西鉄貝塚線と福岡市地下鉄箱崎線の直通運転の検討が再開されます。福岡市と西鉄が、それぞれ中期的な計画に検討を盛り込みました。これまで何度も浮上しては頓挫してきた構想が動き出しそうですが、実現には強力なライバルも存在するようです。
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西鉄貝塚線、地下鉄直通構想に現実味。人口増加とバス減便が重なって

3両直通案と増結分離案
西鉄貝塚線の地下鉄直通構想を改めて検討するとして、どのような形での直通運転が考えられるのでしょうか。
福岡市がいまも候補としているのは、先述した「3両直通案」と「2両+4両増結分離案」の2つです。
順にみていきましょう。
3両直通案
3両直通案は、3両編成の車両を新造し、天神~貝塚・西鉄新宮間で運用する案です。地下鉄天神駅には、折り返し設備を新設します。
この案では、貝塚線、箱崎線の全列車が天神まで乗り入れるため、箱崎線からの乗車区間が天神を越えない場合、利便性が向上します。いっぽうで、乗車区間が天神を越える場合は、必ず天神または中洲川端で乗り継ぎが生じるため、直通列車のある現状より利便性が低下します。
また、箱崎線の多くの列車が3両編成になりそうです。その場合、貝塚~天神間で輸送力が低下し、混雑が激しくなる可能性もあります。

西鉄は受け入れ可能か
3両直通案では、貝塚線内は現状の2両から3両になりますので、輸送力が増強され、ラッシュ時の混雑が緩和するでしょう。天神まで全列車が直通しますので、利便性は高まります。
貝塚線のホームは3両編成なら対応できますので、延伸の必要はありません。そのため、貝塚線内で大規模な土木工事は不要です。
西鉄は車両の増備が必要になりますが、主たる投資が車両の増備だけなら、リターンの範囲内の投資ともいえるでしょう。そもそも西鉄貝塚線の現状の混雑率の高さを考えれば、輸送力増強は必要です。
したがって、西鉄サイドからみれば、3両直通案はもっとも現実的な案とみられます。
一方の福岡市としては、天神駅に折り返し設備を作らなければならないので、その費用がハードルとなります。
増結分離案
2両+4両増結分離案は、貝塚線内はこれまで通り2両で走り、貝塚駅で4両を増結して、地下鉄に乗り入れる案です。
3両編成案に比べて、地下鉄天神駅での折り返し設備の整備が不要となるメリットがあります。現状どおり、箱崎線から空港線姪浜方面への乗り入れも続行できます。
ただ、増結と分離に時間を要するため、直通運転化による時間短縮効果があまり見込めないという課題があります。増結分離を終日で実施するとなると、手間も人手もかかり、持続性にも疑問が残ります。

再試算でも基準を満たせず
福岡市が2024年度に再試算したところによりますと、3両直通案の概算事業費は350億円で、費用便益費が0.5、単年度収支は年0.3億円の黒字となっています。2両+4両増結分離案は、概算事業費が180億円で、費用便益費が0.4、単年度収支は年0.6億円の黒字です。
また、両案に共通する課題としては、車両の調達があります。地下鉄空港線・箱崎線では全車両を更新中で、2027年度に完了する予定です。そこへ新たに3両または4両編成を投入することになるため、扱いが問題になります。
両案とも一長一短ですが、補助基準を満たすのであれば、より実現性が高いのは3両直通案でしょう。天神駅に折り返し設備を設置するハードルは高いですが、貝塚駅で増結・解決を永久に続ける案よりは現実感があります。
そのため、国交省の補助基準が変われば、3両案での直通運転が動き出す可能性はあるでしょう。したがって、西鉄貝塚線の福岡地下鉄直通が実現するとすれば、最有力は3両直通案といえます。
評価手法マニュアル改訂が滞り
ただ、現時点では、国交省の補助基準の改訂は不透明です。ポイントとなるのは『鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル』の改訂ですが、2023年12月に開かれた検討会議を最後に、すでに2年以上、表面上は新たな動きがみられません。
その理由は明確ではありませんが、どうやら、北陸新幹線新大阪延伸とのかかわりがあるようです。延伸ルートに決まった小浜・京都ルートは費用便益費の公表が先送りされていて、評価手法マニュアルの改訂、すなわち基準緩和を待っているかのようです。
まったくの印象論ですが、小浜・京都ルートがクリアできるような基準になるように配慮しているようにも感じられます。与党の整備新幹線プロジェクトチームで、小浜・京都ルート自体も含めた再試算がなされている最中でもあり、状況は複雑です。
行方は見通せず
評価マニュアルの改訂が、最終的にどういう形に収まるのか、高度に政治的な話になるので、筆者の想像の及ぶところではありません。ただ、この改訂は整備新幹線をはじめとした各地の鉄道プロジェクトに非常に大きな影響を及ぼすので、慎重な扱いになっているのは確かでしょう。
結局のところ、西鉄貝塚線と地下鉄箱崎線の直通運転実現の成否を握るのは、国交省によるマニュアル改訂になるのですが、その行方は見通せません。
七隈線延伸とも競合
ところで、福岡市地下鉄を巡っては、七隈線の福岡空港延伸計画も浮上しています。福岡市議会では、次のようなやりとりもありました。
「地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線との直通運転や井尻駅周辺の高架化など全会一致で採択された請願案件があり、これまでも遅滞なく進めるよう求めてきた。一方で、今回の福岡空港などへの延伸には多額の費用を要するはずである。都市交通基本計画に基づく取組であることは理解するものの、積み残している課題を後回しにすることは適切ではないと思っている。優先順位については議会と十分に協議しながら進めるべきだと考える」(交通対策特別委員会和7年交通対策特別委員会2025年11月21日)
発言者は不明ですが、この発言からは、貝塚線直通運転を推進する議員が、七隈線延伸計画に遅れを取ることを警戒していることがうかがえます。
財政や人員の問題から、両事業を同時並行で実施するのは難しいため、箱崎線・貝塚線直通計画は、七隈線延伸と競合する形になるのかもしれません。ライバルは七隈線、ということです。
七隈線の空港延伸は、インバウンド誘致という国策とも合致し、補助金も付きやすそうで、貝塚線からみれば強敵でしょう。
実現は見通せず
となると、話はさらに複雑で、箱崎線・貝塚線直通と七隈線延伸のどちらに重きを置くかという判断もしなければならなくなります。
そのうえで、実現するなら、天神の折り返し設備を作るという難しい事業に取り組むことになり、昨今の工事費インフレにも向き合わなければなりません。
こうした状況をみると、現時点で、箱崎線・貝塚線直通運転の実現が見通せるとはいえません。以前に比べれば現実味を帯びてきましたが、またも腰砕けに終わる可能性もありそうです。(鎌倉淳)






















