JALが、2023年4月に国内線運賃制度を大幅にリニューアルします。「普通運賃」を廃止して変動価格制を導入し、「特便割引」や「先得割引」も名称変更のうえ内容を一新します。
JALの新運賃制度で、知っておくべきポイントをまとめてみました。
1. 普通運賃を廃止
JALが発表した国内線の新運賃制度の最大のポイントは、「大人普通運賃」という、いわゆる正規運賃(ノーマルチケット)の名称とシステムを変更することでしょう。
「大人普通運賃」の名称は廃止され、2023年4月12日搭乗分より「フレックス」となります。
「フレックス」は、いわゆる空席連動型運賃です。予測残席数に応じて運賃額が変わります。予測残席数とは、予約時点での最終的な混雑状況の予測値で、その時点の空席状況とは異なります。ただ、最終的な空席予測に連動するので、「空席連動型運賃」といって差し障りないでしょう。
「フレックス」では変更自由、取消手数料不要、当日予約可といった正規運賃のメリットが維持されます。出発後であっても取消手数料は20%にとどまり、キャンセルリスクの小さいチケットとなります。また、これまでに取消手数料と別途徴収していた払戻手数料(1区間430円)は、全運賃で廃止します。
2. 特便、先得も名称変更
「特便割引」「先得割引」は、空席連動型の運賃体系はそのままで、それぞれ「セイバー」「スペシャルセイバー」という名称に変更します。
予約期限は「セイバー」が前日まで、「スペシャルセイバー」が28日前までです。ただし、価格は予測残席数に応じて変動します。
取消手数料は、「セイバー」が出発時刻まで5%、「スペシャルセイバー」は55日前までが5%、以後出発時刻までが50%となります。往復セイバーは出発時刻まで一律50%です。いずれも、出発後は取消不可(100%手数料)です。
これまでは特便が出発時刻まで5%、出発後90%、先得が54日前から出発時刻まで50%、出発後が90%でしたので、出発後の払い戻しがなくなったことが大きな相違点です。
3. 割引は3種類に集約
これまでは「特便割引」が4種類、「先得割引」が2種類のほか、「スーパー先得」「ウルトラ先得」などに分かれていましたが、新運賃ではシンプルに3種類となります。
JALは制度変更の理由を説明していませんが、運賃を「正規」「割引」「早期割引」の3種類に分けるのは、現在の航空業界のグローバルスタンダードで、ANAも2018年のリニューアルで「フレックス」「バリュー」「スーパーバリュー」の3種類に集約しています。
知名度の高い「特便」「先得」という名称を捨てるのはもったいない気もしますが、外国人にはわかりにくいネーミングのため、英語で意味の通じやすい「セイバー」を用いたのでしょう。
4. 往復は5%割引
これまでの往復割引は、往復で「大人普通運賃」を利用する場合にのみ適用されていました。特便割引などを往復で利用しても、往復に対する割引はありません。
新運賃制度では、往路と復路で「フレックス」「セイバー」「スペシャルセイバー」のどの運賃の組み合わせても、5%の往復割引を適用します。
往復セットで購入することにより、割引運賃がさらに5%安くなるわけで、合理的な改善といえます。ただ、往復セイバーはフレックスをベースにした場合も予約変更が不可になりますので、復路の予定変更がありそうな場合には使いにくいでしょう。
5. 小児運賃を廃止
運賃制度でのもう一つのトピックスは、小児運賃の廃止です。
小児運賃は普通運賃の半額でしたが、今後は「小児割引」として、各種運賃の25%割引となります。
これまでは、特便や先得をベースとした小児割引運賃はありませんでしたが、今後は「セイバー」「スペシャルセイバー」といった運賃も割引対象にし、ベースとなる運賃より25%割引にするということです。
背景として、現行制度では、小児運賃(普通運賃の50%割引)が特便や先得より高いことがあり、事実上、子供と大人が同額になってしまうという不合理がありました。
これを解消するために、新運賃では、大人も子供も同じ運賃をベースにして、小児割引として25%を引くことになります。
この制度変更により、早めに予約して割引運賃のチケットを親子で確保できた場合、子どもの運賃は値下げになりそうです。一方、年末年始などの繁忙期に普通運賃で利用していたファミリーなどは、小児の割引幅が縮小し、痛い値上げになるでしょう。
なお、株主割引については、小児割引が50%とされました。株主割引運賃から半額になるので、株主のファミリーには狙い目かもしれません。
同様に、障がい者割引は20%、介護帰省割引は10%の割引を、各種運賃に対して適用します。
6. 乗継運賃を拡充
乗継運賃の拡充も、JALの新運賃の大きなトピックスでしょう。
国内線では、これまで1フライト1旅程が原則で、乗り継ぐと運賃がそのまま加算されていました。これに対し、新運賃では乗継回数や便数に関わらず、1つの「出発地」と1つの「目的地」の単位で1旅程とみなします。
現行運賃では、飛行機を乗り継ぎで利用すると高くなりがちです。しかし、新運賃では、乗り継ぎでも直行便と同程度の価格設定にするため、直行便の就航がない区間でも、これまでより安く利用できそうです。
ただし、乗り継ぎで予約後、変更する場合は注意が必要です。旅程内の一部の便を取り消し、変更、追加する場合も、新たな出発地から目的地までの旅程であらためて空席照会のうえ、再予約をしなければなりません。
新たな旅程の空席照会時に満席の場合は、当該便が変更前と同じ便であっても、利用することができません。
そのほか、運賃の変更概要をまとめると、以下のようになります。
7. 「クラスJ」「ファーストクラス」運賃を個別設定
JAL国内線では「クラスJ」と「ファーストクラス」という上級クラスがあります。それぞれの料金は、普通席運賃にそれぞれ1,000円、8,000円を加算して設定していました。区間や距離にかかわらず、全路線共通です。
新運賃制度では、普通席運賃を基準とするのではなく、「クラスJ運賃」「ファーストクラス運賃」をそれぞれ個別に設定します。これにともない、「クラスJ」「ファーストクラス」の運賃と普通席の運賃の価格差は、路線ごとに距離などに応じて異なるようになります。
詳細の価格は未発表です。これまでは、沖縄線をはじめとした長距離路線でお得感が高かった上級クラスですが、今後は長距離区間で値上げが予想されます。
8. 購入期限を短縮
航空券の購入期限も変更します。これまでは予約日を含めて一律3日以内でしたが、新制度では、予約日時などにより24時間以内~72時間以内の3段階に分かれます。
出発72時間前(おおむね3日前)では、予約後24時間以内に航空券を購入しなければならなくなります。直前予約の場合は、購入までの猶予時間が短縮されます。
9. オープンチケットの廃止
オープンチケットの廃止も、大きな変更点です。これまでは、搭乗区間のみを指定し、搭乗便の予約をしない航空券(オープンチケット)を購入できましたが、新運賃制度では廃止されます。言い換えると、JALの国内線航空券は、必ず予約と紐付けられることになります。
オープンチケットの廃止は、2023年4月12日です。これ以降は発券済みのオープンチケットは利用できなくなります。オープン券への変更もできません。
10. 払戻有効期間の変更
航空券の払戻有効期間は、これまで有効期間の満了日の10日以内でしたが、これを30日以内とします。「フレックス」で購入した場合、30日以内なら払い戻すことができます。
新運賃では、出発時刻後の払い戻しができるのは「フレックス」系運賃だけになります。オープンチケットの廃止により、いわゆる「定価」で購入したチケットで乗り遅れた場合でも払い戻しを強いられることから、払戻有効期間を延長したと推察されます。
11. マイレージも空席連動制に
マイレージ制度も大きく変わります。空席連動制とでもいうべき仕組みを導入するのが大きなトピックで、「特典航空券PLUS」という制度が発表されました。
新制度では、基本マイル数で予約可能な席とは別に、追加マイルを払うことで予約が可能になる席を設定します。この席を予約できるのが「特典航空券PLUS」です。
特典航空券PLUSで必要な追加マイル数は予測残席数に応じて変動します。予約のタイミングや路線、人数により必要マイル数が変わるわけです。
必要マイル数の変動は大きく、たとえば東京~札幌間(Eゾーン)では、基本8,000マイルのところ、最大33,000マイルとなります。ゾーンにもよりますが、おおむね最大4倍程度に設定しています。
運賃制度を全面的に空席連動制にするのにともない、マイルもそれに準ずると解釈すればいいのでしょう。
12. 特典航空券の予約変更が不可に
特典航空券の予約変更は一切できなくなります。これも「空席連動制」にともなう措置で、予約したマイル数と、その時点の必要マイルの乖離が生じるのが避けられないためとみられます。運賃制度でオープンチケットを廃止したことと連動する部分もありそうです。
搭乗日当日出発空港において、予約便より前の便に乗ることもできなくなります。空席があっても、チェックインカウンターでの予約変更は不可となります。
13. ゾーンの細分化
JAL特典航空券の必要マイル数は、これまでA~Cの3区分でしたが、新制度ではA~Gの7ゾーンに細分化します。
たとえば、東京~札幌はこれまでB区間で必要マイル数が7,500マイルでした。新制度ではEゾーンで8,000マイルとなります。東京~那覇はこれまでB区間7,500マイルでしたが、新制度ではFゾーンで9,000マイルとなります。
東京発着の主な区間での必要マイル数を調べてみると、以下のようになります。
区間例 | 現行制度 | 新制度 |
---|---|---|
東京~札幌 | B区間 | Eゾーン |
7,500 | 8,000~33,000 | |
東京~大阪 | A区間 | Cゾーン |
6,000 | 6,000~19,500 | |
東京~広島 | B区間 | Dゾーン |
7,500 | 7,000~26,000 | |
東京~那覇 | B区間 | Fゾーン |
7,500 | 9,000~37,500 | |
東京~石垣 | C区間 | Gゾーン |
10,000 | 10,000~43,000 |
ざっと見た限りでは、距離区分によっては必要マイルが減ることもあるようですが、とくに長距離区間では必要マイル数が上がっているようです。
また、6時間以内の乗り継ぎ旅程の場合には、乗り継ぎ旅程用の必要マイル数を設定します。マイル数は直行便でも乗り継ぎでもおおむね変わりないようで、たとえば東京~石垣の場合、直行便も乗継便も10,000マイルで同じです。これは利用者にとって改善といえそうです。
14. ファーストクラスも対象に
JAL国内線特典航空券の対象クラスに、ファーストクラスが追加となります。必要基本マイル数は、普通席の2倍程度です。
ただし、変動による最大マイル数の上限は普通席と同じか、大差ありません。となると、ファーストクラス特典航空券は、繁忙期にはお得といえます。席が空いていればの話ですが。
15. 国内線旅客施設使用料の適用開始
2023年4月12日搭乗分より、JAL国内線特典航空券を利用する際に、国内線旅客施設使用料(Passenger Facility Charge)が必要になります。対象空港を発着する便を含む場合、クレジットカードで支払うことになります。ただし、「どこかにマイル」は適用対象外です。
いまも、旅客施設使用料の必要な空港を発着する路線を利用する場合は、特典航空券で追加マイルが必要になっています。今後は、それを追加マイルではなくお金で支払うことになる、ということです。
16. おともdeマイル割引の廃止
新運賃制度では「おともdeマイル割引運賃」は廃止されます。マイルを上手に使うのにお得な運賃でしたので、厳しい改定といえます。
このほか「JMBダイヤモンド特典航空券」、「いつでも特典航空券」も廃止となります。
まとめてみると
まとめてみると、JALの新運賃制度は、これまでの普通運賃を軸とした仕組みから、変動制運賃を軸とした仕組みへ全面的に移行する内容といえます。
普通運賃で購入する人がほとんどいないという現実に即した、ノーマルチケット改革とも受け取れます。また、さまざまな「制度の穴」や「偏り」ともいえる部分を埋める改定も含まれていて、合理的な内容と評価できるでしょう。
ただ、制度の穴や偏りは、使い方によってはお得なことも多いので、それを封じられると利用者には厳しい内容と感じられるかも知れません。たとえば、東京~沖縄の「クラスJ」が1,000円というのは典型的な「制度の偏り」で、利用者にはお得なだけに、値上げされるのであれば残念でしょう。
一方で、「直行便は安く、乗継便は高い」という現状は、同区間を移動するのに値段が異なるという点で不合理です。これも制度の偏りでしたが、乗継運賃の拡充で是正されそうで、利用者にはメリットのある改定といえます。
マイルのインフレ懸念
運賃の絶対額が上がるかどうかは、制度の改定内容を見るだけでは判断できません。フレックスの上限価格が現行の普通運賃より高くなるのは間違いなさそうで、最大ピーク時の値上げは確実とみられますが、だからといって平均価格が値上げになるかといえば、そうとは限りません。結局は値付けの問題だからです。
マイレージ制度も、変動価格を軸にした運賃制度に対応する内容となりました。それ自体はいいとして、基本マイルはほとんど変えずに、上限だけを高くしてしまったのは、制度改悪と言われても仕方ないでしょう。基本マイルで乗れる座席数があまりに少なすぎると、マイルのインフレを招き、マイレージ制度自体の魅力が失われてしまいそうです。
一言で言えば、「合理的だけれど世知辛い」運賃改革とでも表現できそうです。世知辛い新運賃は、2023年4月12日搭乗開始分から適用されます。
1年以上先の話ですが、当該チケットの販売開始は2022年5月17日ですので、それほど先でもありません。現行運賃は、予約・搭乗とも2023年4月11日までとなります。(鎌倉淳)