存廃が議論されている名古屋鉄道広見線の新可児~御嵩間について、沿線自治体が存続を目指す方針を明らかにしました。2027年度から「みなし上下分離方式」に移行する方針で、名鉄と協議します。ただし、協議の結果によっては、鉄道廃止、バス転換の可能性も残されています。
新可児~御嵩間7.4km
名鉄広見線は、犬山~新可児間22.3kmを結ぶ路線です。運行系統は犬山~新可児間と、新可児~御嵩間で完全に分断されていて、犬山~新可児間は終日おおむね15分間隔で列車が走る複線区間です。
一方、新可児~御嵩間7.4kmは、可児盆地の東に向かう単線区間で、運転本数はおおむね30分間隔です。存廃が議論されているのは、この7.4kmの末端区間です。
輸送密度1,720人、営業係数425.8
名鉄広見線新可児~御嵩間の2023年度の利用者数は、約78万人。通学定期利用者が約43万人と過半を占めていて、通勤定期が約18万人、定期外が約17万人です。輸送密度は、2023年度で1,720人キロです。

2023年度の区間収支は、約2億9000万円の支出に対して、収入は6800万円です。赤字額は2億2000万円で、いわゆる営業係数は425.8となっています。
名鉄が見直し求める
こうした状況で、広見線新可児~御嵩間については、2010年度以降、沿線自治体が名鉄と協定を締結し、運行を支援してきました。直近に結ばれた2023年度からの協定では、御嵩町が年7000万円、可児市が年3000万円の、計1億円の運行費を負担しています。差し引きすると、名鉄が約1億2000万円の赤字をかぶっていることになります。
この支援の枠組みは2025年度までです。2026年度以降については、名鉄が同じ内容では更新できない旨を沿線自治体に伝えています。
そのため、可児市、御嵩町、八百津町の沿線3市町では、御嵩町が中心となって、存廃を含めた検討をおこなってきました。
みなし上下分離を軸に検討
検討では、公有民営による上下分離や、みなし上下分離、第三セクター化、バス転換、BRT転換など、事業構造別の費用を試算。最終的に、みなし上下分離とバス転換を残し、他の検討を終了することに決定しました。
みなし上下分離とは、設備は名鉄が保有するものの、設備の維持費は自治体が負担するという方式です。
年間1億8000万円の負担
みなし上下分離に移行した場合、自治体は、名鉄が所有する車両、施設、土地の維持修繕費と設備投資費を負担します。
ただし、国に鉄道事業再構築実施計画を申請し、認定されれば、社会資本整備総合交付金(地域公共交通再構築事業)が活用できます。設備投資のうち、土地、施設への設備投資が交付金の対象になり、3分の1の補助を受けられます。
御嵩町の試算によると、必要な資金は、15年間で、運営経費が年約2億6000万円、設備投資が約1億2000万円で、計約3億8000万円です。このうち、名鉄が約1億1000万円の負担を受け入れたとしても、沿線自治体は年間約1億8000円を負担しなければなりません。現在の1億円から、8000万円が増える計算です。
名鉄と協議へ
沿線自治体では、試算を基に検討をした結果、2027年度からみなし上下分離方式に移行する方針で、名鉄と協議を進めることを発表しました。
ただ、名鉄とは合意に至ったわけではなく、3市町による負担割合についても、今後検討します。
名鉄の立場とすれば、みなし上下分離の場合、設備投資の負担は免れるものの、年間1億円規模の赤字を甘受し続けなければなりません。鉄道単体としてみれば大きな赤字ですし、関連事業を含めても割にあう話ではなさそうです。
とはいえ、連結売上高7100億円の大企業ですし、受け入れる余地はあるでしょう。
自治体の負担割合という難題
名鉄との協議はこれからなので、現時点で鉄道存続が決定したわけではありません。今後の協議により、みなし上下分離方式とする場合の設備投資計画や、上下の費用負担の考え方、運行期間などの詳細について、検討を進めていきます。
3市町では、それを踏まえて、沿線自治体の負担割合、活性化に向けた計画の内容などを検討していくことになります。
ここでポイントとなるのは、可児市の負担です。御嵩町では、可児市の支援が得られなければ、鉄道維持の負担増により、財政調整基金が5~6年で枯渇し、財政が耐えられなくなるとしています。いっぽう、可児市は、現状の3000万円以上の支援はしない方針を示しています。
可児市としては、市域に含まれる駅は御嵩町との境界近くある明智駅のみで、多額の費用を負担してまで、鉄道を残す意義を見いだしにくい状況といえます。
名鉄と合意した後に、自治体間の協議が不調となることもあり得るわけです。最終的には、可児市が譲歩するか、岐阜県が支援するなど形で収まるようにも思えますが、現時点では、この難題を先送りしているようにも見受けられます。
御嵩町によれば、名鉄や自治体間の協議が不調に終わった場合、バス転換となる可能性もゼロではないとしています。(鎌倉淳)