山陽新幹線が「スーパー早特きっぷ」など格安運賃を拡充も、LCCのないエリアには恩恵なし。改めて感じる「健全な競争」の大切さ

JR西日本が山陽新幹線で格安運賃を拡充させています。まず、2013年3月下旬より新たな格安チケットが3種類登場します。

目玉といえるのが、「スーパー早特きっぷ」で、新大阪・新神戸~小倉・博多駅間に設定。価格は均一で1万円です。JR西日本インターネット予約「e5489」でのみ購入できる片道きっぷで、利用の14日前まで予約可能です。JR東日本の「えきねっとお先にトクだ値」に近い形のチケットです。

次が、「こだま早特往復きっぷ」。これは、新大阪~博多駅間を直通運転する「こだま」号の普通車指定席を利用する往復きっぷで、料金は往復1万5000円。片道あたり7500円と格安です。発売区間は大阪市内・神姫エリア~北九州・博多エリア間。利用開始の21日前から14日前に発売されます。

最後が、「山陽新幹線4枚きっぷ」。これは、「のぞみ」「みずほ」「さくら」など全ての新幹線に乗車可能な4枚つづりの回数券です。有効期間は購入日から1か月間で、新大阪~博多間の価格が5万2400円。片道1枚当たり1万3100円です。大阪市内・神戸市内~北九州市内・福岡市内に設定があります。

JR西日本では、昨年に「バリ得こだま」というツアー商品を日本旅行から販売開始しています。これは新大阪~博多が片道7500円と格安の設定。これだけでも思い切った施策でしたが、次々に二の矢、三の矢を放ってきている印象です。

山陽新幹線

JR西日本がここまで割引運賃を拡充するのは、ピーチ・アビエーションなどの格安航空会社LCCの台頭でしょう。LCCの価格は就航当初よりも値上げ傾向にあるというものの、大阪~福岡間は2週間前で5000円程度の価格を提示しています。これに対抗するには山陽新幹線も1万円程度まで値を下げないといけない、というのがJR西日本の認識なのでしょう。新幹線はターミナルの利便性が高く、運賃・料金以外の手数料もかからないため、1万円なら総コストでLCCと対抗できる、という考えなのかもしれません。

ところで、今回発売された新たな格安チケットは、「関西圏~福岡圏」のみの設定ばかりです。途中の岡山、広島、山口の各エリアが絡むチケットはありません。岡山、広島エリアへの関西圏からの割引きっぷとしては、すでに「こだま指定席往復割引きっぷ」がありますが、「のぞみ」「みずほ」などに乗れる設定はありません。大阪・神戸~岡山・広島へはLCCが就航しておらず、ライバルといえば高速バスだけ。高速バスとは速度面で比較にならないので「のぞみ」「さくら」を安売りする必要はなく、「こだま」の割引きっぷで対抗させる、という判断でしょう。今回発売の格安チケット群は、LCCの就航していないエリアには恩恵がないというわけです。

最も割引きっぷが少ないのが、「関西圏~山口エリア」で、ここには割引率の高いきっぷがほとんど発売されていません。この区間はLCCがなく、高速バスでも時間がかかりすぎるため、新幹線のライバルは不在。そのため安売りする必要がない、と判断されているようにみえます。

こうして眺めてみると、交通機関に「競争相手」の存在がいかに重要かがよくわかります。新幹線はJRにとって利益の高い路線で、一説には原価率は3割から4割程度とも言われています。新大阪~博多を1万円で販売しても赤字になるわけではなく、ある程度の安売りは可能なのに、「定価」を高めに設定しているわけです。これは航空会社にもいえることで、JALやANAも安売りをしようと思えばできるものの、それをできるだけ避けている姿勢が随所に垣間見えます。つまりJAL、ANA、JRといった既存の大手企業だけでは、本当の競争にはならないのです。

民間企業が利益を追及する姿勢を非難するつもりはありません。とはいえ、適正な価格形成には、やはりある程度の健全な競争が必要、とも思わざるを得ません。「スーパー早特きっぷ」の登場で、新大阪から新山口よりも、博多まで乗ったほうが安い、という逆転現象が生じます。それが、健全な競争の大切さを象徴している気がしてなりません。

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