北海道石狩市が検討している都市型ロープウェイの事業概要が明らかになりました。石狩新港を起点に、手稲駅、麻生駅、栄町駅・丘珠空港を結ぶ3つのルート案が検討されています。
事業概要書を公表
北海道石狩市は、札幌市の北部に位置する日本海に面した都市です。札幌市に隣接しているものの、鉄道が通っておらず、軌道系交通機関の導入が永年の悲願でした。
これまでも軌道系交通機関の検討は行われてきましたが、改めて今年度から都市型ロープウェイの導入の検討を開始しました。国土交通省の「先導的官民連携支援事業」に採択され、補助金1394万円を得て、調査に着手しています。
その概要が明らかになりました。石狩市が公表した事業概要書によると、ルートは「手稲ルート」「麻生ルート」「栄町ルート」の3案です。
いずれも石狩湾新港地区を起点とし、石狩市中心部の花川地区を経由して、JRや地下鉄の駅を結びます。栄町ルートは、丘珠空港までを結ぶルートを想定しています。
軌道も候補
交通モードについては、「先導的官民連携支援事業」の採択案件としては「都市型ロープウェイ事業」とされていました。
ところが、事業概略書には「改めて新たな軌道および索道交通の導入可能性を調査する」と記されています。「索道(ロープウェイ)」以外に「軌道」も候補に挙げています。
本命がロープウェイであることに変わりはないようですが、「費用、実装難易度、環境負荷、定時性、速達性等の観点から、適切な交通モードを検討中である」としていて、ロープウェイ以外を選択する余地を残しています。
2032年度開業目指す
軌道系交通のターゲット・役割としては、「札幌市との接続性の確保、市内の移動需要の対応、バス以上のサービス水準の確保、交通結節点との一体的な整備、新港地域の利便性向上・就労環境向上」を挙げています。
札幌市内へのアクセスと、市内での交通結節点の整備を一体的に行う方針を示しました。
事業期間としては、2025~26年度に整備・運営事業者の公募・選定をおこない、2027~32年度に設計・施工をします。2032年度の開業を目指します。
起点はコストコ付近?
以上が、石狩市が明らかにした事業概要です。注目のルート案について、順にみていきましょう。
まず、起点となる石狩新港ですが、石狩市が公表した地図をみると、石狩新港のコストコやスーパーホテル付近を起点として考えているようです。以下、3ルートについて、当サイトでルートを予想してみます。
手稲ルート
まず、手稲ルートは、石狩新港から防風林に沿って道道44号線(石狩手稲通り)に出て、そのまま手稲駅に至るルートでしょうか。概算は9.7kmで、3案でもっとも短いです。
ロープウェイが苦手とするカーブも少なく、敷設しやすいルートといえます。
麻生ルート
次に、麻生ルートは、石狩新港から防風林に沿って石狩手稲通りに出るまでは同じです。途中で道道865号線(西5丁目樽川通り)に出て、新琴似駅を経て麻生駅へ向かいます。
こちらは、石狩手稲通りから西5丁目樽川通りに曲がるところで90度のカーブがあります。概算は12.1kmです。
栄町ルート
最後が、栄町ルートです。こちらも石狩新港から防風林に沿って南下しますが、途中で茨戸川方面に転じ、石狩市役所をかすめて緑苑台に向かいます。緑苑台を経由することは、事業概要書に明記されています。
その後、創成川に沿って南下し、道道128号線(東15丁目屯田通り)に入り、道なりに栄町駅へ。さらに、東へ転じて丘珠空港に至ります。概算は11.4kmです。
手稲ルートが作りやすそうだが
念のためにもう一度書きますが、上記の具体的なルートは、当サイトの予想です。石狩市が公表したのは、冒頭の地図だけです。
それを前提として、3案のうち、もっとも距離が短く、敷設しやすいのは手稲ルートでしょう。ロープウェイはカーブが苦手なので、カーブがなるべく少ないルートを選ぶのであれば、手稲ルートが有力です。
ただ、3案のなかでは、もっとも沿線人口が少なそうですし、地下鉄駅とも直結しないルートなので、利用者数でいえば、3案で最も少ない見込みとなりそうです。
栄町ルートが有力?
今回は、カーブを苦にしないシステムを導入する前提と察せられます。カーブが問題ないのであれば、人口が増加している緑苑台地区の需要を拾える、栄町ルートが有力でしょうか。
事業概要書でも「近年は新港地域・緑苑台などでの新たな開発による人流の拡大が生じている」と事業の背景を説明しているほどなので、石狩市として、緑苑台に公共交通機関を通したいと考えていることがうかがえます。
栄町ルートは、栄町駅から丘珠空港までを計画範囲に含めているのもポイントです。札幌市は丘珠空港の利活用に力を入れはじめていますので、栄町駅から丘珠空港までロープウェイがつながれば、空港の利便性向上にも資するでしょう。
つまり、丘珠空港の公共交通機関整備を実現できるわけで、札幌市としても協力しやすい計画です。
Zipparは実現できるか
問題は、カーブを苦にしない索道システムが実現可能か、という点です。事業計画には明記されていませんが、石狩市としては、曲線敷設が可能な索道システムとして、自走式ロープウェイ「Zippar」の導入を念頭に置いているようです。
しかし、Zipparはまだ実用化されていないシステムです。関西万博での運用開始を目指しているようで、これが都市型交通として実用に耐えうるものかどうかが、ひとつのポイントになるでしょう。
Zippar以外のシステムならば、一般のロープウェイかLRTなどが候補となります。ロープウェイならば、直線的な手稲ルートにならざるを得ないでしょうが、それでも小さなカーブはあり、どう克服するか定かではありません。
LRTの場合は事業費が高くなります。道路交通への影響も大きいので、実現へのハードルは高くなるでしょう。(鎌倉淳)
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