りんかい線を運営する東京臨海高速鉄道が、新たに建設される臨海地下鉄の営業主体となる方針が決まりました。臨海地下鉄とりんかい線が一体運営されることを意味しますが、その影響について考えてみましょう。
東京都など3者が合意
東京都は、新たに建設予定の「都心部・臨海地域地下鉄」(臨海地下鉄)について、整備主体を鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)とし、営業主体を東京臨海高速鉄道として、事業計画の検討を行うことで3者が合意したと発表しました。
臨海地下鉄は、東京駅を起点に新銀座、晴海、豊洲市場を経由して有明・東京ビッグサイト(駅名は全て仮称)に至る6.1kmの新線計画です。全7駅を設置する予定で、2022年11月に事業計画を公表。総工費4200億〜5100億円を見込み、2040年までの開業を目指します。
いっぽう、東京臨海高速鉄道は、りんかい線新木場~大崎間12.2kmを結ぶ路線で、JR埼京線・川越線と直通運転をしています。
国際展示場駅で接続
臨海地下鉄終点の有明・東京ビッグサイト駅は、りんかい線国際展示場駅に隣接します。したがって、両線を東京臨海高速鉄道が営業するのであれば、臨海地下鉄の終点駅はりんかい線国際展示場駅と統合され、一体化される可能性が高いでしょう。
とはいえ、現時点で、臨海地下鉄とりんかい線は、国際展示場前駅付近で直角に交差する計画です。そのため、両線のホームを並行にする、いわゆる2面4線の構造にはできません。
できるとすれば、地下通路で接続し、改札内乗り換えにすることまででしょう。
レールはつながるのか
ただ、臨海地下鉄はまだ計画段階なので、細かいルート変更は可能です。両線が同一営業主体になることで、どのようなことが起こりうるか、考えてみましょう。
最大の注目点は、国際展示場駅の構造も含め、両線の線路がつながるか、という点です。
りんかい線は、建設中のJR羽田空港線に乗り入れて、羽田空港まで直通運転をする計画があります。したがって、臨海地下鉄ともレールがつながれば、東京駅から臨海地下鉄・りんかい線を経て羽田空港まで直通列車を走らせることが可能になります。
臨海地下鉄はつくばエクスプレスとの直通運転計画もあります。全て実現すれば、つくば~羽田空港間の直通列車も運転できるようになります。
「接続を今後検討」
2022年に公表された臨海地下鉄の事業計画案には「羽田空港への接続を今後検討」と明記されています。
この「接続」の意味は曖昧ですが、乗り換えによる接続ではなく、直通運転も検討の範囲内にあることは確かでしょう。
そもそもの事業計画に「羽田空港への接続」と書かれているのですから、りんかい線と臨海地下鉄が同一営業主体になることが決まれば、両線のレールをつなげる可能性は高まったといえます。
ただ、臨海地下鉄は、将来的に、中央防波堤(海の森)方面への延伸が検討される可能性があります。現時点では遠い将来の課題にとどまりますが、りんかい線と線路をつなげる場合も、将来的に延伸可能な構造にするとみられます。
車庫問題を解決か
りんかい線と臨海地下鉄のレールをつなげることは、羽田直通以外のメリットもあります。りんかい線の八潮車両基地(品川区)を臨海地下鉄が使用できるようになることです。
同一事業者による一体運営となれば、八潮車両基地を臨海地下鉄とりんかい線が共用するのが効率的です。
臨海地下鉄計画は、沿線に車庫用地がないことが課題です。つくばエクスプレスとの直通運転計画があるので、茨城県方面に車庫を作ることも検討されるでしょうが、都内の車庫が使えるのであれば、そのほうがいいでしょう。
八潮車両基地の容量を拡大するための措置が必要になるでしょうが、ゼロから作るよりも安いでしょうし、共用することで、両線全体の維持費も節約できます。
JR東日本の買収は難しくなる?
東京臨海高速鉄道には、JR東日本による買収も取りざたされてきました。実現してこなかったのは、全線開通後、同社が約2400億円に達する有利子負債を抱えていたことが一因とみられています。JR東日本が買収する場合、それを引き受ける必要がありますが、JRのネットワークに組み込むと、負債に見合う運賃収入が得られにくいという問題がありました。
東京臨海高速鉄道が高めの独自運賃を設定したことに加え、利用者が増えたことで、債務返済は進んでおり、2022年度の長期債務は1031億円にまで減りました。近年の同社の営業成績は好調で、2022年度は95億円を返済。順調ならあと10年ほどで完済できます。それを視野に、近い将来、JR東日本が同社を買収するのではないか、という観測も浮上していました。
しかし、同社が臨海地下鉄の営業も引き受けるならば、状況は変わります。新線は上下分離で建設され、おそらくは国と都が建設費の一定割合を同率で負担し、残りを鉄道・運輸機構が負担して、鉄道会社が施設使用料を支払うといったスキームになるとみられます。
JR東日本が東京臨海高速鉄道を買収するなら、臨海地下鉄の使用料もJRが払うことになります。同社として、臨海地下鉄はとくに必要のない路線のため、その使用料を支払い続けることを受け入れるかというと、難しいかもしれません。
ハードルは高くない?
一方で、臨海地下鉄の区間を考えると、買収のハードルはそんなに高くないのでは、という気もします。
りんかい線はJR線とJR線の間を走るため、直通運転の場合、運賃収受が困難という問題があります。それに対し、臨海地下鉄はJR線が両側に存在するわけではありません。
そのため、運賃の取りっぱぐれが生じないので、加算運賃を設定すれば施設使用料の手当はできます。そう考えると、JRとして、臨海地下鉄を営業区間に組み入れても、資金回収は可能です。
西山手ルートに課題
JRが買収しなければ、りんかい線は、将来的にもJR東日本から独立した鉄道路線として存続していくことになります。その場合、りんかい線の運賃収受の都合上、新木場駅の改札を残す必要があり、りんかい線と京葉線の直通運転計画は棚上げのままで終わりそうです。
JRがりんかい線を買収しないのであれば、新たな懸念材料として浮上するのが、羽田空港アクセス線西山手ルートの運賃収受問題です。
同ルートでは、羽田空港からの列車が、りんかい線の大井町を経て埼京線に乗り入れます。この場合、たとえば羽田空港~新宿間の利用者は、東京駅経由(東山手ルート)か大井町経由(西山手ルート)か、自動改札では判断できません。したがって、りんかい線の運賃を正しく収受するのが難しくなります。
この問題は、JR東日本が東京臨海高速鉄道を買収することで解決されるとみられていました。しかし、それが実現しないのであれば、西山手ルートの新たな課題となります。
都が売らない?
東京臨海高速鉄道の筆頭株主は東京都で、じつに91.32%の株を保有しています。JRが買うといっても、都が売らない可能性もあります。
りんかい線は、あと10年もすればドル箱路線になりますので、わざわざJRに売る必要はないという判断です。
JRに売ってしまって、羽田空港最優先のダイヤを組まれるのも避けたいところでしょう。あるいは新宿発の房総特急のルートにされたりして、普通列車の運行間隔が不均等になったりしたら、沿線住民からは不満が漏れるでしょう。
そう考えると、東京臨海高速鉄道の買収問題は、まだ先がみえない状況と表現した方がいいかもしれません。(鎌倉淳)