「暮らすように旅をする」という旅の形が、ちょっとしたブームです。NHKでは「ちょい住み」という海外の短期アパート暮らしの旅番組がヒット。「プチ移住」という言葉も流行っています。
そんななか、「育児休暇を使ってプチ移住」をした本が刊行されました。『沖縄プチ移住のススメ』(吉田友和著・光文社知恵の森文庫)で、なかなか興味深いです。
「降って湧いた長期休暇」
著者の吉田友和氏は海外バックパッカー経験豊富な紀行作家。奥さんは会社員で、育休を「降って湧いた長期休暇」と捉え、沖縄に短期移住するアイデアを思いつきます。
連れて行く子どもは、生後3ヶ月。そんな乳飲み子を連れて、住んだことのない土地へ長期滞在するとは驚きですが、滅多に取れない長期休暇をしっかり活かすという、旅好きならではの視点でしょう。
著者夫妻は、夫がフリーランスという点で自由がききます。この点がサラリーマン夫婦とは違いますが、最近は夫婦揃って育休を取ることが可能な会社も増えてきています。
となれば、「育休を使っての長期休暇、プチ移住」は、やる気になれば多くの人も実現可能なアイデアではないかと思います。
那覇に2ヶ月、宮古島に1ヶ月
むしろハードルが高いのは、乳児を連れて土地勘のない場所に住む、ということでしょう。しかし、著者夫妻は明るく前向きな行動力でこれを乗り越え、那覇に2ヶ月、宮古島に1ヶ月の滞在をしました。
あわせて3ヶ月という期間は、「移住」と表現するには短すぎますが、「プチ移住」や「ちょい住み」、あるいは「移住体験」というには十分すぎます。
マンスリーマンションを借りる
私は知らなかったのですが、冬の那覇には「避寒族」と呼ばれる内地人が訪れ、マンスリーマンションを借りて居住するそうです。もともと長期滞在者の多い土地柄で、そうしたマンスリーマンションには家具が一揃いあり、プチ移住に最適とのこと。最近なら民泊でも似たことができるかもしれません。
マンスリーマンションはネットでも探せますが、本当に良い不動産物件はネットには載っていないもの。そう考えた著者は事前に自ら那覇へ乗り込んで自分の理想とする物件を探し当てます。その結果、大家とも良好な関係を築き、わくわくするような沖縄生活を楽しんだことが、本書からは伝わってきます。
保育園入園と妻の仕事復帰の都合があり、著者夫妻の沖縄「プチ移住」は3ヶ月間だけでした。これが長いのか短いのかはわかりませんが、マンネリが始まる前に帰れそうで、いい期間だったのではないでしょうか。
「暮らすように旅をする」新しい形
本書の内容は、著者らしい軽やかな文体で気楽に読み進められる旅行記です。クルマを沖縄まで運ぶ方法や、滞在中の子ども予防接種の問題など、実用的な情報もちりばめられていて、実践したい方は参考になります。
真剣に移住を考えていなくても、沖縄での長期滞在に興味のある人なら、楽しく読み進められるでしょう。
実際問題として、著者のように、生後3ヶ月の乳児を連れて旅先に長期滞在するというのは、いろんな意味で、なかなかできることではないと思います。ただ、「暮らすように旅をする」という、新しい旅の一つの形ではないでしょうか。(鎌倉淳)