先日、志賀高原焼額山スキー場を訪れたときのこと。焼額山はプリンスホテルの運営ですが、そのリフト券売り場に奇妙な張り紙がありました。正確な文言は忘れましたが、「焼額山リフト1日券は、宿泊者以外の方は利用できません」という趣旨の内容でした。宿泊客以外は、志賀高原スキー場全山で滑れる共通券しか販売しないということです。
共通券にもエリア券にも割高感
訪れたことのある人はご存じでしょうが、志賀高原スキー場は19あるスキー場の総称で、単体のスキー場ではありません。リフトは全部で52基ありますが、その運営は6社に分かれています。志賀高原索道協会が全山共通のリフト券を発行していて、これを買えば志賀高原19エリアの全てを滑れます。
共通券はたしかに便利ですが、日帰り客に対してエリア券を販売しない、というのは、スキー場事業者の利益を考えた場合に不思議な施策です。掲示そのものもどこか恨めしげで、「志賀高原のスキー場事業者同士で何かがあったのだな」と感じさせる文言でした。ちなみに、志賀高原全山共通1日券は大人4800円ですが、焼額山エリア1日券の宿泊者価格は大人4200円です。共通券も高いですが、エリア券にも割高感があります。感覚的に3700円くらいが妥当でしょう。
隣の一の瀬エリアでエリア券を買おうと思ったら、こちらもリフト券売り場の価格表にエリア券の掲示がありませんでした。価格表に書かれているのは共通券だけです。仕方なくポイント券(回数券)を買いましたが、窓口の中を覗くと、紙のメモにエリア券の価格が書かれていました。なぜ客から見えない場所にエリア券の価格が書かれたメモがあるのだろう、とこれまた疑問に思ったものです。
自由にエリア券を販売できなかった
どことなくアンタッチャブルな雰囲気のあった、志賀高原のエリア券。その事情がようやく飲み込めました。カルテルがあったのです。2月19日、公正取引委員会は、リフト券の販売でカルテルを結んでいる疑いがあるとして、リフト共通券を発行する志賀高原索道協会に対し独占禁止法違反(事業者団体による競争制限)で警告しました。
具体的には、加盟の各リフト会社が自社エリアのみのリフト券を販売するには索道協会への報告が必要で、料金も索道協会主導で決めていたとのことです。つまり、各エリアは自由にエリア券を販売することができなかったのです。さらに、2013年7月以降は、一部のエリア券はツアー商品とのセット販売のみが認められ、自社のリフト券売場での単独販売が禁止されたそうです。
リフト会社間で確執か
公取委が警告した禁止内容と、焼額山の恨めしげな掲示の内容は一致します。警告に至った事情はわかりませんが、おそらくは共通券だけを売りたいリフト会社と、エリア券を売りたいリフト会社の確執があったのでしょう。
1日共通券の4800円は、リフト券としてはやや高額です。利用客からすれば全エリアを滑れなくてもいいので4000円前後でエリア券があれば利用しやすいでしょう。とくに、志賀高原のなかでも独立性が強く大規模な焼額山エリアや奥志賀高原エリアは、エリア券の商品力は高いといえます。日帰りのニーズも多いでしょうし、それを供給したいリフト会社もいたのに、販売できなかったというのは、とても残念なことです。
人気のないエリアを守るため?
カルテルはリフト事業者間での価格競争を避ける目的だったようで、簡単にいえば志賀高原のなかでも人気のないエリアを守るためだったのでしょう。志賀高原という広大なエリアの魅力を維持するには弱いスキー会社を保護してリフトの連絡を守らなければならない、という事情も透けてみえます。もし一社でも経営が行き詰まりリフトが停止すれば、志賀高原全体のツアーができなくなり、志賀高原エリアの大きな魅力が失われてしまいます。
しかし、一方で、志賀高原のリフト券は高い、というイメージを利用者に植え付け、志賀高原全体の競争力を下げていた可能性もあります。「エリア券」を買わせない仕組みにはやはり問題があり、利用者はもとより、志賀高原の事業者全体の不利益になっていたのではないか、と思います。
選択肢の多さがスキーエリアの魅力に
利用者の立場からすれば、奥志賀や焼額山にエリア券があれば、それで1日楽しめますので、日帰りスキーのターゲットとなるでしょう。また、初心者なら共通券など要りませんから、緩斜面が多い一の瀬エリア限定のリフト券で練習するほうが合理的です。こうした選択肢の多さこそが、スキーエリアの魅力につながると思うのです。
今回のカルテル警告を機に、志賀高原の6リフト会社が切磋琢磨して競争し、よりよいスキーエリアを作ってくれることを祈りたいものです。