成田空港の将来構想を検討する委員会が、乗り入れる鉄道路線の複線化を提言しました。旅客ターミナルの集約にあわせて誕生する新駅に接続します。
5路線3駅
成田空港には、JR成田線と京成本線、同成田空港線(成田スカイアクセス線)、同東成田線、芝山鉄道線の5路線が乗り入れています。
京成本線と東成田線は全線複線ですが、スカイアクセス線とJR成田線には単線区間があり、芝山鉄道は全線単線です。
駅は成田空港駅と空港第2ビル駅、東成田駅の3つがあります。JRと京成本線、スカイアクセス線が乗り入れているのが成田空港駅と空港第2ビル駅。京成東成田線と芝山鉄道線が乗り入れているのが東成田駅です。
単複入り交じる
一つの空港に、5路線3駅で、単複入り交じる配線。なぜこんなややこしいことになっているのでしょうか。
正確に説明すると長くなりますが、ざっくり書くと、東京~成田空港間には「成田新幹線」を建設する計画がありましたが、頓挫してしまい、新幹線用に用意された設備をJRと京成で分け合った結果、いずれも中途半端な状況になってしまった、ということです。
線路幅が異なり
なかでも問題なのは、京成スカイアクセス線とJR成田線の単線区間です。京成スカイライナーと成田エクスプレスという、空港アクセスの主役が通る路線だからです。
スカイアクセス線は成田湯川~成田空港間が単線で、JRは成田~成田空港間が単線です。この区間は両線が並走していて、いずれも新幹線用地を転用して線路が敷かれています。
用地には複線のスペースがありますが、JRと京成は線路幅が異なるので複線を共用する形にできず、単線並列としています。結果として、この区間はいまも空港アクセスのボトルネックであり続けています。
新駅建設も
成田空港では、C滑走路の新設やB滑走路の延伸により、年間発着回数を現在の1.7倍の50万回に増やす計画を立てています。
実現すれば利用者の大幅な増加が見込まれるため、成田空港会社では「新しい成田空港」と題する将来構想を掲げて、検討委員会を設けて議論しています。
これまでの検討では、3つある旅客ターミナルを一つに集約し、鉄道新駅を併設する方針などを示しています。
さらに、2024年4月12日に開催された検討委員会第7回会合では、新駅を設けるだけでなく、乗り入れる鉄道の複線化を提言しました。
1,000億円規模の費用
複線化については、運輸総合研究所が『日本の空の玄関・成田空港の鉄道アクセス改善に向けて』と題する提言で試算を示しています。
試算によると、京成のみ複線化する場合は700億円から1100億円、京成、JRとも複線化する場合は900億円から1400億円がかかるとしています。
「新しい成田空港」の検討委員会の委員長は、複線化調査をおこなった運輸総合研究所の所長です。すなわち、今回の会合では、自らが検討したアクセス改善策の提言の実行を、鉄道各社に迫る形となりました。
スカイライナー高速化も
『成田空港の鉄道アクセス改善に向けて』では、成田空港の新駅についても触れていて、複線化を考慮した施設を整備するなど拡張性が確保されるべきとしています。また、スカイアクセス線と本線のホームを分けることが望ましいとしています。
そのほか、スカイライナーの高速化や、乗り入れ列車の長編成化の検討なども求めています。
高速化や長編成化は、全線にわたる設備改修が必要なので簡単ではありませんが、複線化や新駅建設は非現実的な話とはいえません。検討委として実現を強く求める、ということでしょう。
京成は2面4線に?
「新しい成田空港」の鉄道アクセスの詳細は何も決まっていませんが、筆者の予想を書くと、現在の空港3駅を統合する形になる可能性が高く、少なくともスカイアクセス線の複線化もあわせて実施されるのではないでしょうか。
複線化に巨費はかかりますが、成田空港の利用者が今後も増えていくと見込むのであれば、複線化をしなければ捌けなくなるためです。
JR線については何ともいえませんが、スカイアクセス線と同時の複線化の可能性もあるでしょう。
新駅には、JR成田線、京成スカイアクセス線、京成本線、芝山鉄道が乗り入れます。京成ホームは2面4線以上となり、スカイアクセス線ホームと本線・芝山鉄道線ホームが分けられるでしょう。
JRは1面2線のホームでも捌ききれそうですが、輸送力を増強するなら、引上線は必要になるかもしれません。
実現はいつになる?
いずれにせよ、実現すれば列車の増発が可能になり、成田空港アクセスはより便利になります。
実現がいつになるかは、現時点では全く見通せません。成田空港の新滑走路の完成目標が2029年で、新ターミナルの建設着手はその後になるので、新駅開業や複線化は、早くても2040年頃になるのではないでしょうか。(鎌倉淳)