東武鉄道の特急列車「スペーシア」が、初めてJR上野駅発着で運転されます。その名も「スペーシア上野日光」。インバウンド向け列車のようですが、9月に1往復だけの設定です。なぜ運転されるのでしょうか。
9月6日と7日に運転
「スペーシア上野日光」は、2025年9月6日(下り)と7日(上り)に、JR上野~東武日光間で運転します。東武100系6両を使用し、全車指定席です。
「スペーシア上野日光」の時刻表は上野12時発、東武日光13時59分着。東武日光17時02分発、上野19時05分着です。所要時間は下り1時間59分、上り2時間3分です。
棲み分けを崩す列車
「スペーシア」は東武鉄道の特急型車両で、おもに東武線の浅草~東武日光・鬼怒川温泉間で運転されています。JR線には、一部列車が新宿に乗り入れているだけです。
新宿は、東武鉄道のターミナルである浅草から離れています。JRが新宿発着、東武が浅草発着という形で長らく運行が続けられていて、いわばエリアの棲み分けができていました。
これに対し、上野は浅草と目と鼻の先です。そこにJR線直通の「東武特急」が運転されるわけで、これまでの棲み分けを崩す列車となります。
インバウンドに人気のエリアを直結
当然、JR・東武両社の合意のうえで運転するわけですが、その目的はインバウンド対応のようです。
日光はインバウンドに人気の観光地ですし、上野は成田空港アクセスがよく、東京の宿泊拠点としてインバウンドに人気です。インバウンドに人気の両エリアを直結する特急列車という位置づけでしょう。
また、上野は京成「スカイライナー」の発着地です。そのため、日光の空港アクセス改善という効果も見込めます。たとえば日光からダイレクトに成田空港に向かう場合、「スペーシア上野日光」と「スカイライナー」を組み合わせれば、スムーズに旅行できます。
東北新幹線から在来線へ
上野近辺からJR線を使った日光アクセスは、インバウンドの場合、東北新幹線で宇都宮まで出て、日光線の普通列車に乗り換える形が基本です。この経路なら、ジャパンレールパスなどのJR鉄道パスが利用できますので、パス利用の外国人旅行者に人気です。
ただ、JR東日本としては、東北新幹線の東京~大宮間の容量が逼迫するなかで、貴重なリソースを上野~宇都宮間で食われてしまいますし、日光線の混雑も問題になっています。旅行者側からみても、宇都宮での乗り換えは面倒ですし、日光線で着席保証がない点も使いづらいでしょう。
こうした課題を背景に、東北新幹線・日光線のインバウンド旅客を、在来線・東武線に移そうという試みが、「スペーシア上野日光」と考えられます。
外国人パスでも利用できる
外国人パスの問題については、JR東日本では、独自に販売している「JR東京ワイドパス」などのエリアパスで、東武線直通列車の東武線区間を別途料金なしで乗車できるようにしてあります。
そのため、エリアパス利用者は、「スペーシア上野日光」なら、乗り換えも別途料金も必要なく、上野から日光にアクセスできます。
東武側からみれば、東北新幹線経由の利用者を、栗橋以北で自社線利用に引き込める効果が期待できます。浅草発利用者が上野発利用に移るマイナスがあるかもしれませんが、上野発は運賃・料金が浅草発よりだいぶ高いため、非パス利用者の遷移は小さいでしょう。
つまり、全体として東武線利用者の増加が見込まれ、東武の利益にもなると考えられます。
秋以降に本格運行か
ただ、「スペーシア上野日光」の運転は、9月の1往復だけ。試験的な運転としても、本数が少なすぎます。しかも、日本人が利用しやすい土日の運行ですから、インバウンドではなく、鉄道ファンに座席を買い占められてしまいそうです。
そもそも、この運転本数で「インバウンドに活用してもらう」のは無理があります。インバウンドは平日利用が多いので、週末だけの運転では、需要調査にもならないでしょう。
したがって、今回は、本気でインバウンドに利用してもらうというより、オペレーションの確認をおこなうのが主目的なのかもしれません。紅葉シーズンの秋以降に、本格運行となるのでしょうか。(鎌倉淳)