ピーチとジェットスターの平均客単価がともに8,300円ですので、既存LCCよりは高めです。一方、FDAとANAは15,500円、JALが15,400円ですので、レガシーキャリアに比べれば安いといえます。
また、搭乗率は「80%を想定」しているとも述べていて、これはLCC並みの搭乗率です。
さらに、「飛行機の滞在時間は25分で設定している」とも述べています。25分の滞在時間(ターンアラウンドタイム)となれば、これもLCC並みです。定員の少ない小型機だからこそ、ターンアラウンドタイムを短くし、機材の回転率を高めることができるのでしょう。
こうしてみると、いままでのLCCとはひと味違う、「プロペラLCC」という新業態を狙っているように思えます。
価格体系がLCC?
利用者側から見ると、「LCC」とは、運賃と各種サービス料金が別で、手荷物や座席指定、機内サービスに別途料金を払わなければならない航空会社、という認識を持っている方が多いでしょう。トキエアがあえて「LCC」と標榜しているのは、こうした「格安航空会社システム」を取り入れるため、と見ることもできます。
すなわち、運賃と手荷物料金、座席指定料金などを分離し、支払手数料などといった手数料を増やし、表示価格を安くすることを狙っているのかもしれません。新潟~仙台のような短距離路線も展開するなら、バス代わりに利用する客も多いでしょうから、こうした料金形態のほうが合理的と考えることもできます。
初就航は?
気になる初就航路線はどこになるのでしょうか。現時点では明らかではありませんが、当初投入機材が70人乗りのATR72-600型機ならば、佐渡への就航は不可能なので、新潟~札幌、仙台、愛知、関西が候補になりそうです。
札幌は丘珠空港への就航をめざしていて、プロペラ機ならではの路線展開といえます。愛知は中部空港のほか、県営名古屋空港も候補。関西は関西空港とは限らず、神戸空港の可能性もあるようです。
ちなみに、上記講演では運用も例示されていて、仙台と関西を1機材で回す形になっていました。となると、仙台、関西(関空または神戸)が初期の就航先の有力候補であることは確かなようです。
まとめると、トキエアは新潟を拠点とする地域航空会社ですが、プロペラ機で低価格を狙う、新しいビジネスモデルの航空会社といえます。新潟を中心に新幹線アクセスがしづらい都市に向けて、ネットワークを広げていきそうです。(鎌倉淳)