熊本市電の延伸計画が、実現へ向け動き始めています。熊本市では、健軍町~新市民病院までの1.5kmの延伸について、2026年度開業目標を掲げました。
2000年代から延伸構想
熊本市電の延伸構想は古くからあり、2000年代にはいくつかの案が公表されました。熊本空港への延伸や、藤崎宮前での熊本電鉄との接続案などが含まれていましたが、いずれも実現には至りませんでした。
前に進まない市電延伸計画が改めて具体化しはじめたのは、2014年12月の市長選で大西一史氏が当選してからです。大西氏は、市長選のマニフェストに市電延伸を盛り込んでいました。具体的には、田崎橋から先の西部方面、南熊本駅への延伸、健軍からグランメッセ経由熊本空港への延伸、の3路線を候補としていました。
3方面5ルートの延伸案
大西市政となった2015年度に、3方面5ルートについて、導入空間、採算性、道路交通への影響などの観点で具体的な検討が始まります。
検討対象となった「5ルート」は以下の通りです。
ルート名 | 区間 | 経由地 | 距離 |
---|---|---|---|
沼山津ルート | 健軍町電停~沼山津周辺 | 県道熊本高森線 | 約2.3km |
自衛隊ルート | 健軍町電停~新市民病院周辺 | 第二高校、東市役所 | 約1.5km |
産業道路ルート | 九品寺交差点電停~県民総合運動公園周辺 | 日赤病院、県立大学 | 約9.5km |
田崎ルート | 田崎橋電停~西区役所周辺 | 田崎市場 | 約4.5km |
南熊本駅ルート | 辛島町~南熊本駅周辺 | 熊本地域医療センター | 約1.7km |
自衛隊ルートを優先
2015年の調査では、このうち自衛隊ルート、南熊本駅ルートの2ルートが相対的に優位と判断されました。両ルートは利用者が多く見込め、道路を拡張せずに軌道を敷設できるため工事のハードルが低い、というのがその理由です。
2016年度にさらに事業の精査が行われ、結果として、まずは自衛隊ルートを優先して検討することが決まりました。健軍町電停~新市民病院周辺の約1.5kmで、途中、熊本県立第二高校や、東区役所の近くを通ります。
終点の近くには、新しい熊本市民病院が2019年10月に開院します。周辺には、ルートの名称となった陸上自衛隊健軍駐屯地もあります。このように、延伸先には公的機関がいくつも立地していて、多くの利用者が期待できます。
概算事業費100億円
2016年度の調査では、自衛隊ルートの利用者は年間58万人との予測です。概算事業費は100億円~130億円、費用便益比は1.0~1.3、収支採算性は一定の黒字を確保する見込みとされました。
事業期間は7年ほど。2018年12月の市議会で、熊本市は2026年度の開業を目指すことを明らかにしました。2019年度から基本設計に入るとし、その予算として6,100万円を計上しました。
市議会で凍結決議
ところが熊本市議会では、2019年度予算案を可決するにあたり、この熊本市電延伸関連予算について、「延伸効果や市民ニーズが限定的」などとして、執行を一時凍結する付帯決議をおこないました。
これを受け、熊本市では延伸についてアンケートを実施。6月24日に、その結果を公表し、83%が「進めた方が良い」と答えたと発表しました。
アンケート結果を受け、予算執行凍結が解除されれば、2026年の延伸開業に向け、1つのハードルを越えることになります。
多角連携都市
熊本市電の新市民病院延伸が、本当に実現するのか、まだ見通せない部分はあります。
ただ、熊本市では、「多核連携都市」の実現を目指しています。多核連携都市とは、中心市街地や地域拠点が、利便性の高い公共交通により相互に連携し、人口密度が維持された都市を指します。市電延伸は、こうした政策目標を達成する手段の一つとして位置づけられています。
そのため、採算性で大きな問題がないならば、新市民病院までの延伸は政策目標に適合します。となると、2026年開業はともかくとして、いずれ実現が期待できそうです。(鎌倉淳)