誰がスカイマークを殺したか。遠因をたどれば「JAL破綻処理」に行き着くのでは?

スカイマークが民事再生法の適用を申請しました。投資ファンドのインテグラルが当面の資金を融資し、運航は継続されます。国内航空大手の経営破綻は、2010年に会社更生法の適用を申請した日本航空以来5年ぶりとなります。負債総額は、710億円とのことです。

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直接要因は搭乗率低迷

スカイマークの経営破綻の要因はいくつもあるでしょう。A380とA330導入の失敗、原油高騰、円安、LCCの台頭、大手航空の割引運賃拡充など、さまざまな要因が浮かびます。

直接的には、最近の搭乗率低迷が最大要因とみられます。搭乗率低迷が手元資金の流出を招き、資金繰りに行き詰まったようです。もし搭乗率を一定以上に維持することができていれば、資金流出を防ぐことができ、もう少し粘れたはずです。粘っているうちにJALやANAとの共同運航が実現し、持ちこたえることができたかもしれません。

スカイマーク

A380とA330の導入失敗が直接要因

さらに破綻原因を突き詰めれば「エアバスA380とA330の導入を同時期に進めたこと」に行き着くのではないでしょうか。仮に「A380計画」だけだったなら、それが失敗しても国内線をB737のみで運航し続けて、一定の搭乗率を維持できていたでしょう。あるいは、「A330導入」だけだったなら、A380にまつわるトラブルは起こっていなかったはずですから、当面は乗り切れたはずです。どちらかの失敗だけだったら、経営破綻までには至らなかったのではないでしょうか。

「どちらもやらなきゃよかった」という意見もあるでしょうが、企業が新領域へチャレンジすること自体は否定すべきものではないと思います。リスクの大きな2つの事業に同時に挑んだのが、経営破綻の要因になったのでは、ということです。

LCCに負けたのか?

「スカイマークはLCCとの競争に敗れた」などという表現も目にすることがあります。スカイマークの利用者が、より低価格のジェットスターやピーチに流れたのは事実でしょう。

ただ、そのLCCは赤字を垂れ流しながら運航を続けてきました。とくに首都圏需要で競合するジェットスターは、200億円以上の累積赤字を垂れ流して低価格を続けてきました。LCCが黒字経営でスカイマークを追い込んだのならともかく、「赤字上等」で運航し続けるジェットスターを持ち出して、「スカイマークはLCCとの競合に敗れた」と表現するのはフェアではない気がします。

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JAL再上場後にスカイマークの業績悪化

そのジェットスターの赤字の補填をしているのは親会社のJALですが、JALは5年前に経営破綻したはずの企業です。巨額債務で破綻したはずのJALが蘇り、低価格のLCCに資本をつぎ込み、ついに無借金経営だったスカイマークを倒してしまったわけです。

スカイマークが最高益を記録したのが2012年3月期決算で、JALが再上場を果たしたのはその2012年です。JALが再上場した2012年度からスカイマークの業績が悪化しはじめているわけです。

背景として、この時期から、JALの早期割引運賃が低価格になってきた印象があります。はっきりとしたデータはありませんが、再上場で蘇ったJALが、低価格攻勢でスカイマークの利用者を直接奪ってきたとみることができるかもしれません。

8.10ペーパーが追い打ちで

スカイマークは経営悪化の最終局面で、JALとの共同運航を模索します。しかし、ここでは国土交通省の横槍が入ります。その根拠が、JALが再上場に際して課せられた「8.10ペーパー」です。衆院選のあおりで共同運航に関する結論が先送りになったあげく、なんとかANAも巻き込んだ共同運航が決まったところで手元資金が尽きて、経営破綻に至りました。

8.10ペーパーは、「公的支援によって航空会社間の競争環境が不適切に歪められていないか」を監視する内容で、JALの新規投資、路線開設を規制しています。そのため、羽田国際線枠の配分で、ANAに大きなメリットをもたらしました。

ただ、どういうわけかLCCへの出資は規制されていないようで、スカイマークは8.10ペーパーで何のメリットもなかったように見受けられます。むしろ、最終局面では8.10ペーパーに足を引っ張られ、経営再建のチャンスを逸することになりました。

西久保社長の責任は?

こうしてみてみると、スカイマークを破綻に追い込んだのは、結局JALの破綻処理だったのではないか、と思わずにはいられません。JAL自身が悪いというよりも、問題があったのは、スキームを作ったさまざまな人たち、ということになるのでしょうが。

スカイマークの破綻では、もちろん社長である西久保慎一氏の責任がもっとも大きいでしょう。西久保氏の経営判断の誤りがそもそもの要因であることに間違いはありません。とはいえ一方で、西久保氏は巨額の私財をスカイマークに投じ、ここまで育てた実績のある経営者であることも事実です。

昨年秋頃からの、国土交通省やマスコミも巻き込んだ混乱劇を見るにつけ、責任を西久保氏に全部押しつけておしまい、というほど単純な構図でもないように思えます。いかがでしょうか。

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