内閣府から、沖縄縦貫鉄道構想の駅や運転計画案などが記された新しい報告書が公表されました。スマート・リニアメトロやトラムトレインなどでの運転が検討されています。
2017年度の詳細調査報告
内閣府では、沖縄政策の一環として、鉄軌道をはじめとする新たな公共交通システムの導入に関する検討基礎調査を行っています。2010年度から継続的に報告書が出されていて、このほど、2017年度の「鉄軌道等導入課題検討詳細調査」の報告書が公表されました。
2017年度調査では、モデルルートや概算事業費などについて精査し、詳細な運転計画の想定が示されました。いわば、内閣府版の「沖縄縦貫鉄道計画」の素案です。その内容を見ていきましょう。
なお、沖縄県では、別途、沖縄鉄軌道に関する検討を行っています。内閣府の調査はそれとは別です。
「うるま・恩納ルート」
内閣府の沖縄鉄軌道調査では、糸満~那覇~名護間を「幹線骨格軸」として整備することを前提とし、さまざまなルートを検討してきました。検討ルートは以下の図で示されています。
これらのうち、過年度の調査で、費用便益比が高いとされるのが、「ケース2」と「ケース7」。いわゆる「うるま・恩納ルート」で、那覇~宜野湾間に関しては、国道330号(内陸)と、国道58号(海側)経由の双方が候補になっています。
システムの概要
システムとしては鉄道とトラムトレインが候補としてあげられてきました。鉄道の場合は国道330号経由、トラムの場合は国道58号経由で検討されています。
鉄道の基本想定は、最高速度130km/hで、20m車両の4両編成です。最高速度130km/hは「つくばエクスプレス並み」という前提です。
トラムは専用軌道で最高速度100km/h、併用軌道で40km/h、全長30mの3連接タイプを想定しています。専用軌道で100km/hを出すトラムは日本には存在しませんが、「米国ヒューストン並みの車両を想定」しているとのことです。
併用軌道となるのは、那覇市内、沖縄市内、名護市内です。併用軌道区間では、公共交通優先信号を導入し、交差点では停車せず運行が可能なシステムが考えられています。ただし、併用軌道の最高運転速度は、現状の軌道運転規則にしたがって、40km/hのままです。
鉄道、トラムのそれぞれの基本諸元は以下の通りです。
特別車両も想定
車両定員は、ピーク時における許容混雑率を130%とした想定となっています。所要編成数は、鉄道の場合16編成と予備2編成で計18編成(72両)。トラムトレインの場合、24編成と予備2編成で計26編成が必要としています。
車両については、「恩納村のリゾートや名護等の遠距離の観光需要、都市間のビジネス需要等に配慮して、一部座席指定型車両の導入や快速運転を実施する」との記載もあります。
例として名古屋鉄道2200系(特別車両2両+一般車4両)を挙げています。沖縄縦貫鉄道の場合は、一般鉄道で4両編成を想定していますので、特別車両は1両以下になることでしょう。トラムの場合にも特別車両を想定しているのかは記載がありません。
路線計画
路線の導入空間は、鉄道は高架構造が基本で、都市部では地下構造を基本とします。トラムについては、地平構造が基本ですが、定時性・速達性確保のため、地平空間の導入は都心部の一部にとどめ、郊外部は専用軌道とします。
普天間飛行場については返還・跡地開発が行われることを前提として、駅を設置し、車両基地の候補地とします。
鉄道とトラムの路線計画の検討結果は以下の通りです。
・鉄道 糸満市役所~名護+空港接続線(国道330号経由) 79.48km 26駅
・トラム 糸満市役所~名護、空港接続線(国道58号経由) 80.22km 42駅
快速停車駅
鉄道、トラムとも、普天間飛行場駅の2面4線を除くと、ホームは2線のみです。つまり、待避駅は普天間飛行場駅しかありません。
鉄道の快速停車駅の設定は、1都市1駅を基本に、行政拠点(市役所等)近くの駅を想定しています。それ以外に、商業・観光拠点へのアクセス利便性も考慮して追加します。
快速停車駅案は、糸満市役所、豊見城、旭橋、新都心、浦添市役所西、普天間飛行場、コザ十字路、うるま具志川、石川、ムーンビーチ、恩納、名護。このほか、旭橋から分岐する空港接続線の、那覇空港も快速停車駅となります。
トラムは全列車各駅停車での運転です。
運行ダイヤの設定
運行ダイヤについては、以下のように設定されました。
・駅(停留所)の停車時間は30秒
・ピーク時の運行本数は毎時6本(10分間隔)
・鉄道の快速列車と各駅停車の比率は1対1。つまり、快速と各停が各20分間隔
・旭橋~糸満市役所と旭橋~那覇空港間は、それぞれ毎時3本(20分間隔)。快速と各停は半分ずつ。(快速と各停が各40分間隔)。
鉄道の所要時間
鉄道の場合、糸満市役所~名護間の所要時間は、快速で約64分10秒、各停で約81分20秒です。那覇(旭橋)~名護間の所要時間は、快速で約52分50秒、各停で約62分40秒と計算されました。
沖縄縦貫鉄道の距離と所要時間は以下の通りです。
駅名 | キロ程 | 快速所要時間 | 各停所要時間 |
---|---|---|---|
糸満市役所 | 0.00 | 00:00 | 00:00 |
糸満ロータリー | 0.67 | — | 01:20 |
兼城 | 2.11 | — | 03:50 |
阿波根 | 3.21 | — | 06:00 |
豊見城 | 4.47 | 04:30 | 08:10 |
名嘉地 | 6.04 | — | 10:30 |
旧海軍司令部壕西 | 7.47 | — | 12:50 |
奥武山公園 | 9.16 | — | 15:40 |
旭橋 | 10.54 | 10:50 | 18:10 |
新都心 | 13.24 | 14:10 | 21:30 |
内間 | 15.11 | — | 24:20 |
浦添市役所西 | 16.83 | 18:20 | 27:00 |
真栄原 | 19.71 | — | 30:20 |
普天間飛行場 | 21.68 | 22:40 | 33:10 |
西普天間 | 24.52 | — | 36:20 |
ライカム | 28.43 | — | 40:40 |
胡屋十字路 | 30.67 | — | 43:40 |
コザ十字路 | 32.39 | 32:00 | 46:10 |
うるま具志川 | 38.14 | 37:10 | 51:20 |
石川 | 45.85 | 43:20 | 57:30 |
ムーンビーチ | 48.72 | 46:30 | 60:40 |
恩納谷茶 | 52.04 | — | 64:40 |
恩納 | 56.50 | 53:00 | 68:30 |
喜瀬 | 67.28 | — | 75:40 |
名護 | 75.60 | 64:10 | 81:20 |
旭橋 (空港接続線) |
0.00 | 00:00 | 00:00 |
那覇空港 (空港接続線) |
3.88 | 04:00 | 04:00 |
トラムの所要時間
トラムの場合は、糸満市役所~名護間が約118分40秒、那覇(旭橋)~名護間の所要時間は約99分となりました。那覇~名護間が1時間40分近くもかかることになります。
停留所数が多いため、全駅の所要時間表は省略しますが、主要停留所のみ掲載しておきます。
駅名 | キロ程 | 所要時間 |
---|---|---|
糸満市役所 | 0.00 | 00:00 |
豊見城 | 4.47 | 08:20 |
旭橋 | 10.4 | 19:10 |
久茂地 | 11.28 | 21:20 |
泊ふ頭 | 12.12 | 23:30 |
普天間飛行場 | 22.4 | 46:20 |
コザ十字路 | 33.11 | 72:30 |
うるま具志川 | 38.86 | 80:50 |
石川 | 46.57 | 68.20 |
恩納 | 57.22 | 100:40 |
名護 | 76.32 | 118:40 |
鉄道の想定運行ダイヤ
想定運行ダイヤは、前述したように、ピーク時毎時6本(快速3本、各停3本)です。この運転本数なら、糸満~名護間において、各駅停車の待避なく列車を運行できます。
鉄道の想定ダイヤは下図の通りです。
この運転ダイヤに関しては、正直なところ、現実感がありません。利用者数のまったく異なる那覇市内と名護周辺が同編成、同運転本数というのは、非効率だからです。また、うるま具志川以北の快速通過駅は少ないため、北部での快速設定も疑問です。
うるま具志川以北では快速列車を全駅停車とし、各停はうるま具志川駅折り返しというのが、現実的なダイヤ編成と思われます。つまり、このダイヤは「モデルプラン」に過ぎません。
トラムの想定運行ダイヤ
トラムの場合は、快速は設定せず、以下のようなダイヤが想定されています。最大で毎時6本の運転のため、団子運転になる可能性は低いとみています。
美ら海水族館支線
今回の報告書では、鉄道システムの名護~沖縄美ら海水族館間の支線についても検討されています。
これまでにも、同区間において、直線的に結ぶルート(八重岳貫通ルート)で試算されていましたが、今回は、景色を楽しみやすい海沿いのルート(観光ルート)が対象になりました。
「八重岳貫通ルート」は15.79kmでしたが、「観光ルート」は20.30kmとなります。
途中、本部に駅が設けられ、交換施設として中間信号所が設けられます。所要時間は、駅停車時間を含まずに16分。本線からの直通快速を40分間隔で運転する想定です。
運転ダイヤの草案は以下の通りです。
スマート・リニアメトロ
総事業費は、鉄道の場合、糸満~名護間が概算で8,060億円。トラムトレインの場合で4,290億円とされました。鉄道を美ら海水族館まで延伸する場合、八重岳貫通ルートで780億円、観光ルートで970億円が別途かかります。
内閣府調査では、コスト縮減策として、車両の小さいスマート・リニアメトロを使う案も検討されてきました。スマート・リニアメトロとは、鉄輪リニアの改良型で、現在開発が行われています。
鉄輪リニアの最高速度が80km/hなのに対し、スマート・リニアメトロでは100km/h程度が出せるという特性があります。車両長は12mと、鉄輪式の16mよりも短くなっています。
普通鉄道の1車両当たりの定員は130~160人程度、鉄輪リニアは90~100人程度、スマート・リニアメトロは64~74人程度です。1編成(4両)あたりの定員は、普通鉄道は約500人、鉄輪リニアは約400人、スマート・リニアメトロは276人と想定されています。
スマートリニアメトロの基本諸元は以下の通りです。運転最高速度は100km/hとなり、普通鉄道よりも速度は遅くなる一方、急勾配に強くなります。4両編成は同じですが、ホーム有効長は53mで済みます。現時点では、スマート・リニアメトロの日本での導入実績はありません。
一部単線化
スマート・リニアメトロで車両を小さくするだけでなく、一部区間を単線にしてコストを削減するという案も検討されています。単線区間は、糸満市役所~豊見城間と、うるま具志川~名護間、旭橋~那覇空港間です。豊見城とうるま具志川に折り返し用の引き上げ線が設けられます。
この試算では、糸満市役所~名護間の所要時間は、快速で約69分10秒、各停で74分20秒となっています。
全線複線の普通鉄道の場合で、糸満市役所~名護間の所要時間は、快速で約64分10秒、各停で約81分20秒でしたから、5~7分、余計にかかります。それでも、那覇~名護間で1時間を切ることはできます。
ピーク時の運行ダイヤは、以下の通りです。各停は豊見城、普天間飛行場、うるま具志川での折り返し列車が設定され、那覇周辺に手厚い運転本数となっています。
また、快速列車は糸満市役所~名護間の運転で、那覇空港には乗り入れません。また、うるま具志川以北は各駅に停まります。全体として、利用者数に応じた、現実的なダイヤになっています。
トラムの一部単線化
トラムの場合も、一部単線化によるコスト縮減策が検討されました。単線区間はスマート・リニアメトロより長く、糸満市役所~旭橋間、コザ十字路~名護間、旭橋~那覇空港間が単線になっています。
この場合、スマートリニアと同様、途中駅の折り返し運転列車が生じるという想定です。うるま具志川に折り返し用の引き上げ線が設けられます。
トラムのB/Cは0.87に
これらのコスト縮減策を行った場合、スマート・リニアメトロの概算事業費は6,270億円、トラムトレインの概算事業費は3,000億円となりました。全線複線の普通鉄道に比べて、一部単線のスマート・リニアメトロは1,790億円安くなり、トラムは全線複線に比べて一部単線で1,290億円安くなっています。
着工の目安となる費用対便益(B/C)については、これまでも計測されてきましたが、2017年度調査では、海路で訪問する外国人観光客の将来動向を需要予測に考慮しました。
全線複線の普通鉄道が0.51、全線複線のトラムトレインが0.67と試算されています。
一部単線化などのコスト縮減策を行ったスマート・リニアメトロの事業費で試算すると0.66、同じく一部単線のトラムトレインで0.87となっています。2012年の調査では、トラムトレインで0.60が最高でしたから、だいぶ数字は改善してきています。
沖縄県調査との比較
ここまでが、2017年度の内閣府調査の概要です。
前述しましたが、沖縄県も独自に鉄軌道導入の調査を行っており、2018年5月1日に計画案をまとめています。内閣府の報告書と、沖縄県計画案を比べてみましょう。
まず、ルート案ですが、沖縄県計画では、推奨ルートとして、那覇~北谷~うるま~恩納~名護のルートを選定しています。
内閣府調査では糸満と那覇空港を起終点としているのに対し、沖縄県調査では那覇(県庁前付近)を起終点としているのが大きな違いです。沖縄県では、ゆいレールへの経営の影響などを考慮し、那覇空港への乗り入れを現時点では予定していないようです。
那覇~宜野湾のルートが、国道330号か、58号かは、どちらの調査でも未定です。導入されるシステムによっても、ルートは変わるとみられます。
那覇・名護1時間の壁
沖縄県がまとめた計画書では、求められるシステムとして「速達性(那覇と名護間を1時間で結ぶ)が高いシステム」と「大量輸送(需要に適したシステム)」をあげています。
那覇~名護間を1時間で結ぶには、表定速度60km/h以上が必要で、最高速度は100km/h以上が求められます。沖縄県計画では、システムとしては小型鉄道、モノレール、AGT、HSST、LRT(トラムトレイン)などを候補としてあげています。
沖縄県計画における「小型鉄道」は、福岡地下鉄七隈線のようなリニア式の鉄輪式鉄道が例示されています。ただ、リニア鉄輪式は最高速度が低いため、内閣府と同じくスマート・リニアメトロも視野に入れているようです。またLRT(トラムトレイン)は、内閣府の想定と同じく、郊外部で高速運転が可能な車両が考えれています。
どうまとめられるのか
では、沖縄県と内閣府がそれぞれ調査している沖縄縦貫鉄道計画ですが、今後、どのようにとりまとめられていくのでしょうか。
まずルートですが、沖縄県調査も内閣府調査も大枠は同じで、那覇~普天間~うるま~恩納~名護に至る経路は固まったとみていいでしょう。那覇~宜野湾間は、国道330号と国道58号のどちらになるかわかりません。
沖縄県調査と内閣府調査のルートの違いは、「北谷を経由するか」「那覇空港・糸満へ路線を延ばすか」の2点です。
導入するシステムは、内閣府が普通鉄道、スマート・リニアメトロとトラムトレイン、沖縄県が小型鉄道、モノレール、AGT、HSST、LRTを候補にしています。内閣府は、トラムトレインを「専用軌道に乗り入れるLRT」と定義しており、沖縄県の想定するLRTとほぼ同義です。
つまり、導入するシステムの候補について、内閣府と沖縄県の想定で重なるのが、スマート・リニアメトロとトラムということになります。
トラムの速度向上は可能か
採算性が高いのは、トラムです。しかし、前述したように、トラムは所要時間がかかりすぎるという大問題があります。「那覇~名護を1時間」という命題に対処できません。
ただ、これについては、専用軌道の高速化と、併用軌道の速度制限緩和によって、改善される可能性があります。
とくに併用軌道の40km/h制限が時代遅れであるという声は、他の路面電車事業者からも出ており、将来的に緩和される可能性が高いとみられています。併用軌道で速度制限が緩和され、さらに軌道優先信号などの先進的なシステムが導入されれば、多少の時間短縮が見込めるでしょう。
内閣府、沖縄県とも、トラムを候補として残し続けているのは、こうした規制緩和を見越しているからかもしれません。
とはいえ、那覇~名護間の所要時間が、現在の内閣府調査で約99分。これを1時間以内に収めるのは、少々のことでは難しそうです。
普通鉄道は採算面で難
あくまでも所要時間にこだわるなら、採算面では分が悪いスマート・リニアメトロが有力となる可能性も残されています。
つくばエクスプレスを想定した普通鉄道に関しては、沖縄では過剰な輸送力で、採算面で難があります。現在の報告書を見る限り、採用される可能性は高くなさそうです。
内閣府では、2018年度の調査で、引き続きモデルルートや概算事業費の調査、需要予測モデルの精緻化をおこないます。また、鉄軌道導入効果計測に関わる新たな手法や鉄軌道に関する制度についてもさらなる研究をおこなう予定です。(鎌倉淳)