LCCはコロナ禍を乗り越えられるか。撤退増えるなか新規就航も

エアアジア・ジャパンは全線撤退

格安航空会社LCCの厳しい状況が続いています。エアアジア・ジャパンは日本事業から撤退。ジェットスター・ジャパンは6路線から撤退し、関空の拠点を閉鎖します。一方で、ジップエアはソウルへの初就航を決定しました。新型コロナ禍でのLCCの状況をまとめてみました。

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ピーチ国内線は6割回復

まず、LCC最大手のピーチ・アビエーションは、冬ダイヤが始まる2020年10月25日に、札幌~那覇線と仙台~那覇線の2路線を開設します。いずれもLCCとしては初の路線で、1日1往復ずつ運航します。

ピーチは新型コロナ禍のピークを過ぎた後、7月22日から国内線全24路線で便数を絞りながら運航を再開しています。10月の運航率は66%で、減便はしているものの、当初予定の3分の2の便の運航規模にまで回復しています。

10月25日からは上記の国内2路線の新規開設とともに、約7ヶ月ぶりに国際線の運航を再開。関西、羽田、成田~台北(桃園)線を運航します。

飛行機
※イメージ

ジェットスターは関西から撤退

国内2位のジェットスター・ジャパンも、ピーチとほぼ同時期の7月23日に国内線全路線を再開。ただ、10月の運航率は47%にとどまっています。国内24路線のうち、10月25日からの冬ダイヤで、成田~庄内、関西~高知・福岡・熊本、中部~新千歳・鹿児島の6路線を運休します。この6路線は3月まで運航を計画しておらず、2021年夏ダイヤの再開も未定。事実上の「撤退」と受け止められています。

このほか、2019年に鳴り物入りで就航した成田・関西~下地島は12月25日~1月3日の年末年始のみ運航。また、関西~新千歳や関西~那覇は11月中の運休を決め、12月以降は未定です。

11月は成田発着12路線、中部発着2路線の、計14路線に縮小します。関西発着では、成田線のみが残ります。関西ベースの乗務員には希望退職や長期の無給休暇を提案しており、関西の事務所を閉鎖すると報じられています。拠点を成田に絞り、しばらくは守りの経営を続けるようです。

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春秋航空も規模縮小

国内3位の春秋航空日本は、成田~札幌、広島、佐賀の3路線を有しますが、10月は主に週末のみの運航です。国際線は6路線がありますが、運航しているのは成田~ハルビン、天津線のみで、どちらも週1便の規模です。9月には希望退職を募集しており、こちらも守りの経営となっています。

国内4位のLCCだったエアアジア・ジャパンは、10月の運航を取りやめ、日本事業から撤退することが決まりました。中部空港を拠点とする唯一のLCCでしたが、事業開始から3年ほどで姿を消すことになります。

ジップエアが新参入

JAL系列の新たなLCCであるジップエアは、10月16日に成田~ソウル線に旅客便が初就航します。同社は貨物室の広いB787-8を機材に用いていることが奏功し、一足早く貨物便として6月にバンコク線、9月にソウル線が就航していましたが、ようやく客を乗せるLCCとしてスタートします。

今後は、貨物便として運航しているバンコク線の旅客化、さらにはホノルル線の開設も目指します。

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収益力の違い

LCC各社の収益力には差があります。航空会社の収益力を示すイールド(輸送人キロ あたり旅客収入)では、2019年度の統計で、ピーチが7.6円、ジェットスターが8.3円、春秋航空日本が7.6円、エアアジア・ジャパンが11.7円となっています。

年度により波があるので一概にはいえないのですが、成田を拠点とするジェットスターが、関西拠点のピーチよりイールドが高い傾向を示しています。これだけを見ると、ジェットスターのほうが、ピーチより高い値付けをして儲けているように感じます。

ところが、新型コロナの影響のない2019年3月期決算で、ピーチは41億円の営業利益を計上しているのに対し、ジェットスターは2019年6月期決算で10億円の営業利益にとどまっています。

簡単にいえば、ピーチは客単価が安いのに儲けているわけで、おそらくは搭乗率が高く、効率的な経営体制になっているのでしょう。

まとめてみると

まとめてみると、ピーチは効率的な経営体制を活かし、運航規模を縮小しながらも、国内線の路線網を維持した上で、新路線も展開しつつ運航を継続。国際線の展望がみられないなか、国内線の路線網を広げて、需要を拾う戦略に出たと言えます。

一方で、ジェットスターはおそらく以前から低搭乗率に悩む路線を抱えており、コロナを乗り切るために、そうした不採算路線を切り捨てる選択をしました。関西空港から撤退し、成田に経営資源を集中。「選択と集中」の戦略です。

資本の違いもあります。ピーチはANAの連結子会社で、要するにANAの別働隊です。ANA本体で飛ばすよりピーチで飛ばした方が安いという考え方ができるでしょう。一方、ジェットスターへのJALの出資は50%にとどまり、持分法適用会社ですが連結子会社ではありません。

春秋航空日本は、最低限の規模で事業をなんとか維持し、日中路線の再開に賭けるという形でしょうか。中国では国内線はコロナ禍前の水準に需要が戻りつつあり、春秋航空(上海)には日本の需要回復を待つ余力があるのかもしれません。

ちなみに、春秋航空(上海)の2020年6月中間決算は、約630億円の売り上げに対し約80億円の赤字にとどまり、株価はコロナ前の水準を回復しています。

エアアジア・ジャパンは、需要の回復を待ちきれずに撤退に追い込まれました。同社は2017年初就航で、日本での経営基盤を固め切れていなかったところにコロナに襲われました。マレーシアのエアアジアも厳しい状況にあり、日本事業を支えるだけの力はないのかもしれません。

そこへ、新たなLCC、ジップエアが、貨物輸送を支えに参入する、という構図です。親会社のJALも、世界的にみれば、財務に余力のある航空会社です。JALは100%出資のジップエアを活用し、国際線の別働隊として活用するのでしょう。

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乗り越えられるか

今後の見通しはなんともいえませんが、9月の4連休の混雑を経ても新型コロナの国内感染者が大きく増えなかったことから、今後、国内の旅行需要は緩やかに回復していくと予想します。

国際線については、業務渡航から徐々に解禁されていく兆候は見られますが、先行きは見通せません。国内線のような回復を見せるには、時間がかかりそうです。

とくに、外国人観光客が再び日本を賑わせるのはまだ先になりそうです。近年の日本のLCCは、インバウンドの需要に支えられていた側面が強いので、国内線だけが回復しても、苦しい経営状況は変わらないでしょう。

LCCが新型コロナを乗り越えられるかは、外国人観光客の入国規制がいつ緩和されるかが大きなポイントですが、全く予想がつきません。(鎌倉淳)

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