観光列車はなぜ二極化するのか。「グリーン車」と「定期運用」が増えている理由

インバウンド増と人口減少を反映

観光列車が二極化しています。グリーン車扱いの豪華列車と、普通列車の定期運用に観光車両を充てる事例が増えているのです。その理由を探ってみました。

※この記事は、9月25日に刊行された『鉄道未来年表』(鎌倉淳著、河出書房新社)で、ページ数の関係から未掲載となった項目を基にしたものです。

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豪華観光列車が続々登場

2024年4月26日、JR九州の新たな観光列車「かんぱち・いちろく」が運行を開始した。博多~由布院、別府を結ぶ列車で、料金は食事付き1万8000円から。全席グリーン車仕様で、JR九州の古宮洋二社長は「走るスイートルーム」と表現した。

2024年10月5日には、JR西日本の新たな観光列車「はなあかり」もデビューした。キハ189系を改造した車両で、グリーン車2両とスーペリアグリーン車1両の3両編成。季節ごとに運行エリアを変える列車で、第1弾は敦賀から小浜線、京都丹後鉄道を経て城崎温泉に至る経路である。

JR北海道は「スタートレイン計画」を発表している。登場するのは「赤い星」「青い星」という二つの観光列車だ。キハ143形一般形気動車を改造するもので、「赤い星」はラグジュアリークラスで主に釧網線を走る。「青い星」はプレミアムクラスで主に富良野線を走る。運行開始は2026年春の予定である。

かんぱち・いちろく

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インバウンド集客も

比較的新しい3つの観光列車を挙げたが、いずれも共通するのはハイグレードということだ。単なる偶然ではなく、最近の観光列車はグリーン車主体で構成される例が増えていて、ハイグレード化が進んでいる。定期運行の観光特急でも、たとえば「サフィール踊り子」はグリーン車とプレミアムグリーン車しか連結していない。

究極の豪華列車としては、JR東日本の「トランスイート四季島」やJR九州の「ななつ星in九州」などのクルーズトレインもよく知られている。これらは、いまも予約が難しいほどの人気である。JR北海道も、伊豆急行の「THE ROYAL EXPRESS」を使って、道内周遊のクルーズトレインを運行するようになった。

豪華列車が増えている理由として、鉄道会社が観光列車での増収に力を入れていること、ふだん鉄道旅行をしない客層の掘り起こしを狙っていることなどが挙げられる。

豪華観光列車はインバウンドにも人気なので、リッチな客に対しては、相応の単価にしたほうが集客しやすいという側面もありそうだ。

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「青春18きっぷ」で乗れる観光列車は減少傾向

一方で、庶民的な観光列車、つまり、普通・快速列車の普通車主体の観光列車は減少傾向だ。JR観光列車の草分け的存在といえば五能線の快速「リゾートしらかみ」で、いまでも乗車券と座席指定料金だけで利用できるが、こうした観光列車は少数派になりつつある。

青春18きっぷでは、別途指定席券を購入すれば、普通・快速列車の普通車指定席に乗車できる。しかし、普通車指定席を連結している普通・快速列車の観光列車が減少傾向にあり、「青春18きっぷで乗れる観光列車」は限られつつある。

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定期運用に観光車両

少しずつ増えているのが、定期運用にも用いられる「観光車両」である。たとえば、北海道では、キハ40形という古い車両を改装して「北海道の恵み」という観光車両に仕立てている。座席配置はほとんど変更せず、ふだんは定期運行の普通列車に充当しているが、観光列車としても運行できる多目的車両である。

観光車両には特別感があるので、定期列車に使われていると路線の魅力向上に役立つ。もう少し手軽なラッピング車両なら全国に増えていて、たとえばJR西日本の境線は、全車両が「鬼太郎列車」と呼ばれるラッピングトレインだ。

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観光車両に通学客

こうした車両が走るのは主にローカル線である。ローカル線の日常の利用者は高校生の通学客がほとんどだが、人口減少により地方では高校生が激減している。

通学客だけでは席が埋まらなくなりつつあるので、普通列車を観光列車兼用にして、観光客に少しでも乗ってもらおう、という策のようだ。つまり、定期列車への観光車両充当は、人口減少対策の側面を持つのである。

地方の若年人口は、これから加速度的に減少していく。となると、通学輸送主体のローカル線でも観光客輸送にシフトしていかざるをえない。

急増しているインバウンドでは、日本国内の移動にクルマではなく鉄道を利用する旅行者が多い。そうした客を視野に入れながら、定期普通列車でも観光車両やラッピング車両が増えていくだろう。やがて、ローカル線では、「観光車両に通学客を乗せる」といった運行形態が定着するかもしれない。

豪華観光列車の増加と、定期列車への観光車両投入という「二極化」は、インバウンド増と人口減少を受けた、ローカル線の鉄道利用者層の変化を反映しているようである。ならば、この傾向は当分続くことになりそうだ。(鎌倉淳)


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