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JR東日本社長、新たな夜行特急列車の狙いを語る。「ブルートレインの復活ではない」

JR東日本喜㔟陽一社長会見要旨1

JR東日本の喜㔟陽一社長が記者会見で、新たな夜行特急列車の導入について発表しました。「ブルートレインの復活ではない」としたうえで、「新しい旅の楽しみを提案する」と強調しました。

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新たな夜行特急列車

JR東日本の喜㔟陽一社長は、2025年6月10日に記者会見をおこない、「新たな夜行特急列車」を2027年春に導入すると発表しました。記者会見での発言について、プレスリリースでは触れられていない部分を中心にご紹介しましょう。

まず、新たな夜行特急列車については、常磐線特急などで使用しているE657系の車両を、全席グリーン車の個室タイプの客室に改造して投入します。10両編成で定員は120人程度。各個室の定員はタイプ別に1~4人です。定員26人のラウンジも用意します。

運行区間は首都圏から北東北で、時期によって運行エリアを変更します。喜㔟社長は、「1編成しかないため、検査などもあり定期列車は難しい」とし、「地域の観光ニーズに応じて運行する」と述べました。

時期により行き先を変更する、不定期列車での運行とする方針を明らかにした形です。

新たな夜行特急列車
画像:JR東日本プレスリリース

 
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東京~青森12時間

新たな夜行特急列車の運行区間の一例としてあげられたのは青森です。喜㔟社長は「山手線の駅から青森というと、21時ごろに出発して、9時前後に青森に到着する12時間くらいの旅になる」と説明しました。

また、「青森だけでなく、秋田などもある。ただ、あくまでも我々の営業エリアになる」とも付け加えています。

東京から青森まで盛岡経由で走るならば、いわて銀河鉄道や青い森鉄道を経て、9時間程度で到着できます。12時間というのは、かつての特急「あけぼの」が、羽越線経由で運行していた頃の所要時間です。

「我々の営業エリア」という喜㔟社長の発言からも、新たな夜行特急列車の運行例は、東京~青森間を羽越線経由で走ることをイメージしているようです。

ただ、普通に考えれば、いわて銀河鉄道や青い森鉄道を全く通らないこともないでしょうから、「我々の営業エリア」というのは、「JR北海道や西日本などには乗り入れない」という程度の意味と解釈した方がよさそうです。

新たな夜行特急列車
画像:JR東日本プレスリリース

 
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「ブルートレインの復活ではない」

「新しい夜行特急列車」のプレスリリースには、「夜行列車(ブルートレイン)の記憶を受け継ぐ明るい青『メモリアルブルー』を(中略)配し」とあります。

この文言から、記者会見に参加した記者からは、「ブルートレインの復活と受けとめてよいか」という質問が投げかけられました。喜㔟社長はこれに対し、「かつてのブルートレイン、いわゆる寝台列車を復活させるということではありません」と明確に否定しました。

その理由として、「ブルートレインとは、長距離の移動を夜間におこなっていく輸送で、これは新幹線をはじめとした高速輸送のネットワークに置き換えられている」という考え方を示しました。

そのうえで、「寝台列車を受け継ぐというよりは、夜に旅をしていたという寝台列車の思い出をブルートレインの色を使って引き継いでいこう、夜の旅を引き継ごうというもの」と、今回の列車の目的を説明。

「寝台列車を新しく作ろうとか、ブルートレインを復活させようというのではなく、まったく新しく、夜の旅の楽しさを、個室を共用しながら、新しい旅の提案をさせていただくというのが、この列車の考え方」と強調しました。

新たな夜行特急列車
画像:JR東日本プレスリリース

 
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供食サービスは実施せず

車内設備については、個室のほか、5号車にラウンジと販売スペースを設置。ラウンジでは「飲み物やスナックを販売する自動販売機を設置する」と説明しました。

食事については、「ご自分で好きなものをお買いになってお持ち込みになって、ということにしたい」と述べるにとどめ、供食サービスは実施しない姿勢を示しました。

新たな夜行特急列車
画像:JR東日本プレスリリース

 

個室には座席が設置してありますが、フラットにして横になることもできます。枕カバーなどのリネン類も用意します。

また、個室内には大きな荷物を置けるスペースも設けます。喜㔟社長は、「インバウンドのお客さんがなかなか東北地方に1泊以上で行ってくれない」と同社の課題を挙げ、「訪日外国人もゆったり過ごせるように意識して室内空間をデザインした」と狙いを明かしました。

一方、E657系の改造車ということもあり、シャワールームの設置は予定していないことも明らかにしています。

新たな夜行特急列車
画像:JR東日本プレスリリース

 
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新幹線グリーン車よりやや高く

価格については、「いま東京から青森まで、グランクラスは30,740円、グリーン車は23,740円、だいたい若干これにプラスアルファしたくらいでご利用いただける価格設定にしていきたい」と述べました。

現状の新幹線グリーン車よりやや高い程度なので、夜行列車の個室の価格設定として、特段に高額になるわけではなさそうです。いわゆる「クルーズトレイン」とは異なる水準の列車と言えそうです。

新たな夜行特急列車
画像:JR東日本プレスリリース

 
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「カシオペアの後継ではない」

記者会見では、記者から「カシオペアの後継なのか」という質問もありました。

寝台特急「カシオペア」のE26系は、現在、ツアー用車両として使用されていますが、JR東日本では、2025年6月をもって運行を終了させることを明らかにしています。

新しい夜行特急列車が、この後継なのかという質問です。これに対し、喜㔟社長は「カシオペアはいわゆる寝台列車。これは夜行列車。カシオペアの代替というよりは、新たな旅の楽しみを提案させていただく。カシオペアの後継として作ったわけではない」と述べ、「カシオペアの後継ではない」ことを強調しました。

カシオペア
画像:JR東日本プレスリリース

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カシオペアの今後は?

喜㔟社長はカシオペアについて、「運行そのものはやめる」と改めて明言。7月以降に運行しないことを強調しました。

ただ、「イベントとして使おうという取り組みはいくつかある。カシオペアを動かすことでお客様に楽しい体験ができないかという提案があり、実現できる範囲で実現したい」と述べ、何らかのイベントで、限定的に稼働させる予定があることも示唆しました。

カシオペアの車両については、「そうしたイベントを全て終えた時点で、カシオペアをどうするかを別の機会に改めて発表させていただく。車体をどうするかについても、一定の方向性ができれば発表したい」などと述べるにとどめました。

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新しさへの注目促す

喜㔟社長の会見からは、新しい夜行特急列車について、過去のブルートレインや寝台列車の代替と位置づけられることを避けたい様子がうかがえました。鉄道ファンは過去に目が行きがちですが、JRとしては「新しい」に注目してほしい、ということなのかもしれません。

その新しさについては、人数に応じた個室を用意し、そのなかで思い思いに過ごしながら目的地へ旅して欲しい、ということのようです。「乗ること自体も目的となるような」列車を目指すようですが、「リゾートしらかみ」などの観光列車とも異なり、車内での娯楽性はそれほど高くなさそうです。

不定期とはいえ、チケットの一般発売もするようですので、気軽に利用できる列車になりそうです。JRの目論見通り、新たな旅のスタイルが生まれるのでしょうか。(鎌倉淳)

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