JRが「ジャパン・レール・パス」を約50%値上げします。同時に、追加料金による「のぞみ」「みずほ」の利用も解禁します。昨今の円安を勘案すると、外国人旅行者の痛手は小さそうです。
JR全路線が乗り放題
「ジャパン・レール・パス」は、訪日外国人旅行者を対象にした特別企画乗車券で、JR全社の鉄道・路線バスが乗り放題です。外国人客にとっては、日本各地を周遊旅行するのに欠かせないきっぷとして知られています。
JRグループは、その価格について、2023年10月ごろに改定すると発表しました。
「ジャパン・レール・パス」の新価格
新価格は普通車の7日間用が5万円、14日間用が8万円、同21日間用が10万円など。これまでの専用サイトでの販売額に比べると、値上げ率は約48~56%です。おおむね50%程度の大幅値上げとなります。
種類 | 現行価格(円) | 改定後(円) | 値上率 | ||
---|---|---|---|---|---|
代理店 | サイト | ||||
普通車用 | 7日間用 | 29,650 | 33,610 | 50,000 | 48.7% |
14日間用 | 47,250 | 52,960 | 80,000 | 51.0% | |
21日間用 | 60,450 | 66,200 | 100,000 | 51.0% | |
グリーン車用 | 7日間用 | 39,600 | 44,810 | 70,000 | 56.2% |
14日間用 | 64,120 | 72,310 | 110,000 | 52.1% | |
21日間用 | 83,390 | 91,670 | 140,000 | 52.7% |
※価格は大人。値上げ率は対サイト。
ドル建てでみてみると?
「ジャパン・レール・パス」の旧価格では、おおむね東京~岡山間を新幹線で往復すれば元が取れます。新価格では、博多まで往復しても元がとれないくらいの金額になります。
大幅値上げであることは確かですが、昨今の円安を考慮し、ドル建てで価格を見てみましょう。旧価格をコロナ前の2020年頃の相場である1ドル110円、新価格を最近の相場である1ドル135円として計算した場合の、ドル建ての価格は以下の通りです。
種類 | 現行価格 (1ドル=110円) |
改定後 (1ドル=135円) |
値上率 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
代理店 | 専用サイト | |||||
普通車用 | 7日間用 | 270 | 306 | 370 | 21.1% | |
14日間用 | 430 | 481 | 593 | 23.0% | ||
21日間用 | 550 | 602 | 741 | 23.0% | ||
グリーン車用 | 7日間用 | 360 | 407 | 519 | 27.2% | |
14日間用 | 583 | 657 | 815 | 23.9% | ||
21日間用 | 758 | 833 | 1,037 | 24.4% |
※現行価格を1ドル110円、改定価格を1ドル135円として計算。価格は大人。値上げ率は対サイト。
3年前から20%値上げ
念のために重ねて書きますが、上表は、新型コロナが始まる前の2020年頃の相場である「1ドル110円」時代のジャパン・レール・パス価格と、現在の相場である「1ドル135円」における新価格を比較したものです。今秋の値上げで、「ドル建てでの値上げ幅が小さい」ということではありません。
そういう試算としてみてみると、ご覧のとおり、値上げ幅は21~27%にとどまります。おおざっぱには20%あまりの値上げにとどまります。
世界的にインフレが進む状況ですから、この程度の値上げであれば、外国人旅行者からみれば「痛手」というほどではなさそうです。
逆にいえば、円安を織り込んだうえでの大幅値上げ、と解釈することもできそうです。
「のぞみ」「みずほ」解禁
価格改定にあわせて、これまで「ジャパン・レール・パス」で利用できなかった東海道・山陽新幹線の「のぞみ」と山陽・九州新幹線の「みずほ」について、追加料金を払えば乗車可能になります。追加料金の価格は未公表です。
これまでは、「のぞみ」が利用できないことにより、東海道新幹線で「ひかり」に「ジャパン・レール・パス」の外国人客が集まり、一般旅客まで指定席券が取りにくくなるという問題も生じていました。
今回の改定で、「のぞみ」の利用を解禁するのは、この問題への対処とみられます。
ただ、追加料金の金額が高くなれば、外国人旅行者の「のぞみ」利用も限られた形になりそうです。さらに、「ジャパン・レール・パス」用の座席を無制限とするのか、制限するのかについても注目点といえます。
国内販売はネットに集約
2016年から実施していた「ジャパン・レール・パス」の日本国内窓口での試験販売は終了し、インターネット専用サイトによる発売に集約します。
代理店と専用サイトとの価格統一も含め、JR全体として窓口業務を縮小している流れを受けた措置とみられます。世界的にみても、チケットのネット販売は一般的なので、旅行者にとっても受け入れやすいことでしょう。
専用サイトで購入した「ジャパン・レール・パス」の指定席券は、ネットで予約できます。指定席券売機での予約も可能です。しかし、発券時にはパスポート確認が必要なので、窓口での扱いは変わらないとみられます。
それでもチケットそのものの国内窓口販売がなくなり、指定席券の窓口予約が減れば、成田空港駅などでの行列は進みやすくなりそうです。(鎌倉淳)