近鉄「運賃値上げ」の研究。ライバル会社と比較してわかったこと

阪急の倍に

近鉄が2023年4月に運賃を値上げします。民鉄として国内最大の路線網を誇る近鉄ですが、値上げによって運賃はどう変わるのでしょうか。

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平均改定率17%

近鉄は2023年4月に運賃改定を実施すると発表し、国土交通省に申請しました。大手民鉄では、2023年3月に値上げを実施する東急に続くものです。

運賃改定率は平均17%。東急の12.9%を上回る大幅値上げとなります。初乗り運賃は20円値上げで180円。通勤定期運賃は18.3%と同水準で値上げする一方、通学定期は9.2%の値上げにとどめます。

新運賃は以下の通りです。値上げ率が最も小さいのが3kmまでの13%で、6kmまで14%、10kmまで15%と、近距離は抑えめです。11km以上では、どの区分でも18~20%程度の値上げとなっています。

近鉄新旧運賃表
距離
(km)
現運賃
(円)
新運賃
(円)
1~3 160 180
4~6 210 240
7~10 260 300
11~14 300 360
15~18 360 430
19~22 410 490
23~26 450 530
27~30 500 590
31~35 570 680
36~40 640 760
41~45 700 830
46~50 770 910
51~55 840 1,000
56~60 900 1,070
61~65 960 1,140
66~70 1,020 1,210
71~75 1,090 1,290
76~80 1,160 1,370
81~85 1,220 1,450
86~90 1,290 1,530
91~95 1,350 1,600
96~100 1,410 1,670
101~110 1,470 1,740
111~120 1,590 1,880
121~130 1,720 2,040
131~140 1,830 2,170
141~150 1,950 2,310
151~160 2,050 2,430
161~170 2,160 2,560
171~180 2,290 2,710
181~190 2,410 2,860
191~200 2,530 3,000
201~210 2,640 3,130
211~220 2,770 3,280
221~230 2,880 3,410
231~240 3,000 3,560
241~250 3,110 3,690

 
近鉄8600系

主要区間の運賃

値上げによる主要区間の運賃の変化を下表にまとめました。

看板特急が走る難波~名古屋間は450円の値上げで2,860円に。旅行者がよく使いそうな京都~奈良間は120円の値上げで760円となっています。平均17%という値上げ率はやはり大きく、体感的には「2割増」という印象でしょうか。

近鉄主要区間の新旧運賃
主要区間 現運賃
(円)
新運賃
(円)
難波~布施 260 300
難波~生駒 410 490
難波~学園前 450 530
難波~奈良 570 680
難波~京都 960 1,140
難波~八尾 300 360
難波~大和高田 570 680
難波~大和八木 640 760
難波~名張 1,020 1,210
難波~伊勢市 1,830 2,170
難波~賢島 2,350 2,770
難波~津 1,720 2,040
難波~名古屋 2,410 2,860
阿部野橋~古市 410 490
阿部野橋~尺土 570 680
阿部野橋~橿原神宮前 640 760
阿部野橋~吉野 990 1,170
京都~丹波橋 210 240
京都~新田辺 410 490
京都~奈良 640 760
京都~伊勢市 2,050 2,430
名古屋~桑名 450 530
名古屋~四日市 640 760
名古屋~津 1,020 1,210
名古屋~伊勢市 1,470 1,740
名古屋~鳥羽 1,750 2,070

 
難波~名古屋間の運賃と特急料金の総額は、これまで4,340円でしたが、今後は4,790円となります。「ひのとり」は200円加算されますので、4,990円となります。

新大阪~名古屋間の新幹線「のぞみ」指定席6,680円よりはだいぶ安いですが、自由席5,940円とは1,000円程度の差に縮まり、「ぷらっとこだま」4,600円よりも高くなってしまいます。

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ライバル会社と比較する

新型コロナ禍後、運賃値上げを正式に申請した関西の民鉄は近鉄が初めてです。もともと近鉄は、民鉄のなかで運賃がとくに安いわけではなかったのですが、値上げにより、ライバルとどのくらいの差が出るのでしょうか。

関西圏の阪急、京阪、南海、JR西日本と、キロ程ごとの運賃を比較してみたのが下表です。JR西日本は50kmまで電車特定区間、60~100kmまで幹線の運賃表を用いています。

関西鉄道会社運賃比較(円)
距離
(km)
近鉄 阪急 京阪 南海 JR西
1 180 160 160 160 160 130
2 180 160 160 160 160 130
3 180 160 160 160 160 130
4 240 210 160 210 210 160
5 240 210 190 210 210 160
6 240 210 190 210 210 160
7 300 260 190 210 210 180
8 300 260 190 270 260 180
9 300 260 190 270 260 180
10 300 260 230 270 260 180
11 360 300 230 270 260 220
12 360 300 230 270 340 220
13 360 300 230 310 340 220
14 360 300 230 310 340 220
15 430 360 270 310 340 220
16 430 360 270 310 380 310
17 430 360 270 310 380 310
18 430 360 270 340 380 310
19 490 410 270 340 380 310
20 490 410 280 340 450 310
21 490 410 280 340 450 400
22 490 410 280 340 450 400
23 530 450 280 360 450 400
24 530 450 280 360 500 400
25 530 450 280 360 500 400
26 530 450 280 360 500 470
27 590 500 320 360 500 470
28 590 500 320 360 570 470
29 590 500 320 380 570 470
30 590 500 320 380 570 470
31 680 570 320 380 570 560
32 680 570 320 380 610 560
33 680 570 320 380 610 560
34 680 570 380 380 610 560
35 680 570 380 400 610 560
36 760 640 380 400 650 650
37 760 640 380 400 650 650
38 760 640 380 400 650 650
39 760 640 380 400 650 650
40 760 640 380 400 700 650
41 830 700 380 410 700 730
42 830 700 380 410 700 730
43 830 700 400 410 700 730
44 830 700 400 410 700 730
45 830 700 400 410 750 730
46 910 770 400 410 750 810
47 910 770 400 420 750 810
48 910 770 400 420 750 810
49 910 770 400 420 750 810
50 910 770 400 420 810 810
60 1,070 900 470 990
70 1,210 1,020 530 1,170
80 1,370 1,160 1,340
90 1,530 1,290 1,520
100 1,670 1,350 1,690

※JRは50kmまで電車特定区間、60kmから幹線運賃。青は最安値、赤は最高値、黄は近鉄が運賃値上げでJRを逆転する区分

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中距離で阪急が安く

近距離では、JR西日本の電車特定区間の安さが際立ちます。いまだに初乗り130円というのは驚異的で、15kmまではJR西日本が最安値です。

JRを除く民鉄は、近鉄の現運賃も含めて初乗りは160円で横並びですが、4km以上で差が付きます。全区間を通じて阪急が安定的に安く、運賃額があまり上がっていきません。

阪急の10km(230円)と26km(280円)の差が50円しかないことには驚かされます。神戸線を例に取ると梅田から塚口(10.2km)が230円で、御影(25.6km)が280円です。京阪神エリアでJRと競合するため、価格を低く設定しているのでしょう。

京阪は、JR・阪急と競合する京都~大阪間が該当する40km前後では阪急とほぼ同じですが、そこに至る中距離区間では高めです。淀川左岸エリアでは他社とそれほど競合しないので、強気の価格なのでしょう。

上表では省略していますが、阪神も阪急とほぼ同水準で、関西民鉄では阪急・阪神の運賃が安いといえそうです。

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阪急の倍に

関西民鉄で運賃が高いのが近鉄と南海です。両社の運賃は現行では南海のほうがやや高いですが、近鉄は新運賃になると南海より全区分で高くなります。31km以上では阪急の倍額以上となります。JRと比べても、これまで36km以上では近鉄が安かったのですが、値上げによりほとんどの区分で近鉄が高くなります。

それでも近鉄が値上げに踏み切らざるを得ないのは、相応の事情があるからです。近鉄によると、新型コロナ禍がもたらした「新しい生活様式」が定着しつつあり、収入減少を補うことは困難になっています。

事情は他社も同じなので、今後、近鉄以外の鉄道会社でも値上げが行われる可能性は高そうです。となると、近鉄だけが高いという状況は長く続かないでしょう。

利用者としては受け入れるほかありませんが、最近は乗り換えアプリの普及で「最安値」を探しやすくなりました。鉄道各社の運賃改定を頭にいれながら、「どこの会社が安い」という先入観にとらわれることなく、賢く使いたいものです。(鎌倉淳)

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