SL「やまぐち」号の旧型客車復刻が素晴らしすぎる件。新しい形の保存鉄道に期待!

JR西日本はSL「やまぐち」号向けに、新型客車5両(5両編成1本)を新製すると発表しました。2017年9月の投入を予定しています。新型車両と言っても、旧型客車の復刻で、これが、なかなかのプロジェクトになりそうです。

広告

12系レトロ車両を置き換え

SL「やまぐち」は、山口線の新山口~津和野間で運行されているSL列車です。運行開始は国鉄時代の1979年で、JRのSL保存列車としては最古の歴史を誇ります。通常はC57形蒸気機関車(C57 1)が5両の客車を牽引。以前は青色の12系客車を使用していましたが、現在は茶色のレトロ調改造12系客車が使われています。それを置き換える形で、新型客車を製造するようです。

JR西日本は、持続的なSL動態保存に取り組んでいく方針を示しており、今後数十年程度にわたって、SL運転を継続していくことを明らかにしています。そのため、SLの解体検査に特化した専用検修庫の新設や、D51の本線運転の復活をすでに決めており、今回の新型客車の製造も、そうしたJR西日本の方針に沿った動きといえます。

SLやまぐち復刻

宮脇俊三も憧れた?

新しい客車のコンセプトは「SL全盛期の雰囲気を、お子様連れ等のお客様に快適にお楽しみいただける」ものだそうで、要するに子ども連れに旧型客車体験をしてもらうのが最大の目的のようです。そのため、新型客車はSL全盛期に運用されていた客車をモチーフにしたもので、「旧型客車復刻」という形になりました。

新山口方の1号車は、1938年製の1等展望客車・マイテ49形を模した車両です。マイテ49は、東京~下関間の特急「富士」に使用するために製造された展望車で、宮脇俊三も憧れた車両かもしれません。2人用と1人用の回転リクライニングシートが基本配列で、一部はボックスシート。車両の端部には展望デッキと展望室が設置されます。「やまぐち」号ではグリーン車として用いられます。

SLやまぐち復刻
SLやまぐち復刻

2~4号車は、1939年から製造が始まった3等客車のオハ35形をモチーフにした普通車。
オハ35形は、戦前・戦後を通して全国で運用された客車です。大きなガラスを使用した側窓や、鎧戸に代わり採用された巻き上げ式カーテンが特徴で、車内は4人用ボックスシートが並ぶ昔ながらの雰囲気です。3号車には「SLを体験・学べるフリースペース」と販売カウンターが設置されます。

SLやまぐち復刻

5号車は1927年から製造された、3等客車のオハ31形をモデルにした普通車。オハ 31 形は本格的な鋼製客車として量産された戦前を代表する客車です。当時は大きなガラスを製造する技術が進歩していなかったため、窓が小さいのと、リベット接合、二重屋根が外観上の特徴です。こちらも4人用ボックスシートですが、画像を見ると背もたれにモケットがありません。車両端部には1号車と同様、展望デッキを設けられます。

SLやまぐち復刻

現代の法令に適合

全ての車両にベビーカー置き場が作られ、5号車には多目的室も設置されます。車椅子対応席は5号車です。トイレと洗面所は3号車を除く全ての車両に設置され、このうち5号車のトイレはバリアフリートイレになります。これらの措置は、子ども連れや身体障害者への配慮によるものですが、新造車両はバリアフリー法に適合する必要があるため、という側面もあるのでしょう。

現代の法令で運転をする以上、戦前の客車をそのまま作り直してさせて走らせるわけにはいきません。そのため、「旧型客車を模したレプリカ」という形にしたのでしょう。過去の客車を現代の法令に適合させてよみがえらせるという作業は、おそらく簡単ではないはずです。

こうした「復刻」は、「単なる鉄道車両の保存」から踏み出した、新しい一歩のように思えます。昔の保存車両を走らせ続けても、いつかは壊れます。それを避けるため、保存するだけでなく、昔の車両を模した新型車両を作り、鉄道全盛期の雰囲気を後世に伝えるというのは、とても大切なことではないでしょうか。新しい形の保存鉄道として期待したいところです。

駅施設も改修

新型客車の導入にあわせ、「やまぐち」号停車駅のうち新山口・仁保・地福・津和野各駅が改修されます。新山口駅のSL停車ホームの床面と地福駅の駅舎は「昭和初期レトロ調」となり、SLと雰囲気が合わされます。仁保駅はホーム待合室を移設し、SL列車が急勾配を控えて準備作業を行っている風景を見学できるスペースが作られます。

こうしたオーダーメイドの車両を新製して1日1往復の快速列車に投入し、駅施設の整備まで行ったところで、採算が取れるまでは時間がかかりますし、そもそも大きな利益が得られる事業ではないと思われます。それでもこうした試みを行うJR西日本は素晴らしすぎる。JR西日本の試みに拍手して、応援したいと思います。

広告