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JR九州社長「並行在来線の経営分離を前提とせず」。西九州新幹線問題は前進するか

佐世保直通特急も維持へ

西九州新幹線の未整備区間について、JR九州の古宮洋二社長が、在来線の経営分離を前提とせず、在来線特急も残す方針を明らかにしました。佐賀県内の着工に向けて、前進するのでしょうか。

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「経営分離を前提としない」

JR九州の古宮洋二社長は、2025年9月26日の定例会見で、未着工となっている西九州新幹線の新鳥栖~武雄温泉間を整備する場合、並行在来線について「経営分離を前提としていない」と発言しました。

読売新聞9月27日付によりますと、古宮社長は在来線の長崎線と佐世保線について、「経営分離を前提としていない。(佐賀県内の)鳥栖、佐賀、江北駅などは多く利用してもらっている」と述べました。

また、佐世保線方面への在来線特急についても「武雄温泉で乗り換えるのはどうなのか、となる」と述べ、一定の本数を存続させる意向を示したということです。

古宮社長は、これまでにも、並行在来線を分離しない可能性に触れていましたが、今回、改めて明言した形です。さらに、佐世保線特急の博多直通を残すことで、佐賀駅発着の在来線特急を維持する意向を示し、佐賀県への配慮を見せました。

西九州新幹線

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佐賀県の懸念

西九州新幹線は、2022年9月に武雄温泉~長崎間が開業しました。未開業区間として、新鳥栖~武雄温泉間が残っています。しかし、沿線自治体の佐賀県が整備を求めておらず、事業着手の見通しは立っていません。

佐賀県が整備を求めていない理由は、新幹線整備における費用負担が大きいだけでなく、新幹線開業により、在来線が不便になってしまうことへの懸念があるためです。

佐賀駅は、現在、在来線特急が頻繁に発着しており、低廉かつ短時間で博多までアクセスできます。新幹線が開業した場合、多少の時間短縮と引き換えに、料金が大きく上がってしまう懸念を抱いているわけです。

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懸念を打ち消す

古宮社長の発言は、こうした懸念を打ち消す狙いがあるとみられます。

並行在来線を分離しないだけでなく、佐世保方面の特急を博多発着として残すことで、佐賀駅や江北駅発着の在来線特急も維持し、新幹線開業による「安くて速い」移動手段が失われないように配慮する姿勢を見せたことになります。

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どれだけ残るのか?

現実に新鳥栖~武雄温泉間の新幹線が開業した場合、佐世保方面の利用者の一定割合は、博多~武雄温泉間で新幹線を利用するとみられます。佐賀駅からの利用者も、新幹線で博多に向かう人は少なくないでしょう。

その場合に、博多~佐賀間で在来線特急の利用者がどれだけ残るかは疑問です。佐世保方面や佐賀駅の利用者も新幹線を好めば、在来線特急は空気輸送となってしまいます。

過去、東海道新幹線や東北新幹線などでも、並行区間の在来線で優等列車を走らせていましたが、利用者は限られていて、最終的にほとんどが姿を消しています。

ただ、新幹線開業後に、佐世保線特急の利用者が少なければ、その段階で判断すればいい話です。新幹線開業時の段階では、一定の在来線特急を残す意向を表明した、ということでしょう。

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事業着手できるか

並行在来線を分離しないとなっても、実際に未整備区間で事業着手できるかは、また別の話です。

現在の整備新幹線の財源スキームでは、沿線自治体が一定の割合を負担しなければなりません。佐賀県の負担は、2019年の試算で約660億円。この5年で建設費は急騰しており、佐賀県では、現在なら1,400億円以上になると見込んでいます。

佐賀県としては、新幹線開業によるメリットが小さいことから、巨費の負担には難色を示していて、スキームそのものの見直しも求めています。

政府も、何らかの財源の手当を模索しているようです。ただ、新幹線建設スキームを変更した場合、他の未整備区間にも影響が及びます。「佐賀だけの特例」を作るのは難しく、政府も腐心しているように見受けられます。

「経営分離しない」「在来線特急も残す」というJR九州の姿勢は、西九州新幹線の未整備区間問題の解決に向けて前向きな材料です。ただ、それで事業が前進するかというと、何ともいえません。(鎌倉淳)

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