JR東日本「次世代予約アプリ」の特許を見てみる。複数事業者の予約を一括管理

運行障害でも変更自在

JR東日本が、新たな旅行予約アプリのシステムを特許申請し、このほど公開されました。複数の交通機関や宿泊施設を一括予約して管理し、予定変更の場合は差額決済もできるという高機能を備えています。次世代旅行予約アプリともいうべき特許の概要を見てみましょう。

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2021年1月14日公開

公開特許公報によりますと、JR東日本が出願したのは、「行動支援プログラム、端末装置及びサーバ装置」の発明。2019年6月27日に出願し、約1年半経過した2021年1月14日に公開されました。内容は旅行予約アプリ、または、旅行予約システムと表現できるものです。

以下、特許公報の内容を見ていきます。なお、下記は特許公報の情報を筆者個人が解釈し、わかりやすく書き下ろしたものであり、特許内容を正確に記しているわけではありません。また、特許出願をしたからといって、JR東日本がこのサービスを開始するとも限りません。特許は出願から1年半で自動的に公開する仕組みです。あらかじめご了承ください。

E5系

これまでのアプリの難点

旅行予約アプリは、すでに多数の会社が公開しています。JR東日本も、特許出願の背景技術として、「ユーザによって入力された出発地、目的地等の情報に応じて、自動的に行動プランを策定の上、これをスマートフォン等のユーザが所持する端末へと送信するシステムが知られている」としています。

これは、インターネットによくある経路検索や、オンライン予約サイトのシステムを指すとみられます。

出願によると、こうしたシステムでは、「一度行動プランを策定した後に、当該行動プランに含まれる行程に、例えば交通機関の障害等の異常が生じた場合には、当初の行動プランに沿って行動すると、後の行程に間に合わない可能性が生じる」ことがあります。

その場合、「当初の行動プランに変更を加える必要性が生じるが、ユーザが発生した異常に対応して自ら代替的な経路を検索の上、行動プランに適切な変更を加えることは容易ではなかった」としています。

たとえば、ダイナミックパッケージで列車とホテルを予約した後に、列車の遅延が生じて予定が変わった場合に、それをアプリ上で変更するのは難しい、ということです。

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変更に対応し予約・決済

JR東日本が特許出願した新システムは、発明の課題として「策定した行動プランに含まれる行程に何らかの異常が生じた場合に、発生した異常に対応して行動プランに適切な変更を加えることを容易とする行動支援プログラム、端末装置及びサーバ装置を提供することである」としています。

具体的な解決手段として、出発地と目的地の検索機能に加え、その経路に含まれた異常情報を取得する機能を持たせ、さらに代替経路情報を取得し、本来の経路と代替経路の差額を計算し、予約・決済をする機能を持たせます。

出願申請の言葉を借りると、「策定した行動プランに含まれる行程に何らかの異常が生じた場合に、発生した異常に対応して行動プランに適切な変更を加えることを容易とする行動支援プログラム、端末装置及びサーバ装置」が、この新システムのポイントです。

行動支援システム

もう少し詳しく見ていきます。特許出願申請において、JR東日本ではこのシステムを「行動支援システム」と表記しています。なお、ここでの「行動」とは、例えば、娯楽目的の旅行やビジネス目的の出張など、何らかの目的のためにシステムのユーザーが他の土地へ赴く必要がある場合を広く含みます。

「行動支援システム」は、アプリを利用するユーザー(旅行者)の行動(移動)を支援するためのシステムです。全体を統合する統合サーバを中心に、経路検索を行う経路検索サーバ、施設の予約を行う施設予約サーバ、交通機関の予約を行う交通機関予約サーバ、決済を行う決済サーバ、交通機関の運行情報を取得する運行情報サーバ、ニュース、天気等の所定の情報を取得する情報提供サーバと、システムを利用するユーザーの保有端末で構成されています。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より
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利用開始

アプリは、ユーザーがデータ登録をして利用を開始します。氏名、住所、連絡先、ID、パスワード、クレジットカードといった決済情報などを入力します。

実際に旅行の予約をする際は、アプリの端末を使って、出発地、目的地や出発時刻、到着時刻などのスケジュールを入力します。出発地情報は、GPS等を用いて取得した現在地情報を利用することもできます。

入力が終わると、アプリは通信ネットワークを介して所定のウェブサイトにアクセスし、経路検索を行い、経路データを取得し、表示します。各行程にかかる交通機関、出発時刻、到着時刻、費用などについての情報が表示されます。以下は、八王子を8時に出発し、松島海岸駅まで乗り継ぐ経路です。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より

ユーザーは、表示された経路で変更したい行程がある場合には、タッチすることによって、変更できます。上図のロックアイコンは、経路が変更された際にも維持したい行程がある場合に、タッチします。

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行程の追加

経路が表示された後、さらなる行程を追加する場合は、画面下部に表示されたアイコンをドラッグして、行程を追加したい位置へと移動させます。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より

上図では、松島海岸到着後に、宿泊を追加するケースを図示しています。この場合、宿泊施設アイコンは、経路表示の「松島海岸」の下へとドラッグして移動させます。これにより、アプリが宿泊施設予約ウェブサイトのデータにアクセスし、宿泊施設の検索・予約ができるようになります。

石巻駅から旅館までのバス時刻も検索され、下図のように17時出発となりました。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より

さらに、旅館に着く前に、食事を予約してみます。石巻駅到着後、食事をする行程を追加します。その画面が下図です。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より

ユーザーは飲食施設アイコンを経路表示の「石巻」と重なる位置へドラッグすると、飲食施設予約ウェブサイトにアクセスして予約可能になります。

ここで石巻のレストランを予約することで、石巻の出発予定時刻が、従前の17時では間に合わなくなります。そのため、食事を2時間と勘定してアプリが検索し、19時以降の出発に変更されます。これを自動再検索とすることもできるようです。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より

上図では、石巻を19時以降に出発する行程ということで検索し、19時30分に石巻を出発するバスを利用して、旅館に20時に到着するように経路変更がされています。

行程の予約が完了すると、決済にうつります。予約決済アイコンを押すと、下の画面となり、オンライン決済可能なものに関して支払いを行えます。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より
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障害発生時の対応

次に、このアプリの特徴でもある、障害発生時の対応についても見てみます。

旅行当日になると、アプリは所定のウェブサイトにアクセスし、交通機関の運行停止、遅延等の障害が生じた場合に、その情報(障害データ)を取得します。経路変更の必要性があると判断すると、経路変更の通知をおこない、経路画面に変更の案内メッセージが出ます。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より

そして、迂回ルートの候補を表示します。上手では、仙台駅~松島海岸の仙石線に運行障害が出たため、ユーザーはタクシーアイコンを選択。すると、アプリがタクシー配車サイトにアクセスし、タクシーを手配してくれました。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より

そして、既存ルートとタクシー代の差額を計算し、その決済までが可能となります。この事例では、新幹線などのキャンセルは不要ですが、必要な場合は、キャンセルの手配もアプリ上で行えます。

JR東日本新アプリ
画像:特許情報プラットフォーム(特開2021-005343)より

なお、鉄道ファンなら「仙台から松島なら東北線で行ったらどうだ」と思ってしまいますが、特許出願の事例には東北線は出てきません。運行していれば、当然、選択可能になるでしょう。

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旅行総合予約アプリ

以上が、JR東日本が特許出願した新たな予約・検索システムの概要です。特徴的なのは、鉄道、バス、タクシー、ホテル、レストランといった異なる交通機関や施設を、一体の予約として管理し決済ができるということです。簡単にいうと、複数の予約サイトを連結して一括予約、管理できる仕組みです。

変更の場合は、「鉄道とタクシーの差額を計算して決済する」というような芸当もできます。計算方法の詳細まではわかりませんが、タクシーは定額サービスの利用を想定しているのでしょう。

また、経路のロックシステムがあることで、「新幹線はこの列車に乗りたい」といった、基軸となる予約部分を抑えたうえで、前後の予定に変更を加えていくと行った作業も容易となります。

さまざまなの交通サービスを、一つの移動サービスに統合する「MaaS」に、ホテルやレストランまで加えて、変更自在な旅行総合予約アプリに仕上げた、といったところでしょうか。

実際にこのサービスが実現するには、事業者間の調整が必要でしょうし、運行障害による予約変更が生じた場合の手数料類負担をどうするかなど、新たな制度設計が必要かもしれません。

そのため、いつスタートになるのかはわかりませんが、野心的な次世代型の予約アプリになりそうです。(鎌倉淳)

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