国土交通省が、JR北海道に対して2年間で総額400億円台の財政支援を行うことを決定しました。あわせて国土交通大臣による「監督命令」を発出。JR北海道の経営改善へ方針を示しました。このポイントを見てみましょう。
国土交通省が方針発表
JR北海道は、創業以来、鉄道事業での赤字が続き、2017年度決算は過去最大となる416億円の営業赤字となりました。経営安定基金の収益は255億円に過ぎず、純損失は87億円に達しています。
このままでは資金不足で列車の運行ができなくなるとして、JR北海道は国に対して北海道新幹線が開業する2030年度までの長期支援を求めてきました。
これに対し国土交通省は、2018年7月27日、大臣による「事業の適切かつ健全な運営」を求める監督命令を発出。あわせて「JR北海道の経営改善について」と題する方針を発表し、2年間で総額400億円台の財政支援をおこなうことを明らかにしました。
同時に、2030年度にJR北海道が経営自立することを目標とし、以下の取り組みを求めました。
・札幌圏における、非鉄道部門も含めた収益の最大化
・新千歳空港アクセス強化
・インバウンド観光客を取り込む観光列車の充実
・北海道新幹線の札幌延伸に向けた対応
・JR貨物との連携による、貨物列車走行線区における旅客列車の利便性向上とコスト削減
・経営安定基金の運用方針の見直し
・JR北海道グループ全体でのコスト削減
・事業範囲の見直しや業務運営の効率化
国土交通省は、JR北海道に対して、こうした取り組みを着実に進めることを命じました。また、地域の関係者に対しても、連携と協力を求めています。
400億円規模の財政支援
国交省方針では、2019年度と2020年度を「第1期集中改革期間」、2021年度から2023年度までを「第2期集中改革期間」と位置づけています。「第1期」の2年間に計400億円規模の財政支援を決定。その検証を基に「第2期」に移行するとしました。
第1期の国の支援は、国鉄清算事業団債務等処理法の規定に基づき、鉄道運輸機構を通じて行います。同法の期限は2020年度のため、「第1期」支援の法的根拠はありますが、「第2期」については新たな立法が必要となります。したがって、現時点では第2期の財政支援の具体額は決まっていません。
国が示した「第1期」の主な支援策は、以下の通りです。
(1) 「利用が少なく鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区」における鉄道施設や車両設備の投資・修繕
(2) 貨物列車の運行に必要な設備投資・修繕
(3) 青函トンネルの維持管理
(4) 経営基盤の強化のための前向きな設備投資
(1)から(3)までは全額助成、(4)は助成1/2、無利子貸付1/2です。これらの支援総額が400億円台で、具体的な金額は今後、確定します。
札幌圏の強化
鉄道事業に関する国交省方針のポイントは、大きく3つあります。札幌圏強化、新幹線高速化、ローカル線整理です。
最大のポイントは、「札幌圏の強化」です。JR北海道の屋台骨は札幌圏の輸送ですので、収入を増やすには札幌圏を強化するのが何より重要です。札幌圏の営業収入は年間約400億円あり、JR北海道の鉄道事業収入全体の約5割を占めます。
国交省方針では、札幌圏における「収益最大化」を求めています。したがって、運賃値上げの可能性があるでしょう。札幌圏のJR運賃は地下鉄に比べて安く、値上げの余地はあります。実際、JR北海道の島田修社長は、2018年6月13日の記者会見で値上げの可能性について言及しています。
札幌圏に含まれる新千歳空港アクセスに関しても、国交省方針で「強化」が謳われました。具体的には快速「エアポート」の増発が検討されており、現状の毎時4本が、2020年度をメドに毎時5本になる見通しです。
新千歳空港駅の大改良も構想されています。千歳線の本線を新千歳空港地下に引き込んで、新千歳空港新駅から石勝線への分岐もおこなう形です。すぐにできる話ではありませんが、(4)の「前向きな投資」として検討されそうです。
新幹線の高速化
次のポイントが2030年度に札幌乗り入れが予定されている「北海道新幹線の高速化」です。新幹線の高速化は、JR北海道の収益増に貢献しますので、JR北海道の経営の自立には効果のある施策です。
国交省方針では、「札幌延伸を見据えて、東京と札幌を結ぶ新幹線の最大限の高速化を実現するための方策について、北海道と本州の間の物流の確保にも十分配慮した上で、必要な検討を進める」との具体的な内容が示されました。
要するに、北海道新幹線で想定されている最高速度260km/hをあらため、最大限の高速運転について、本腰を入れて検討するということです。
現在の整備新幹線は、全国新幹線鉄道整備法で規定される整備計画によって、営業最高速度が260km/hと定められています。東北・北海道新幹線の「最大限の高速化」を目標として掲げたことは、この整備計画を見直す姿勢を国交省として明示したわけで、今回の方針で評価すべき点でしょう。
これはJR北海道ではなく、国がイニシアチブを取るべき施策です。高速化に向けた車両の開発は、すでにJR東日本が手がけています。
青函トンネル区間の高速化
新幹線の高速化の大きな障害として、青函トンネル区間の速度制限も、よく知られています。貨物列車と線路を共用している関係で、現在は140km/h運転にとどまっています。
ようやく2019年春のダイヤ改正で、全列車の最高時速を160km/h引き上げることが決まりました。また、下り線での 210km/h走行を遅くとも2020年度の特定の時期の一部時間帯において実施する方針です。
国交省は、新幹線高速化について、「北海道と本州の間の物流の確保にも十分配慮」するとしています。つまり、青函トンネル区間での新幹線高速化について、「物流の障害になりかねないような施策」を検討することを意味します。JR貨物の走行時間帯制限などを想定しているのでしょうか。
ちなみに、青函トンネルの貨物共用走行区間全体(約82km)を高速化する場合、200km/hで12分の時短効果、260km/hで約19分の時短効果があると試算されています。
なお、JR北海道の負担となっている青函トンネルの維持管理に関しては、今回の国交省方針で、これといった前提条件なく支援することが、(3)で示されています。
貨物列車走行線区の改善
JR貨物との関連では、「貨物列車走行線区における旅客列車の利便性の一層の向上とコスト削減」という方針も示されました。
具体的な内容は示されていませんが、該当するのは、青函トンネルを除けば千歳線でしょうか。千歳線は北広島ボールパーク新駅構想もあり、旅客列車の輸送力増強が求められていますので、JR貨物に協力を要請するのでしょう。
「コスト削減」は、JR北海道から見た文言なので、JR貨物の線路使用料値上げも視野に入れた表現とみられます。
ローカル線の整理
国交省方針の3つめのポイントは、「ローカル線の整理」です。
「鉄道よりも他の交通手段が適しており、利便性・効率性の向上も期待できる線区において、地域の足となる新たなサービスへの転換を進める」としており、利用の少ないローカル線にバス転換を促す姿勢を明確にしました。
JR北海道は2016年に、「当社単独では維持することが困難な線区」として13区間を公表しました。同社はこのうち5線区に関しては廃止を求めているため、国交省としては、事業者が存続する意思を示していないこの5区間については、バス転換を前提にしていると解釈できます。
JRが廃止が求めている5線区は、以下の通りです。石勝線の新夕張~夕張間は、すでにバス転換について地元と合意済みです。
・留萌線 深川~留萌
・根室線 富良野~新得
・札沼線 北海道医療大学~新十津川
・石勝線 新夕張~夕張
・日高線 鵡川~様似
これらの線区は、今回、国が救済策を示さなかったことにより、存続はきわめて困難になったといえます。
地元と同額まで支援
国土交通省は、支援内容の(1)において、JR北海道が単独で維持困難とした路線に対する鉄道施設や車両設備への投資について「支援する」としています。つまり、維持困難路線のうち、廃止対象になっていない8線区について、国が2年間、何らかの形で支援する姿勢を示したといえます。
対象となる8線区は、以下の通りです。
・宗谷北線 名寄~稚内
・石北線 新旭川~網走
・花咲線 釧路~根室
・根室線 滝川~富良野
・釧網線 東釧路~網走
・富良野線 富良野~旭川
・日高線 苫小牧~鵡川
・室蘭線 沼ノ端~岩見沢
ただし、支援には条件が付いており、地方自治体に「国と同水準」の負担を求めるとしています。
北海道のローカル線の現状を見れば、設備修繕や車両更新には数十億円規模の巨費がかかるのは間違いありません。そのため、国と同水準の負担を自治体が受け入れるのは現実的ではなく、国交省方針にも「道内自治体の厳しい財政状況を踏まえ、必要な地方財政措置が講じられるよう要求を行う」と但し書きが添えられました。
この「地方財政措置」の内容は曖昧で、7月27日に記者会見を開いた高橋はるみ北海道知事も「不明確」と指摘しています。自治体負担額の何割かに地方債を充当し、その元利償還金の何割かに地方交付税を交付するといった方法が浮かびますが、知事が「不明確」というくらいなので、よくわかりません。
2年で立案し、3年で実証する
国交省方針では、維持困難路線について、「第1期集中改革期間」の2年間で、「JR北海道と地域の関係者が一体となって、利用促進やコスト削減、実証実験や意見聴取などの取組を行い、持続的な鉄道網の確立に向け、2次交通も含めたあるべき交通体系について、徹底的に検討を行う」としています。
つまり、第1期の2年間を、利用促進策を施し実証実験を行いながら、地域の交通体系を再構築する検討期間と位置づけているわけです。その際に、国は必要な支援を行います。
「第1期」の検証を行ったうえで「第2期集中改革期間」に移行し、「第1期」の検証結果を「第2期」の取り組みに反映させます。
今回の方針の最終期限は、「第2期」が終わる2023年度です。国土交通省は、JR北海道と地域の関係者に対し、最終年度に総括的な検証を行うことを求めており、「利用者数等の目標に対する達成度合い等を踏まえ、事業の抜本的な改善方策についても検討を行う」としています。
要するに、路線見直しの期間を5年として、2年間で持続可能な存続案を立て、3年間で実証し、最終的に存続させる線区を決める、という枠組みのようです。
維持困難路線を存続させるには、2020年度までに鉄道を活かした地域交通体系の将来像を固め、実証実験や投資を行いつつ、2023年度までに一定の成果を出さなければならないことになります。
北海道の対応は?
地元自治体の北海道は、2018年2月に「将来を見据えた鉄道網(維持困難線区)のあり方について」と題する報告書を公表しています。
それによると、宗谷北線(名寄~稚内)と石北線(新旭川~網走)については、「維持に向けてさらに検討」と表記し、死守する姿勢を強く見せています。
また、花咲線(釧路~根室)、釧網線(東釧路~網走)、富良野線(旭川~富良野)についても、「路線の維持に最大限努めていく」と表現し、維持に前向きな姿勢を見せました。
これらの路線の営業赤字(管理費除く)は、宗谷北線が約22億円、石北線が約32億円、花咲線が約8億円、釧網線が約12億円、釧網線が約8億円です。総額80億円超、北海道が死守の姿勢を見せている2路線だけでも50億円超に達します。国と地元自治体が赤字を折半するにしても、地方自治体の負担額としてはかなりの金額です。
さらに鉄道設備の修繕や車両更新費用が別途かかることを考えれば、これらの路線をすべて維持するのは、財源の乏しい地元自治体として簡単な話ではありません。
また、根室線(滝川~富良野)、日高線(苫小牧~鵡川)と室蘭線(沼ノ端~岩見沢)については、北海道の報告書では「路線の維持に努めていく」とやや弱い表現にとどまりました。
根室線の営業赤字は約12億円、日高線は約4億円、室蘭線は約12億円です。8線区全線を守るには、年間100億円以上の赤字を穴埋めするスキームが必要です。
上下分離か
国土交通省が、JR北海道のローカル線の維持について、どのあたりを落としどころと考えているのかは、今回の方針からうかがうことはできません。
毎日新聞7月27日付けは、「8線区を対象に毎年40億~50億円程度を支援して維持する枠組みを検討している」と報じています。北海道と沿線市町村にも同額の負担を求める方向で、年間の支出の総額は計80億円程度になります。北海道と沿線市町村の負担割合は同じです。
車両維持や鉄道施設の設備投資に支出し、「第三セクターや上下分離方式などによる公的資金の受け皿作りも検討する」としています。
80億円なら8線区でなく5線区の赤字額相当ですが、まだ検討段階ですし、JR北海道の負担が考慮されているのかもしれません。上下分離をするとして、どの線区までを含めるかは、議論になりそうです。
JR北海道の2030年は?
今回の国交省方針に基づいて、JR北海道は、2018年度中に、「第1期集中改革期間の事業計画」の策定をすることになります。また、2019年度から2023年度までの「中期経営計画」と、2019年度から2030年度までの「長期経営ビジョン」も策定しなければなりません。
いまから12年後、2030年のJR北海道の姿を見通すのは、容易ではありません。今回の方針通りに事が進んだとしても、2030年度にJR北海道が経営自立できるかと言えば、難しいでしょう。
2030年度末、東京駅から新幹線に乗って札幌駅のホームに降り立った旅客が、稚内行きや、網走行きの特急列車に乗り継げる状態になっているのか。不安をぬぐい去ることはできません。(鎌倉淳)