成田空港アクセスで、京成「スカイライナー」のシェアが急激に伸びています。空港利用者の増加にともない、10年後にはピーク時の混雑率が100%を超えるという試算も示されました。
13%から19%へ
京成スカイライナーは、京成上野~成田空港間を結ぶ空港アクセス特急です。8両編成の列車が、同区間を片道43分で結んでいます。
成田国際空港アクセス交通実態調査によりますと、成田空港の出発旅客における京成スカイライナーのシェアは、2024年で19%。前回調査(2018年)の13%に比べ6ポイントも増えました。京成スカイアクセス線は8%で、2ポイント増。京成本線は9%で横ばいです。
JR「成田エクスプレス」のシェアは14%、JR成田線(普通・快速列車)は5%で、いずれも前回調査と変わりありませんでした。鉄道でシェアを落とした路線はなく、鉄道全体が好調といえます。
バスはシェアを落とす
いっぽう、シェアを落としたのがバスです。「LCB」と言われる格安バスは3%で、前回比2ポイント減。LCB以外の空港バスは10%で、前回比9ポイント減となっています。
いわゆる「リムジンバス」だけでなく、「エアポートバス東京・成田」のような格安バスの利用者も伸び悩んでいることがうかがえます。バス全体のシェアは24%で、前回の35%から大きく数字を落としました。
その理由は、バスが不人気というよりも、運転士不足で思うようにダイヤを組めないことが影響しているように感じられます。
なお、この調査は出発旅客に対するものです。空港アクセスの性質として、出発旅客は定時性の高い鉄道を選ぶ傾向があるため、到着旅客も含めて調査すれば、バスのシェアはもう少し高いとみられます。
ただし、前回調査との比較については同条件ですので、成田空港アクセスにおいて、バスのシェアが低落傾向にあることは確かでしょう。
増便は限界に近づく
大きな傾向でいえば、バスの利用者を京成スカイライナーが奪っている構図が見て取れます。
京成スカイライナーは、2018年3月ダイヤで下り29本、上り30本だったところ、2024年3月ダイヤでは下り41本、上り42本となっていて、大幅に運転本数が増えています。増便に見合う利用者増があったことがうかがえます。
ただ、現状のダイヤで、スカイライナーは終日でほぼ20分間隔の運転となっていて、これ以上の増便には限りがあります。今後、空港利用者が増えれば、現状の運転本数では、スカイライナーで運びきれなくなるおそれがあります。
滑走路増設で利用者増
成田空港は滑走路の増設を控えていて、今後も利用者が増える見込みです。当然、鉄道利用者も増えるでしょう。
国土交通省の「今後の成田空港施設の機能強化に関する検討会」の資料によれば、空港利用者(航空旅客&空港従業員)における鉄道利用者数は、2023年度に1日約8万3000人です。
これが2035年度には13万人に、2042年度には15万人に達すると推計しています。それぞれ、1.6倍、1.8倍に増えるわけです。
2030年代前半には積み残しも
このうち、スカイライナーの利用者数は、2023年度に17,000人で、鉄道利用者数の20%を占めています。これは、前出の出発旅客のアンケートの数字ではなく、実際の利用者数です。
今後は、2035年度には27,800人、2042年度には35,300人に増えることが見込まれています。スカイライナーの利用者数は、20年で2倍になるわけです。
スカイライナーの列車定員は398人ですから、42往復で1日33,432人(往復計)が輸送力の上限で、2030年代半ばには、目一杯乗せなければ運びきれなくなるでしょう。
実際、国土交通省では、2030年代前半にスカイライナーのピーク時混雑率が100%を超え、2040年代前半には150%を超えると予想しています。
スカイライナーは定員制ですので、混雑率100%超えというのは積み残しを意味します。つまり、あと10年以内に、ピーク時に積み残しが発生する恐れがあると予想しているわけです。
アクセス特急や京成本線も
これは、JRの「成田エクスプレス」も同様で、2030年代にはピーク時の混雑率が100%を超えると予想しています。
空港アクセス鉄道は、当日駅に予約なしで訪れても、来た列車か、せいぜい次の列車に乗れるくらいの輸送余力が必要です。実際、いまのスカイライナーは、その程度の空席状況になっています。
しかし、近い将来の成田空港では、そうした状況ではなくなってしまうわけです。
それだけでなく、京成のアクセス特急や、本線特急も、2030年代前半にはピーク時の混雑率が150%に達し、2040年代後半には、ピーク時以外でも150%に達する恐れがあるとみています。
複線化が必要に
列車の混雑率を緩和するには、増車か増発しかありません。京成スカイライナーは現在8両ですが、京成の主要駅のホームは10両対応になっているため、増車は可能でしょう。
ただ、それだけでは、定員が3割程度増えるにとどまり、2倍に増える勢いの利用者を捌ききれません。となると、増発が必要になりますが、そのためには、線路容量を増やさなければなりません。具体的には、空港周辺に残る単線区間を複線化する必要があります。
成田空港では、滑走路増設に対応する新ターミナルの建設計画があり、駅も移設する予定です。
国土交通省では、「今後の成田空港施設の機能強化に関する検討会」で新ターミナル建設にあわせて、成田空港付近の鉄道の単線区間の複線化について検討する方針を示しています。
まだ具体案は出ていませんが、複線化には時間がかかるので、のんびり議論している時間はなさそう。なるべく早く着手する必要がありそうです。(鎌倉淳)