テレビ東京系列の「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」特別編が放送されました。ふだんの同番組は、ルイルイこと太川陽介と蛭子能収がローカル路線バスを乗り継ぐテレビ番組ですが、今回は特別編として、田中要次と羽田圭介が、宮澤佐江をマドンナに迎えて旅をしました。
宮澤佐江は26歳で、南明奈と並ぶ、番組史上最年少のマドンナです。
今回の目標は、静岡県熱海市から石川県金沢市まで、路線バスを乗り継いで3泊4日で到達する、というものです。例によって、この正解ルートを検証してみましょう。
いつものことですが、以下はネタバレ100パーセントです。また、結果論100パーセントです。行ってない筆者が机上で語っているだけです。ご理解のうえ、お読みください。
※以下、掲載時刻は確認しましたが、間違いや勘違いがあるかもしれません。その場合はご容赦、ご指摘ください。
実際に旅したルート
特別編で実際に3人が旅したルートは以下のようになりました。時刻表上の定刻を示しています。
▽1日目
サンビーチ09:52→10:46元箱根11:23→11:38小涌園12:20→13:37御殿場プレミアムアウトレット13:50→15:30河口湖駅16:28→17:21石和温泉駅
▽2日目
石和温泉駅06:49→07:17甲府駅前09:55→10:37韮崎駅11:00→11:40下教来石→徒歩14km→富士見駅16:19→16:33原村役場18:06→18:38茅野駅19:00→19:33下諏訪大社通り四ツ角
▽3日目
下諏訪大社通り四ツ角07:56→08:30茅野駅09:40→10:26神明町→徒歩5.5km→御野立口11:56→12:22塩尻駅前12:40→13:07松本病院前/村井松本病院14:46→15:14松本バスターミナル17:05→19:30高山バスセンター
▽4日目
高山バスセンター08:40→09:38平湯温泉11:30→14:22富山駅前15:30→16:20高岡駅前16:54→18:02井波18:55→20:10金沢駅西口
ということで、無事ゴールとなりました。
ゴールしたので、このルートで「正解」といっていいと思いますが、番組上で出てきたポイントを中心に、他ルートの可能性なども探ってみましょう。
ローカル路線バス乗り継ぎの旅 特別編・静岡・熱海~石川・金沢
【出演者】田中要次、羽田圭介、宮澤佐江、太川陽介、蛭子能収
【ナレーター】キートン山田
大枠としての方向性
まず大枠として、熱海から金沢へ向かうには、東海道を通るルートと、甲府から松本へ抜けるルートの2つが考えられます。
鉄道なら東海道一択ですが、路線バスの東海道ルートは途中で経路が途切れる場所がいくつかあり、距離も長いので、おそらく4日では到達不能です。最初に御殿場をめざし、河口湖から甲府方面へ抜けたのは正解でしょう。
実際ルートの1日目はすこぶる順調でした。時刻表で検索すれば、もう少し早い時間に河口湖駅に着く接続も見つかりますが、現実的なルートとしては、実際ルートがベストと考えていいでしょう。
石和温泉に泊まらなかったら?
最初のポイントは、石和温泉での宿泊です。もし、この日、石和温泉で泊まらずに甲府まで行っていたらどうなっていたでしょうか。以下のような接続になります。
▽1日目
河口湖駅16:28→17:50甲府駅18:10→18:52韮崎駅19:10→19:50下教来石
このように、下教来石まで当日中に着くことができます。下教来石を次の日、早朝に出発すれば、3日目夜には金沢駅に到着することも可能です。
ただ、下教来石に宿があるかを韮崎までに見通すのは難しいでしょうから、1日目に下教来石まで行くというのは現実的ではありません。現実的な1日目の最善の終着点は韮崎あたりでしょう。
仮に1泊目を韮崎にした場合、その後、実際ルートと同じコースをたどったと仮定すると、以下のようになります。
▽2日目
韮崎駅08:45→09:25下教来石→徒歩14km→富士見駅12:24→12:42原村役場15:20→15:52茅野駅17:20→18:14岡谷駅
結局、岡谷市までしか進めず、下諏訪に泊まった実際ルートと大差ありません。つまり、1日目に石和温泉に泊まったことは何のハンディにもなりませんでした。田中さん、素敵な温泉旅館に泊まれて良かったですね。
南アルプスルートを選択したら?
さて、2日目。今回、最初に大きな決断を迫られたのが、甲府駅です。韮崎方面の国道20号線沿いルートと、広河原方面の南アルプスルートのどちらを選ぶか。3人は悩みに悩んだ末に、韮崎方面を選択しました。仮に、南アルプスルートを選択していたらどうなっていたでしょうか。
▽2日目
甲府09:00→10:53広河原12:30→12:55北沢峠13:10→13:55仙流荘14:33→15:03高遠
このように、高遠までは歩きなしで順調につながります。しかし、問題はここからです。
高遠から茅野へ抜けられれば簡単なのですが、この区間のバスは季節運行です。ロケが行われたのは、オンエアの状況から10月後半の平日のようです。10月後半の平日ならば茅野へのバスはなく、高遠から北上することはできません。
高遠から塩尻へ抜けるには
となると、高遠からは西の伊那へ抜けるしかありません。しかし、伊那から塩尻へのルートは難解です。伊那経由のルートをたどると、以下のようにつながります。
▽2日目
高遠15:07→15:29伊那北駅→徒歩0.8km→御園15:56→16:55旧道久保→徒歩0.7km→南木下17:37→18:17中央道バイパス下→徒歩3.3km→宮木公園前19:20→19:25辰野駅前
▽3日目
辰野駅前07:15→07:30川島口駅→徒歩すぐ→中の橋08:06→08:16小野駅前10:03→10:35塩尻駅
こう乗り継げれば神業です。しかし、たぶん無理でしょう。というのも、上記のルートでは、高遠から伊那へのバスを途中の伊那北駅で降りて、コミュニティバスの御園へ歩いて向かうわけですが、事前情報なしでは、ほぼ不可能です。
実際には、高遠からのバスで伊那駅まで乗り、案内所などでコミュニティバス路線を尋ねる形になるでしょう。たとえば、こんなルートです。
▽2日目
高遠15:07→15:34伊那市駅→徒歩すぐ→通町16:01→16:05前橋町→徒歩0.5km→御園16:57→17:04南箕輪村役場
▽3日目
南箕輪村役場07:47→08:08旧道久保→徒歩1.0km→中川病院前10:06→11:05中央道旧道下→徒歩5.6km→辰野町役場13:29→13:42川島口駅→徒歩すぐ→中の橋13:42→13:18小野駅前14:33→15:05塩尻駅前15:30→15:57松本病院前/村井松本病院16:56→17:24松本バスターミナル
こうなると、実際ルートよりも遅い時間に塩尻着となり、3日目は松本到着が限界です。
高遠から茅野へ抜けるバスがある日なら、南アルプス越えは魅力的なコースですが、それがなければ、コミュニティバスと徒歩を組み合わせる面倒なルートです。
韮崎ルートのような14kmもの長距離徒歩はありませんが、細かい徒歩移動が続き、ラクともいえません。そして3日目に松本までしか行けないのですから、「正解ルート」とは呼べなさそうです。
3日目に松本に着いていればゴール可能
ただ、南アルプスルートを経由して、3日目に松本までしか到達できなかったとしても、ゴールは可能です。
▽3日目
松本07:50→09:15平湯温泉(以下実際ルート)
翌朝の始発バスに乗れば、平湯温泉で実際ルートに追いつけます。
このとき、実際ルートと同様、高山まで行ってしまったらどうでしょうか。折り返したら、平湯温泉11時30分発岐阜行きに間に合わなくなります。
ところが、高山まで行ってしまっても、以下のようにつながります。
▽3日目
松本バスターミナル07:50→10:15高山バスセンター11:10→12:35神岡営業所13:00→14:22富山駅(以下実際ルート)
この富山に着くバスは、実際ルートの平湯温泉からのバスと同じです。平湯温泉→神岡→富山と走るバスを神岡から拾えるわけです。
要するに、松本を4日目の朝、高山を4日目の午前11時に出れば、当日中に金沢に着けるわけです。その意味では、「最後の挽回」が効くルート設定だったと言えます。
塩尻峠をラクに越える方法
話を実際ルートに戻しましょう。一行は、2日目の夜、岡谷に行かず下諏訪に宿泊し、翌日、案内所で確認するために茅野に戻ります。塩尻峠を越えるための情報を得られず、諏訪湖界隈で停滞してしまうわけです。
この日、仮に岡谷まで行って宿泊したらどうなっていたでしょうか。
じつは、岡谷市役所から塩尻峠方面へ向かうコミュニティバスがあり、その情報をつかめれば、もう少しラクに峠越えをできました。
▽2日目
茅野駅19:00→19:54岡谷駅
▽3日目
岡谷市役所正面口07:35→07:52塩嶺病院→徒歩3.5km→御野立口10:06→10:32塩尻駅前
このルートなら、塩尻峠の上り道を2kmほど縮めることができ、実際よりだいぶラクだったでしょう。
岡谷で情報収集したとして
ただ、岡谷に夜8時前に着いて、翌朝7時半のコミュニティバスの情報をつかむのは難しかったかもしれません。
塩尻峠方面のバスは、07:35発の次は10:25発となり、岡谷で多少の情報収集をしたとして、このバスに乗るが現実的な最適解でしょう。この場合、以下のようにつながります。
▽3日目
岡谷市役所正面口10:25→10:41塩嶺病院→徒歩3.5km→御野立口11:56→12:22塩尻駅前
ご覧のように、御野立口で、実際ルートに収斂します。
いずれにせよ、2日目に岡谷まで行ったとしても、塩尻以降は実際ルートに収斂したとみられます。つまり、諏訪エリアでの停滞は、決定的なミスではなかったことになります。
「御野立口の奇跡」が起きなかったら?
またまた実際ルートに戻ります。今回の旅で「奇跡的」といえるのは、御野立口でぎりぎり11:56発のバスに乗れたことでしょう。もし、これに乗り遅れていたらどうなっていたでしょうか。次のバスは、3時間後でした。
▽3日目
御野立口14:46→15:12塩尻駅前15:30→15:57松本病院/村井松本病院16:56→17:24松本バスターミナル
このように、3日目に松本までしか行くことができません。ただ、3日目が松本泊でも挽回可能だったことは、先述したとおりです。要するに、御野立口で、あのバスに乗れなくても、ゴールは可能でした。
中部縦貫自動車道は高速道路か
今回のルート取りで、松本から高山に向かうバスのルートに疑問を抱いた方がいるかもしれません。というのも、この路線は高速バスではありませんが、途中で安房峠道路という有料道路を通るからです。
安房峠道路は、整備中の「中部縦貫自動車道」の一部です。となると、部分開通した高速道路の一部ではないか? との疑念がよぎります。
調べてみると、中部縦貫自動車道はいわゆる「一般有料道路」であり、「高速自動車国道」とは違う分類です。一般有料道路は、地方の短中距離の有料道路によくある形態で、これまでの「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」でも、一般有料道路を走ったケースはありそうです。ならば、ルールの範囲内とみられます。
ただ、たとえば東京湾アクアラインや第三京浜、横浜新道、横浜横須賀道路、第二京阪、第二神明なども一般有料道路に属しますので、これらを走っているバスも「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」では許容範囲に入ることになります。そう考えると、少し違和感を覚えます。
テレビのバラエティ番組ですし、目くじらを立てる話ではありませんが、「高速道路とは何か」を定義するのは、なかなか大変そうです。
白川郷行きは高速バスか
閑話休題。一行は、当初、高山到着後、白川郷へ向かうバスへ乗ろうとしていました。ところが、案内所で「高速道路を通る」と言われ、断念します。
調べてみると、高山から白川郷へのバスは、途中、高山清見道路を経て東海北陸自動車道路を通るようです。
高山清見道路は中部縦貫自動車道の一部ですので一般有料道路です。しかし、東海北陸自動車道はれっきとした高速自動車国道であり、「ローカル路線バスの旅ルール」では、乗車できません。そのため、高山から白川郷へ路線バスで抜けることはできないことになります。
ということで、一行が高山から富山へ抜けたのは正解です。
富山駅での乗り逃しは影響した?
3人は、富山駅で新高岡行きのバスをぎりぎりで乗り逃します。実際ルートをご確認いただければわかるとおり、時刻表上は乗り継ぎ可能でしたので、遅延が生じたのでしょう。
仮に遅延がなく、富山駅前で一本前に乗り継げたらどうなっていたでしょうか。
▽4日目
富山駅前14:30→15:20高岡駅前15:54→17:02井波
このように、1時間早く井波に着きます。ただ、井波から金沢駅行きのバスは18時55分発までありませんので、結果は同じです。
難易度は高くない
今回のルートをまとめてみましょう。まず、最初の熱海からはバスで直接、西へは行けませんので、箱根に行くほかありません。そして、箱根から東海道方面に進まずに、御殿場に到達しさえすれば、甲府→松本→高山と進むルートを見つけ出すのは難しくありません。
初日は石和に泊まろうが甲府に泊まろうが問題ありません。甲府で南アルプスルートを取ったとしても、最終的にはゴール可能です。何度も書きますが、3日目の夜までに松本に行っていれば良いのです。
最後の大きな山場になりそうだったのは、富山から金沢のルート取りでしょう。とはいえ、この点も、高岡から金沢までを加越能バスという1つの会社の路線だけで乗り継げるからか、高岡の案内所で先を見通すことができました。
結果論ではありますが、難易度は高くないルートだったといえます。経験の浅い3人のため、比較的クリアしやすいルートを用意したのかもしれません。
「ルイルイ&蛭子」は潮時
ところで、今回の「ローカル路線バスの旅」の話題は、正解ルートよりも、ルイルイ&蛭子のコンビが「卒業」を発表したことでしょう。ルイルイは番組内で、「一番の理由は、我々、あと沖縄しか残すところがないんです。もう全部行っちゃって……、ルートがない」と卒業の理由を説明しました。
それもあるでしょうが、蛭子さんの年齢の問題も大きいでしょう。最近の「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」は、徒歩での峠越えが番組のハイライトになっており、69歳の蛭子さんには無理が出てきたように感じられます。
番組の旬もピークアウトしつつある印象もありましたし、番組10年目となるタイミングは、いい潮時なのではないか、と思います。
「終了」ではなく「卒業」なのか
ルイルイは「卒業」という言葉を使いました。「終了」と言う言葉を使わなかったので、ひょっとしたら、「ローカル路線バスの旅」シリーズはコンビを変えて続くのかも知れない、という期待も抱かせます。その可能性があるからこそ、今回、田中&羽田コンビを起用しての「特別編」となったのでしょう。
田中&羽田コンビと若いマドンナ宮澤の組み合わせは、悪くなかったと思います。「ルイルイ&蛭子」のような規格外のおもしろさはありませんが、それとは違った組み合わせの妙がありました。このコンビでシリーズを続けても見たいと思いますし、マドンナを含め毎回トリオを入れ替えても、それはそれで新鮮でしょう。
今のルールでは難しい
継続するにしても、さすがに今のままルールでは難しいのかな、とも思います。地方の路線バスは年を追うごとに減少しつつあり、その穴を埋めるべく各地に普及したコミュニティバスも、最近はオンデマンドタクシーなどに切り替えられるケースが出てきました。
今後、ローカル路線バスをつないで旅をするのは、ますます難しくなるでしょう。ならば、番組も、時代に即したルール変更があってもいいのでは、という気がします。そうしなければ、本当に「ルートの枯渇」によって番組が打ち切りになりそうです。
どんな形であれ、この傑作番組の存続を願うのは筆者だけではないでしょう。
アイデア抜群のテレビ東京制作スタッフのことですから、きっと今よりおもしろい切り口を見つけ出してくれると期待して、最終回第25回のオンエアを待ちたいと思います。(鎌倉淳)