ローカル鉄道や路線バスについて、異なる会社間で設備や人員を共有したり、協業したりしやすくするよう、国土交通省が制度的な枠組みを創設します。さらには、旅館の送迎バスを地域住民に開放するなど、地域の輸送資源をフル活用する施策が進められそうです。
交通政策審議会地域公共交通部会
国土交通省は交通政策審議会交通体系分科会地域公共交通部会で「とりまとめ」を発表しました。
今回の部会の論点は、運転士などの担い手不足を背景にした「交通空白」への対応です。
鉄道・バスをはじめとした地方の交通事業者は小規模なものが多く、人口減少による利用者減少と、運転士などの担い手不足に直面しています。
状況は深刻で、交通事業者が単独でサービスや路線を維持していくのは困難となってきました。実際、地方で鉄道やバスが次々と廃止され、交通空白が広がってきました。
とりまとめでは、その対応として、地域の輸送資源を「共同化・協業化」する方針が盛り込まれました。異なる事業者が連携して地域輸送をおこなえるよう、制度的な枠組みを創設するものです。

福井エリアの例
鉄道分野で具体的なモデルとしてあげられたのが、福井エリアです。
福井県には、ハピラインふくい、福井鉄道、えちぜん鉄道の3社があり、共同で福井県鉄道協会を設立し、保守管理で使用する資材を共同で調達しています。設備投資の工事についても一括発注しているほか、保線機器なども共同化しています。
人材育成についても、保守管理に関する勉強会や技術講習会を3社合同で実施。就職説明会の開催や広報動画の作成など、人材確保の取組についても3社共同でおこなっています。将来的には、相互乗り入れ路線における車両の定期検査の共同実施も検討しています。
IRいしかわ鉄道など、他の並行在来線事業者とも連携し、予備品の効率化などで費用を削減しています。
JRとも連携
ハピラインでは、JR西日本の関連会社とも技術指導に関する協定を締結し、レール探傷や管理手法などの技術指導を受けています。あいの風とやま鉄道を含めた北陸三県の並行在来線会社がまとまって、JR西日本と保守業務などについて連携する協定も締結しました。
とりまとめでは、こうした例を挙げながら、①人材確保・人材育成の共同化、②装置・部品などの調達の共同化、③運行管理、運転管理、施設・車両の保守管理の共同化、を盛り込みました。JRに対しては、地域鉄道事業者への技術支援などへの期待感を示しました。
バス、タクシーも共同化
バスやタクシーなどの自動車分野については、運転士や運行管理者、自動車整備士などを、複数の交通事業者や自治体、地域住民の協力により確保していくことなどが検討課題とされました。
とりまとめでは、地域交通の維持のために「必要な資源である人員、自動車、施設(営業所、車庫など)、システムなどを共同で活用し、事業の効率化を図ることが重要」と指摘しました。
そのうえで、車両や車庫のほか、整備、運行管理、配車、採用・人員育成など、運送に関する役務全般で協力することを提言しました。
いっぽう、大きな課題として「人員の圧倒的不足」を挙げ、「採用・育成段階における関係者が共同して取り組むことも有効」と付け加えました。
各交通事業者が協力して、バスやタクシーの人員を確保することが必要と指摘しているわけです。
交通事業者以外との連携求める
とはいえ、すでに運転士不足など深刻化しており、交通事業者の共同化だけでは、立ちゆかない状況に陥っています。
そこで、とりまとめでは、交通事業者によるサービス提供だけでなく、交通事業者以外の施設が利用者向けに提供している運送サービスも、「地域の輸送資源として考えるべき」としています。
たとえば、スクールバスの運用時に地域住民の混乗を認めたり、車両の空き時間に公共ライドシェアとして活用することなどを想定します。あるいは、企業や病院、自動車教習所、旅館などの従業員や利用者を対象にした送迎バスに、地域住民が混乗できるようにします。
そのほか、コミュニティバス、病院バス、スクールバスを路線バスに統合し、運賃を統一し、学生は全額助成するなどといった手法も考えられるとしています。
地域の輸送資源をフル活用
とりまとめでは、地域旅客運送サービスの提供に課題が生じている状況に対応するため、「地域の輸送資源をフル活用して解消する」ことを促しました。そのために、「地方公共団体が司令塔役」となり、「交通事業者間や施設送迎サービスの提供者等から協力を得る」ことを求めました。
事業者だけでは話がまとまらないので、自治体が仲介しなさい、と促しているわけです。
国に対しては、制度的な枠組みの整備を求め、地域の関係者が連携して運送サービスの提供を図る事業について「地域交通法の地域公共交通特定事業」として新たに創設することを提言しました。
新たな制度を創設へ
ざっくりいえば、とりまとめでは、地方のローカル私鉄、第三セクター鉄道、ローカル路線バス、コミュニティバスなどが、事業者の垣根を越えて連携することを求めたうえで、学校や病院、旅館送迎などの輸送資源も地域住民に開放するよう提言しました。温浴施設の送迎バスなども対象に含まれるでしょう。
そのために、新たな「地域公共交通特定事業」の創設を求めたわけです。
地域公共交通特定事業には、すでに、軌道運送高度化事業(LRT整備)、道路運送高度化事業(BRT整備)、鉄道事業再構築事業、地域公共交通再編事業などがあります。
これらに加えて、「地域の事業者の連携事業」を新たに創設し、国庫補助の対象にする、ということです。
制度の具体的な内容は決まっていませんが、地方の私鉄・三セク鉄道同士や、バス、タクシー、ライドシェア、送迎バスなどが協力して地域輸送を担えるような枠組みとなるでしょう。その際に設備投資や運行費の補助が必要なら、費用の一部を国が補助するという形が想定されます。
「観光の足」も確保
とりまとめは、地域住民の移動に加え、「観光旅客の移動も考慮し、両者を複合的・統合的に捉える必要性」も指摘しました。そのため、「地域住民の移動とあわせて、観光客の移動のための需要を具体的に把握し、一体化を検討すること」も盛り込まれました。
人口減少により地域住民による需要が減少するなか、「観光の足」の需要を取り込むことで、「地域の足」の確保も目指すわけです。
したがって、新たな制度が創設されれば、旅行者の利便性も高まりそうです。(鎌倉淳)






















