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西九州新幹線、未整備区間の事態打開へ動き。JR九州社長が国交次官に要請へ

石破首相演説が引き金に

西九州新幹線で未着工の新鳥栖~武雄温泉間で、事態打開に向けた動きが活発になってきました。引き金となったのは、石破首相の7月の長崎演説。首相が国の責任を認めたことで、事態が動き出しました。佐賀県の財政負担の軽減に向け、JR社長が国交省への要請するという異例の事態になっています。

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引き金は首相演説

西九州新幹線は武雄温泉~長崎間が開業済みですが、新鳥栖~武雄温泉間は未整備で、在来線特急とリレー方式での運行が続いています。未整備区間では、財政負担や並行在来線の移管を嫌う佐賀県が建設に消極的で、事業化の見通しは立っていません。

ただ、最近になって、関係者の動きが活発になってきました。

引き金となったのは、2025年7月17日の、長崎県における石破茂首相の演説です。首相は、西九州新幹線について、「この新幹線を、直通させなければなりません」と強調したうえで、「佐賀県の皆さま方にどのようにご納得をいただくのかということは、主として国の責任であります」と述べました。

未整備区間は、もともとフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)を導入する予定でしたが、国が開発に失敗し、頓挫したという経緯があります。

石破首相の発言は、この経緯を踏まえたものです。これまでも、国はFGT失敗の責任を認めてきましたが、改めて首相が国の責任を明確にしたことで、事態が動き出しました。

西九州新幹線大村湾

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3者協議を実施

佐賀県の山口祥義知事は、8月8日の定例会見で、石破首相の発言について、「佐賀県からの納得を得ることはフリーゲージトレインを断念した国の責任、改めて国の責任だということに言及いただいた」と評価。8月19日に、長崎県の大石賢吾知事とJR九州の古宮社長との3者協議に応じました。

この協議では、建設費負担やルートについて意見の一致をみなかったものの、国に対し、フリーゲージトレインの導入断念の経緯を踏まえた「具体的な解決策」を提示するよう働きかける方針で一致しました。

長崎県知事は、8月20日の記者会見で、協議の結果について「何ら決まったものはない」としながらも、長崎県として国に対し、具体的な解決策、事業費の試算、アセスの早期実施の3点を求めていくことを明らかにしています。9月4日には、石破首相に面会し、西九州新幹線の整備を改めて要望しました。

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JRも国に要請へ

一方、JR九州の古宮社長も、9月26日の定例会見で前向きな姿勢をみせました。

新鳥栖~武雄温泉間を整備する場合、並行在来線について「経営分離を前提としていない」と発言。さらに、佐世保線方面への在来線特急についても「武雄温泉で乗り換えるのはどうなのか」と述べ、一定の本数を存続させる意向を示しました。

古宮社長は、近く国土交通省の水嶋智事務次官と面会し、佐賀県の財政負担の軽減を要請する予定です。整備新幹線の建設で、JRが国に対して、自治体の負担軽減を求めるのは異例です。

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政治的な判断も

西九州新幹線の未整備区間について、最近の動きをまとめてみました。あまり大きく報じられていませんが、振り返ってみると、石破首相の7月演説をきっかけに「国の責任」がクローズアップされ、事態が動き出していることがわかります。首相が責任を認めたことで、国交省は「具体的な解決策」の提示を迫られることになりました。

とはいえ、整備新幹線の事業費負担のルールは決められていることなので、佐賀県を例外扱いにして、負担を軽くするには、それなりの手続きが必要になります。国の財源の問題も絡むことですし、政治的な判断も求められるでしょう。

そして、石破首相は退陣が決まっていて、新政権の姿はみえません。長らく公明党の指定席だった国土交通大臣も、他党の議員に代わることでしょう。西九州新幹線の未整備区間が着工に向け動き出すのか、現段階では何ともいえません。(鎌倉淳)

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