最近は鉄道趣味もメジャーになりましたし、「JR・私鉄全線完乗」を果たした方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、実は、日本には知られざる鉄道が多数あります。保存鉄道や遊覧鉄道など、輸送を目的としていない鉄道です。これら「知られざる鉄道」は時刻表に掲載されていませんし、したがって、「完乗」のターゲットにもなっていません。
データを集めることすら大変
筆者は、数年前からこの「時刻表にない鉄道」の乗車を始め、そのデータも集めています。それについては、「時刻表にない鉄道データベース」をご覧下さい。こうした「時刻表にない鉄道」は、データを集めること自体が大変で、まだまだ漏れもあります。だからこそ、探す楽しみもあって面白いのです。
さて、夏は「時刻表にない鉄道」を乗りつぶすチャンスです。なぜなら、これらで通年運行している路線は少ないのですが、夏休みだけは運行日が多いからです。夏は「時刻表にない鉄道」の乗りつぶしの絶好のチャンスなのです。
ここでは、「この夏乗りたい時刻表にない鉄道勝手にランキング」と題して、オススメの路線をベスト10までピックアップします。ランキングの順位は筆者の勝手な主観ですのであしからずご了承ください。
この夏乗りたい時刻表にない鉄道勝手にランキング
1位 関西電力黒部専用鉄道(富山県黒部市)
黒部峡谷鉄道の欅平以北の「上部軌道」を走るトロッコ列車。ほぼ全線が険しい山々の地中に敷かれている「地下鉄」です。築電池式の機関車に乗るトロッコ列車も面白いですが、その前後に乗るインクラインやトロリーカーなどの乗り物もバリエ豊富で、イチオシの「時刻表にない鉄道」といえます。乗車には「見学会」に参加する必要があり、要抽選。
2位 立山砂防工事専用軌道(富山県立山町)
いわゆる「立山砂防トロッコ」。常願寺川流域の砂防施設の維持管理を目的とする作業用鉄道です。全長17.7kmは、非鉄道事業者の鉄道としては日本最長とみられます。この鉄道の魅力は、なんといっても世界最大とされる18段連続スイッチバックを含む38段のスイッチバック。平均勾配35.6‰、最大勾配83.3‰という超本格的な山岳鉄道は、日本に類をみません。乗車には立山カルデラ砂防博物館の「野外体験学習会」に参加する必要があり、要抽選。
3位 紀州鉱山専用線(三重県熊野市)
1978年に廃止された旧石原産業紀州鉱山専用線の路線跡を利用した観光用の保存鉄道です。牽引する蓄電機関車は当時のものが現存。路線も当時のままであまり手が加わっておらず、古き鉱山鉄道を今に伝えています。距離は1km程度とそこそこ長く、抜群の雰囲気も魅力です。
4位 丸瀬布森林公園いこいの森(北海道遠軽町)
北海道遠軽町の自然公園内にある保存鉄道。丸瀬布町(当時)にあった武利森林鉄道で使われていた雨宮21号蒸気機関車を動態保存しています。この機関車は、国内で唯一残る国産の森林鉄道用蒸気機関車とされ、とても貴重です。線路は公園内をぐるりと回るように敷かれているだけで、起伏はほとんどなし。しかし運行距離は1.8kmもあり、鉄道事業者以外の動態保存鉄道としてはかなり長いです。
5位 錦川鉄道 とことこトレイン(山口県岩国市)
錦川鉄道は、国鉄時代に岩日線という名称で、終点錦町から山口線日原まで延伸計画がありました。実際に工事も行われていて、錦町駅~雙津峡温泉駅間の路盤は完成しています。結局鉄道は走らなかったのですが、その路盤を活用したトロッコ遊覧車施設が「とことこトレイン」です。路盤はアスファルト舗装され、ゴムタイヤ付き遊覧車が走行しています。したがって、正確には「鉄道」ではありませんが、開業しなかったローカル線に「乗れる」という珍しい施設です。
6位 松山人車軌道(宮城県大崎市)
人車軌道とは車夫が押すことによって車両である人車を動かす鉄道のことです。大崎市では、1922年から1928年まで松山人車軌道というものが運行されていました。その人車軌道を復元したのが、大崎市コスモス園内の松山人車軌道です。現在の車両は1992年にJR東日本で製作された複製車両で、毎年9月から10月コスモス祭りの週末にだけ運転されます。人車軌道はそもそも数が少なく、保存鉄道で乗車できるのは、日本でここだけです。おまけに運行は年に数日のみで、まさに「幻の鉄道」です。「夏」には運転されませんが、秋にどうぞ。
7位 碓氷峠鉄道文化むら トロッコ列車ライン(群馬県安中市)
廃止された旧信越本線横川~軽井沢間の下り線を再利用して運行を開始したトロッコ列車。碓氷峠用に製造された保線用のディーゼル機関車が牽引します。乗車距離は2.6kmもあり、保存鉄道の距離としては日本最長規模。失われた「碓氷越え」を楽しめる魅力的な保存鉄道です。首都圏の人には訪れやすい立地も魅力です。
8位 妙見山シグナス森林鉄道(兵庫県川西市)
能勢電鉄が運営する遊覧鉄道。鉄道事業者が運営する遊覧鉄道という異色な存在です。路線延長は340mと短いですが、最急勾配がなんと138‰もあります。この勾配にはリッゲンバッハ式のラック軌条が取り付けられていますが、ラック式の遊覧鉄道は、ここのほかにはリンドウ湖ファミリー牧場スイス鉄道など、日本全体でも貴重です。関西圏の人には訪れやすい立地も魅力です。
9位 ネオパークオキナワ 沖縄軽便鉄道(沖縄県名護市)
名護市のテーマパーク「名護自然動植物公園ネオパークオキナワ」の遊覧鉄道で、戦前の沖縄に路線網を張り巡らせていた沖縄県営鉄道を模した復元鉄道です。実際には、沖縄県営鉄道とは何の関係もない場所に何の関係もない車両が走っていて、ただの遊園地の乗り物です。しかし、沖縄唯一の第三軌条鉄道とみられますので、ランキングに入れてみました。沖縄には「ゆいレール」以外にも鉄軌道があるのです。
10位 北海道開拓の村 馬車鉄道(札幌市厚別区)
札幌市電の前身である「札幌石材馬車鉄道」の車両を復元した、一頭立ての馬車鉄道。線路・客車とも北海道開拓の村開業時に新造されたものです。国内で現存する馬車鉄道は、ここと岩手県・小岩井農場のみ。516mという比較的長い距離を走り、開拓時代を模した街並みを夏に走るのは気持ちいいものです。
以上、ランキングはここまでです。いかがでしょうか。
最近は鉄道趣味が広まったおかげで、「時刻表に載っている鉄道」は、ローカル線に至るまで情報が溢れていて、乗りに行く前から既に乗ったような気になることすらあります。それに対し、「時刻表にない鉄道」は、まだまだ情報は乏しく、乗りに行って始めてわかる発見が多いのも魅力です。
なにより、「時刻表にない鉄道」を「完乗」した人を聞いたことはありません。「時刻表にない鉄道」は、毎日運転されている列車が少なく、存在を完璧に把握するのも難しく、全て乗りつぶすのはなかなか困難です。それでも、我こそは、という方は、一生のテーマにしてみてはいかがでしょうか。