「上瀬谷ライン」の大枠が固まる。新交通システムを選定、瀬谷駅は地下に

延伸計画は未定

横浜市の旧米軍上瀬谷通信施設の跡地と相模鉄道瀬谷駅を結ぶ新交通システム「上瀬谷ライン」の大枠が固まりました。新交通システムを採用し、瀬谷駅周辺は地下式で建設。2022年の事業着手を目指します。

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花博輸送を担う

「上瀬谷ライン」(仮称)は、横浜市の旧米軍上瀬谷通信施設跡地へのアクセスのために計画されている中量軌道輸送システムです。施設跡地では2027年に国際園芸博覧会(花博)の開催が予定されていて、その後はテーマパークの開設も構想されています。上瀬谷ラインは、これらの利用客を運ぶ中軸的な輸送機関となります。

上瀬谷ライン計画について、横浜市は2020年1月24日に環境アセスメントの計画段階配慮書を公表しました。それによると、上瀬谷ラインの総延長は2.8kmで、全線複線、起点となる瀬谷駅と、旧上瀬谷通信施設に終点の上瀬谷駅(仮称)を設けます。上瀬谷駅の先には車両施設(5ha)も整備します。

上瀬谷ライン計画図
画像:(仮称)都市高速鉄道上瀬谷ライン整備事業に係る計画段階配慮書

新交通システムを選定

計画段階配慮書では、輸送方式について、「新交通システム(AGT)、都市モノレール、LRT 等」を候補して挙げた上で、「具体的な中量軌道輸送システムの種類や構造形式については、周辺環境への影響や経済性等を総合的に比較検討し、決定します」と記されました。

これについて、2020年6月30日に開かれた横浜市議会の建築・都市整備・道路委員会で、市側は「タイヤで走行する新交通システムを選定」したことを明らかにしました。「金沢シーサイドラインの技術的知見を参考にしながら検討を深度化する」とも付け加えており、横浜市金沢区のシーサイドラインと同様のシステムになることを示唆しました。

事業主体については、シーサイドラインを運営する「横浜シーサイドライン」が有力視されていますが、この日の答弁では未定とされました。

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瀬谷駅は「公共施設内のどこか」

「上瀬谷ライン」の路線はほぼ環状4号線(上瀬谷線)に沿って作られます。事業は南区間(約1.9km)と北区間(約0.9km)に分けられ、配慮書では、地下、高架、地表を組み合わせた構造で4案を候補にあげていました。

上瀬谷ライン計画図
(仮称)都市高速鉄道上瀬谷ライン整備事業に係る計画段階配慮書

これについては、同委員会で、市側は「瀬谷駅から旧通信施設までは地下式、旧施設内は地表式」を採用することを明らかにしました。配慮書の案1が採用されたことになります。地下区間は約1kmで、シールドトンネルにより施工します。

瀬谷駅の位置については、「公共施設内のどこかに駅を作るが、位置は決定していない」と答弁し、乗り換えの利便性や施工方法を考慮して決定するとしました。相鉄線瀬谷駅の地下化は検討していないとのことで、「上瀬谷ラインは地下駅、相鉄は地上駅」という形で連絡することになりそうです。

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事業費700億円

事業のスケジュールについては、2020年度に設計、測量、調査を実施し、軌道法の特許申請をおこないます。2021年度以降に都市計画を決定し、軌道法特許を取得したうえで、用地の取得、工事認可申請をおこないます。これらが順調にいけば、2022年度に工事着手し、2027年春の花博開幕に間に合わせる形で開業します。

概算事業費に関しては「明確には出ていない」との答弁でしたが、朝日新聞7月10日付によりますと約700億円とのこと。2.8kmの新交通システムとしては巨額ですが、路線にシールドトンネルを含むこと、5haもの車両施設も設けることなどから、費用が膨れあがってしまうのでしょう。

近年開通した新交通システムとして、東京都の日暮里舎人ライナーをみてみると、9.7kmで総事業費が約1600億円です。上瀬谷ラインがその3分の1に満たない距離で700億円なら、1kmあたりの単価では約1.5倍です。朝日新聞によると、「市が地下トンネルや軌道の建設などで半額ほどを支出し、残りの車両や駅施設の整備などを運行事業者が負担する案などが検討されている」とのことです。

ちなみに、10.8kmの営業距離がある金沢シーサイドラインの場合で、年間運輸収入は約37億円にとどまります。上瀬谷ラインの概算事業費700億円が事実なら、採算性は厳しくなりそうです。

事業主体として、横浜シーサイドラインが有力視されながら決まらないのは、採算の悪い新線を押しつけることに判断の難しさがあるからでしょう。

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延伸はグリーラインの後?

上瀬谷ラインには、将来的に、長津田や十日市場方面への延伸構想があります。これについての議員からの質問に対して、市側は「鉄道・軌道を敷くためには、国の交通政策審議会を通すという原則があり、今回の上瀬谷も答申に書かれている。その先については、まだ未定」と答弁しました。

2016年の交通審議会答申では、「上瀬谷通信施設跡地の開発等に対応する新たな交通については、関係地方公共団体・鉄道事業者等において、LRT等の中量軌道等の導入について検討が行われることを期待」という記述があり、上瀬谷ラインはこれに基づいていると説明したわけです。

そのうえで、「先の延伸については、審議会の記載にはない。横浜市はグリーンラインを延伸するという関係もあり、伸ばしたときに採算がとれるかという課題もある」と慎重な姿勢を示しました。横浜市では、現在、ブルーラインのあざみ野延伸に取り組んでいますが、その後にグリーラインの鶴見や二俣川への延伸構想も控えているのです。

グリーンラインはすでに交通審議会答申に記載されていて、上瀬谷ラインの延伸より優先順位は上です。となると、上瀬谷ラインの延伸に取り組むとしても、グリーンラインの後にならざるを得ない、ということです。ただ、答弁では「延伸の意見があることは認識」とも付け加えており、延伸そのものを否定はしませんでした。(鎌倉淳)

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