>>「JR北海道全14路線30区間輸送密度ランキング。営業係数も初公開。黒字路線は一つもなし」からの続きです。
JR北海道が全路線の輸送密度と営業損益、営業係数を初公表しました。今回の注目は、特急走行区間の利用状況や収支が明らかになった点です。
赤字総額は宗谷線44億円、石北線35億円
特急走行区間で数字が悪いのは、「スーパー宗谷」の走る宗谷線と「オホーツク」の走る石北線です。宗谷線は名寄以南と以北で数字が大きく異なり、宗谷線全体の営業係数は450~500程度とみられます。石北線は、上川を境にしても数字が大きくは変わりません。石北線区間全体の営業係数は300前後とみられます。
赤字額でみると、宗谷線は総額44億円の赤字、石北線は総額35億円の赤字です。どちらの指標でも「宗谷」より「オホーツク」のほうが優秀な成績となっています。
函館・室蘭線は69億円の赤字
JR北海道の特急で採算性が高いとみられてきたのは、「スーパーカムイ」系統と、「北斗・すずらん」系統、「おおぞら・とかち」系統でしょう。とはいえ、今回の資料をみると、「スーパーカムイ」の走る函館線岩見沢~旭川間が25億円の赤字、「北斗・すずらん」が走る函館・室蘭線の函館~苫小牧間が総額69億円の赤字、「おおぞら・とかち」が走る南千歳~釧路は総額51億円もの赤字となっています。
石北線の赤字は総額35億円でしたので、営業収支だけを取り出せば、「北斗」より「オホーツク」のほうが損失額は小さいということもできます。もちろん、これは運転本数の違いなどが影響しているとみられます。
JR北海道全30区間・営業損失ランキング
ここで、全30区間の数字を営業損失額でランキングにしてみましょう。
▽営業損失20億円以上
函館線・函館~長万部 42億8100万円
根室線・帯広~釧路 32億3400万円
石北線・上川~網走 29億0700万円
函館/千歳/札沼線(札幌圏)26億6200万円
宗谷線・名寄~稚内 25億4400万円
函館線・岩見沢~旭川 25億1700万円
函館線・長万部~小樽 20億6700万円
▽営業損失20億円未満
石勝,根室線・南千歳~帯広 19億2900万円
宗谷線・旭川~名寄 19億1900万円
江差線・五稜郭~木古内 18億6400万円
室蘭線・東室蘭~苫小牧 16億5600万円
釧網線・東釧路~網走 16億5200万円
日高線・苫小牧~様似 15億4400万円
室蘭線・沼ノ端~岩見沢 11億3000万円
根室線・滝川~富良野 10億2800万円
根室線・釧路~根室 10億0000万円
▽営業損失10億円未満
室蘭線・長万部~東室蘭 9億9700万円
富良野線・富良野~旭川 8億9800万円
根室線・富良野~新得 8億9200万円
海峡線 木古内~中小国 8億6300万円
石北線・新旭川~上川 6億7300万円
留萌線・深川~留萌 6億4700万円
▽営業損失5億円未満
札沼線・医療大学~新十津川 3億3200万円
室蘭線・室蘭~東室蘭 3億1300万円
留萌線・留萌~増毛 2億2700万円
石勝線・新夕張~夕張 1億8200万円
江差線・木古内~江差* 5700万円
全線合計 400億3700万円
*江差線・木古内~江差間は2014年5月廃止
最大赤字は函館線
ご覧いただければわかるように、大きな赤字を出しているのは、JR北海道の屋台骨を支えるともいえる幹線区間です。赤字額最大は函館線・函館~長万部間で、約42億円。函館~長万部という重要路線が巨額赤字を産み出しているのは、やや意外に思われた方も多いのではないでしょうか。
そして、函館~苫小牧間の赤字69億円は、JR北海道全線の赤字総額の17%を占めます。また、南千歳~釧路の赤字51億円は、全体の13%を占めます。この事実は、JR北海道の経営改善の成否を握るのが幹線区間であることを示しています。
ローカル線を少々廃止したところで
一方、輸送密度が低い札沼線北海道医療大学~新十津川間(札沼北線)の赤字額は約3.3億円、石勝線新夕張~夕張間(夕張支線)の赤字額は約1.8億円。これらの区間を廃止したところで、JR北海道の経営改善という視点では大きな意味はない、ということもできます。
こうしてみると、JR北海道で進んでいる路線存廃論議の難しさがわかります。単純に輸送密度の低い路線を廃止するだけではたいした赤字削減にならず、会社全体の経営状態を大きくは改善できないからです。
もし、本気で経営改善のためにローカル線廃止をするのなら、輸送密度500人キロ以下の区間をばっさり切らなければなりません。それでようやく、約100億円、全赤字額の25%を削減できます。
全体の赤字幅を圧縮する施策を
利用者の極端に少ないローカル線を存続させる意味はあまりありませんから、JR北海道がローカル線の整理を進める姿勢を示していること自体は、理解できなくもありません。
しかし、ローカル線を廃止しても、たいした経営改善になりません。ならば、必要なのは、JR北海道の全路線の赤字幅を圧縮できる施策を、全路線を活用して考えることではないでしょうか。
具体的には、一定の輸送密度があるローカル線は存続させ、観光客などを誘致して幹線の利用者増大を図る、という施策です。たとえば、釧網線の赤字16億円は巨額ですが、釧路まで鉄道利用して観光客に来てもらう方法を考えるわけです。そうして、幹線・ローカル線を含めた全体の収支改善を狙います。
JR北海道全体の路線網が充実していれば、外国人向けのフリーパスの価格も高く設定できるなどのメリットもあります。広大な路線網は、JR北海道の赤字の元凶ですが、観光客を誘致するには武器になるかもしれません。人口減少が進む中、どのみちJR北海道は観光客重視の姿勢を強めざるをえないはずです。
赤字路線を廃止し続けたら会社がなくなる
このような施策は過去にも考えられてきましたし、簡単でないことはいうまでもありません。しかし、黒字路線が一つもない鉄道会社が、赤字路線を廃止し続けたら、会社がなくなるだけです。
ならば、JR北海道がこれからも生き残っていくための手段は、赤字額の小さいローカル線を廃止することではないのかもしれません。(鎌倉淳)