東京国立博物館の特別展「三国志」が開幕しました。最新の発掘成果に基づいた三国志の世界の再現が試みられています。みどころをざっとご紹介しましょう。
展示物160点
いまさら言うまでもありませんが、「三国志」とは2~3世紀の中国の歴史書です。魏・呉・蜀の三国が覇権を争い、明代には『三国志演義』という小説が書かれて、現代に至るまで親しまれています。
その三国志をテーマにした展覧会が、東京と九州の両国立博物館の特別展「三国志」です。主に中国から運ばれてきた160点が展示されています。
曹操高陵を再現
中国の三国時代の遺跡の発掘では、近年、新発見が相次いでいます。なかでもニュースとなったのが、2009年に曹操の墓と特定された「曹操高陵」。展覧会では、曹操高陵の墓室を実物大で再現した部屋が作られ、最大のみどころとなっています。
これは、写真ではなかなか伝えきれません。
「再現墓」の中心に置かれているのは、白磁。
これまで白磁は6世紀後半に出現したとされていましたが、3世紀に葬られた曹操の墓から白磁が出土したとなると、誕生がかなり遡ることになります。
曹操の墓と特定できたのは、「魏の武王」と書かれた石牌が出土したからです。その貴重な品も、展示されています。
赤壁の戦い
「三国志」のハイライトといえば、赤壁の戦いです。孔明が10万本の矢を集めた「草船借箭の計」をイメージした展示がこちら。
古代の戦争の雰囲気を感覚的に体験できるように、展示が工夫されているわけです。
惜しむらくは「連環の計」に関するビジュアルがあれば見たかったのですが、残念ながら見当たりませんでした。
「伝国の玉璽」はありませんが
三国志で孫堅が手にしたとされるのは「伝国の玉璽」。残念ながら、それは失われてしまいましたが、曹操の一族である曹休墓からは、印が出土しています。その「曹休印」がこちら。
「伝国の玉璽」には、きっと及ぶべくもないのでしょうが、当時の印がどのようなものだったかはわかります。意外と小さいです。
董卓の車列?
曹休印のように、「三国志」に登場する英雄たちにダイレクトにつながる展示品は多くありません。ただ、同時代の出土品を用いて、当時の様子を想像させる展示は多く見られました。
たとえば、こちらは、後漢末の青銅製の車列。涼州の有力者の墓から発掘されたものです。涼州といえば董卓。董卓の車列もこんなふうじゃなかったのか、と想像できます。
張飛の蛇矛?
こちらは、張飛の蛇矛のレプリカ。
『真・三國無双』シリーズ出典で、コーエーテクモゲームス監修だそうです。こういうものまで展示に混ぜてしまう、思い切りの良さが素敵です。
献帝の余生
三国時代の中国大陸の生活が感じられるような出土品の展示も多数ありました。
こちらは、五層穀倉楼という、物見櫓を備えた穀倉です。
2世紀のもので、河南省焦作市という場所で出土しました。ここは後漢・最後の皇帝である献帝が退位後に余生を過ごした地域で、こういう環境で暮らしていたのではないか、とイメージできるわけです。
宴会の杯
こちらは、2世紀の耳杯。
当時の人は、こうした器で酒を飲んだそうで、当時の宴会の様子が目に浮かびます。張飛はこんな小さな杯ではなく、壺からそのまま呑んだのではないか、とも思いますが…。
軍船模型
一方、こちらは軍船模型。2015年に復元されたものです。後漢末の長江下流では、こうした「楼船」で戦いが行われていたようです。
人形劇『三国志』も
川本喜八郎の人形劇『三国志』の人形も展示されています。アラフィフ以上の方には懐かしいのではないでしょうか。
出品機関の所在地図もあり、旅行の際の参考になるかもしれません。
幅広い展示内容
全体を通してみると、「三国志」というポピュラーなテーマだからか、物語を読んだことのある人には展示物1点1点の意味を捉えやすい、というのが、この展示会の特徴になっています。
創作である『三国志演義』や横山光輝『三国志』、はてはコーエーテクモゲームスの『真・三國無双』まで持ち出して、史実と創作をボーダーレスに紹介しています。
第四勢力の公孫氏や、日本との関わりにも触れていて、たんなる『三国志』『三国志演義』の世界にとどまっていない、展示の幅の広さも魅力です。研究員のやる気がとても感じられる展覧会です。
また、20世紀末から21世紀に発掘された、新しい出土品が多いことにも気づかされます。経済発展が著しい中国で、古代史研究が近年大きく進展していることを感じられるのではないでしょうか。最新研究の成果が楽しめるという点でも、魅力的な構成になっています。
見学2時間程度
特別展「三国志」は、東京国立博物館で2019年7月9日~9月16日の開催。九州国立博物館で2019年10月1日~2020年1月5日の開催です。開館時間は9時30分~17時。金・土曜は21時まで。
見学の所要時間は、混雑していない状態で2時間程度でしょうか。混雑時にはもっと時間がかかるでしょう。