北陸鉄道は、石川線で2025年度に新型車両の導入を計画していることを明らかにしました。鉄道を維持する場合は、設備投資負担が重くのしかかります。
2025年度に新車投入
北陸鉄道石川線は金沢市近郊のローカル鉄道です。北陸鉄道が単独での維持は困難として、浅野川線とあわせて上下分離を行政に求めています。これを受け、金沢市周辺自治体で構成する石川中央都市圏地域公共交通協議会では、地域公共交通計画の策定にあわせて、鉄道の扱いを協議しています。
協議会の第3回会合で、北陸鉄道は2022年度上期の業績を報告。そのなかで、石川線の車両更新予定として、新型車両を2025年度に導入する計画を明らかにしました。
2023年度に発注
石川線の既存車両は6編成があり、そのうち5編成が1964年から1966年に製造された7000系です。東急の初代7000系を1990年に譲受したもので、すでに製造から60年近くが経過しています。残る1編成の7700系は京王井の頭線で使用していた車両ですが、これも1967年の製造です。
いずれも車体全体にわたって劣化が激しく、交換部品がないため、廃車車両から部品を流用して修理に充てている状況です。東急7000系は他の地方私鉄にも譲渡されていますが、部品を得られる廃車車両は全国的にも希少となりつつあり、今後、部品の調達は困難になるとみられています。
そのため、車両更新が必要な状況になっています。地方私鉄の場合、車両更新には他社の中古車両を導入することが一般的です。北陸鉄道でも、浅野川線の更新には東京メトロ日比谷線で使われていた03系を譲受しています。
しかし、石川線には新西金沢駅付近に急曲線があり、対応可能な中古車両が現時点で見当たりません。そのため、北陸鉄道では、石川線用の新造車両の製造を計画していて、2025年度に投入する考えです。間に合わせるには、2023年度中に発注をしなければならないということです。
2023年度内に結論
北陸鉄道は、同社の鉄道路線2路線(浅野川線、石川線)を一体として上下分離し、鉄道として存続することを求めています。そして、存続のためには石川線の車両更新が必要と訴えているわけです。
しかし、協議会がとりまとめた地域公共交通計画骨子案は、石川線について、必ずしも存続を前提としていません。輸送人員が減少していることを理由に、「バス転換やBRT化などの選択肢も検討」する方針を示しています。
バス転換をして鉄道を廃止するのであれば、車両更新は必要ありません。そのため、協議会では、パブリックコメントを募集した上で、車両発注の期限に間に合うよう、2023年度内に石川線の存廃の結論を出すことにしました。
変電所も老朽化
北陸鉄道石川線は、車両以外でも施設の老朽化が進んでいます。たとえば、道法寺変電所は1968年に稼働を開始していますが、現在故障中です。ただちに大きな不具合は発生しないものの、冬場の電力消費状況によっては運行に影響を及ぼす可能性があります。
修理方法を検討しているものの、道法寺変電所は老朽化施設のため交換部品がなく、修理する場合、費用が高額になることから実現していません。道法寺変電所は野々市変電所と廃止統合する計画がありますが、その野々市変電所も1974年の稼働と老朽化しています。
新型コロナ禍からの回復鈍く
鉄道を存続するには、こうした設備更新に多額の費用が見込まれます。しかし、新型コロナ禍以降、石川線の収支状況は悪化しています。
2022年度上半期の石川線は5800万円の赤字で、前年度に比べ1000万円しか収支が改善していません。浅野川線が7000万円を改善して1900万円の赤字にとどめたのに比べて、回復が遅れています。
回復率の推移を見てみると、石川線が浅野川線に比べても厳しい状況にあることが、はっきりとわかります。
バス転換にも課題
まとめると、石川線を存続させるには、新型車両を導入し変電所などの設備を更新しなければならないにもかかわらず、利用状況が芳しくないわけです。そう考えると、バス転換が現実感を帯びてきます。
とはいえ、バス転換も容易ではありません。
5月の平日に実施された乗降調査によりますと、朝ラッシュ時の利用者数は1時間(列車3本)で約600人。これだけの人数をバスで運ぶには11台が必要で、要員繰りを考慮すると運転士は15人必要になります。しかし、現時点でも金沢エリアのバス運転士の充足率は87%で、約50人の欠員が生じています。
バス業界では、充足率90%を下回ると、要員繰りが厳しくなるとされています。高齢化や働き方改革の進展を考慮すると、バス運転士不足の解消のメドは立っておらず、石川線を廃止すれば、運転士不足がより深刻になり、既存のバス路線の減便につながってしまいます。
渋滞悪化の可能性も
現在の石川線利用者を分析すると、平日の調査で新西金沢駅での乗降数が全体の43%を占めています。次いで、野町駅が31%、西泉駅が10%となっていて、これらの駅のいずれでも乗降しない利用者は16%にとどまります。
つまり、石川線の利用者の八割方が、金沢市中心部への往来に利用しているわけです。こうした状況で、石川線をバス転換(BRT化)した場合、沿線から金沢市内への所要時間がどう変わるかの調査もおこなわれました。
調査結果によると、鶴来~野町間の所要時間は現状の約30分から、39分~44分に増加します。香林坊までは、鉄道とバスの乗り継ぎで約40分のところ、バス転換では直通で47分~52分に増えます。鉄道路線跡をバス専用道にしたとしても、一般道との交差部で一旦停止が必要になることや、50km/hの速度規制を受けるため、所要時間が延びてしまうのです。
所要時間が増加すると、移動に自家用車を利用する人が増えます。結果として、交通渋滞が悪化する可能性があります。隣県の福井県で「負の社会実験」として知られる京福電鉄事業廃止と同じようなことが、金沢でも発生する可能性があるわけです。
「利用者が少ないから廃止」で良いのか
石川線の輸送密度はコロナ前の2019年で1882にすぎず、黒字化するのは不可能に近いように思われます。一方で、「赤字ローカル線は廃止すればいい」という、簡単な理屈で切り捨てるわけにいかない現実も存在するわけです。
解決策は簡単ではありません。車両と変電所を更新するとなれば、半世紀に一度の大型投資です。それを、人口減少のとば口に立つ、いま、おこなえるのか。行政としては難しい判断になるでしょう。
隣県の富山や福井では、私鉄間の相互直通運転の開始なども含めた、大がかりな鉄道への投資を行ってきました。それに対して、これまでの石川県は、地方鉄道への投資に消極的だった印象を受けます。今回はどうでしょうか。(鎌倉淳)