政府とJR東海は、リニア中央新幹線の大阪への延伸時期を2045年から前倒しする検討に入りました。最大8年短縮する案が有力です。実現すれば2037年にも名古屋~新大阪間のリニア中央新幹線が開業することになります。
仮にリニアが2037年に開業するのなら、北陸新幹線の敦賀以西のルート選定に影響を及ぼす可能性がありそうです。
品川~名古屋は2027年開業予定
リニア中央新幹線は、東京(品川)~名古屋を40分、東京~新大阪を67分で結ぶ計画です。品川~名古屋は着工済みで、2027年に開業を予定しています。
事業主体のJR東海は、最終的に新大阪までの延伸を予定していますが、建設費による債務膨張を防ぐため、名古屋開業後8年の経過期間を措いて大阪着工に踏み切ることにしています。このため、名古屋~新大阪間の開業は2045年の予定となっています。
財政投融資を活用
しかし、政府・自民党や沿線自治体から早期の大阪開業を望む声が根強く、JR東海も延伸そのものには前向きです。そのため、政府はJR東海の財政負担を軽減することで8年間の空白期間を解消できないか、検討してきました。
日本経済新聞2016年5月26日付けによりますと、財政投融資制度を活用し、超長期の資金をJR東海に低利融資することで、JR東海の財政負担を軽減する案が浮上しているようです。融資額は名古屋~新大阪の延伸に必要な3兆円強となる見込みだそうです。
具体的には、国が複数年に分けて国債を発行し、政府系金融機関を通じてJR東海に貸し出す案が浮上しています。こうした金融支援でJR東海が資金確保をできれば、8年の空白期間を措く必要がなくなるという考え方です。
「自力建設」は守られる?
JR東海は、リニアに関して「自力建設による政治介入の排除」にこだわってきました。東京~名古屋間の長野県内のルート決定に関しても、長野県の強い要望を排して自社案である南アルプスルートを押し通しましたが、強い姿勢に出られた理由として、政府や自治体から補助金を受けていないことが挙げられます。
財政投融資を受ければ、一定の政治介入を許す可能性もあります。とはいえ、JR東海が事業費を最終的に全額負担する形に変わりはありませんので、金科玉条の「自力建設」は確保できると踏んでいるのでしょう。
JR東海の柘植康英社長は、5月25日の記者会見で、政府から実効性のある資金支援策が提示されれば前倒しを検討する考えを表明し、「早期開業は我々にも望ましい」と語りました。となれば、なんらかの形で、着工の前倒しが進むのは間違いなさそうです。
北陸新幹線敦賀以西のルートとの兼ね合いは?
リニア中央新幹線が2037年に新大阪開業を迎えるとなれば、気になるのは北陸新幹線敦賀以西のルートとの兼ね合いです。
敦賀以西の北陸新幹線ルートは「米原ルート」「小浜・京都ルート」「舞鶴・京都ルート」の3案に絞られています。このうち、米原ルートについては、JR東海・西日本の両社が「東海道新幹線への直通は不可能」であるとして反対しています。
直通が不可能な理由として、東海道新幹線のダイヤが過密なことと、東海道新幹線と北陸新幹線で運行システムが異なることが挙げられています。しかし、仮にリニアが新大阪開業すれば、ダイヤの過密は解消されます。
北陸新幹線延伸とリニア延伸は数年差
北陸新幹線敦賀以西の開業年は未定ですが、2030年度末とされる北海道新幹線の札幌開業後とみられます。となると、2030年代前半です。一方、リニア新大阪開業が2037年なら、北陸新幹線延伸とリニア開業の間隔は、ほんの数年、ということになります。
一方、システムの問題については、門外漢が論評するのは難しいのですが、2037年まであと20年以上もあり、この間に東海道新幹線と北陸新幹線を直通できるシステムに改修することが不可能という理屈は通りづらいでしょう。20年かけても改修できないとすれば、今度は両社の技術力が問われてしまいそうです。
もし、両新幹線が直通可能になれば、北陸新幹線が米原ルートを選択した場合、山陽新幹線に直通できますし、米原の配線によっては東京~福井・金沢も直通できます。
北陸新幹線の米原開業からリニア大阪開業の数年間は米原駅で乗り換えが生じますが、長期的な視点で見た場合、米原ルートのほうが、利用者の便益は高いように思えます。
国民の便益が高くなる最適解を
一方、北陸新幹線が米原ルート以外を選択した場合、京都~新大阪間の巨額事業費が壁になり、2037年までに新大阪開業を迎えることができるのか疑問です。言葉を換えれば、新大阪まで北陸新幹線を新たに建設する場合、完成はリニア大阪開業より後になる可能性すらあるわけです。
現時点では、JR東海、JR西日本の両社とも米原ルートに難色を示しています。JRが受け入れないルート決定は現実的ではありません。しかし、リニアが前倒しとなるのなら、前提となる事情が変化するわけですから、両社にも再考の余地はあるでしょう。
リニアも新幹線も、JRのたんなる所有物ではなく、国から免許を受けた公共性の高い設備です。ルート設定には、国民の多くが高い便益を得られる最適解を探して欲しいところです。(鎌倉淳)