リニア中央新幹線の建設が始まったのを受けて、JR飯田線の将来像が地元で議論されています。リニア駅と接続する飯田線の新駅を建設したうえで、路線を高速化し、特急を運行させたい、という構想まで浮上してきました。飯田以北の飯田線高速化について考えてみましょう。
高速化前段の「あずさ」乗り入れ
長野県と伊那地方の地元自治体は、「リニア中央新幹線整備を地域振興に活かす伊那谷自治体会議」を設け、リニア開業後の2次交通整備などを議論しています。その会議が、2017年1月20日に開かれました。
長野日報2017年1月21日付によりますと、この会議で、白鳥孝・伊那市長は、飯田線の高速化と、それの実現を図る前段として、特急「あずさ」の同線乗り入れを要望したそうです。
同紙によりますと、「白鳥市長は飯田線の高速化について連携してJRと交渉するよう意見。JR各社と県内自治体などが協力して今年展開される観光キャンペーンにあわせ、特急あずさの乗り入れをJR側に打診することを求めた」とのことです。
リニア駅300mに新駅
リニア中央新幹線の新駅は、飯田線の伊那上郷駅と元善光寺駅の中間付近に建設が予定されています。地元では、そこに飯田線の新駅(以下、飯田新駅)を設けることを求めています。
ただ、両線の交差地点付近は、飯田線が斜面に沿った線形のため駅を設置することが難しく、飯田市は、リニア駅の北西300mの位置を飯田新駅の検討箇所とする案を示しています。
JR東海は飯田新駅について、地元負担を求めているようです。今後協議が行われるでしょうが、リニア新駅に隣接する飯田線新駅が建設される方向性は固まっているとみていいでしょう。
高速化で置き去りにされてきたが
さて、飯田線は、これまで高速化では置き去りにされてきました。かつては、「こまがね」という新宿駅に乗り入れる急行列車も走っていましたが、廃止されています。新宿方面には中央高速バスの利便性が高く、在来線鉄道では太刀打ちできない、というのが実情です。
とはいえ、高速バスも俊足とまではいえません。現状で新宿~伊那が約3時間20分、新宿~駒ヶ根が3時間40分、新宿~飯田は4時間10分程度もかかっています。
リニアが開業すれば、品川~飯田間が約40分に短縮されます。飯田市と首都圏の時間距離が劇的に短くなるのは言うまでもありません。飯田線との接続をうまく取れば、周辺地域の鉄道利便性が上がることも間違いなく、多くの旅客を高速バスから奪えそうです。
いまのままでは優位に立てない
ただ、現状の飯田線では、列車の高速運転は困難です。飯田~駒ヶ根間36.3kmが快速「みすず」(下り)で59分、飯田~伊那間48.7kmが1時間22分もかかっています。
いまのままでは、リニアが完成したとしても、乗り換え時間を含め品川~駒ヶ根が2時間程度、伊那となると2時間20分程度かかることになります。
東京~伊那間で、「リニア+飯田線」はバスより1時間ほど速くなる計算ですが、乗り換えの手間や価格差を考えると、優位に立つとまではいえません。
伊那市が声をあげた理由
そこで地元では、リニア開業にあわせて飯田線を高速化することを求めています。さらに今回、伊那市長が特急運行を求める姿勢を打ち出したわけです。
伊那市が声を上げたのは、その地理的条件によるところが大きそうです。伊那市はリニア駅から40km以上離れており、飯田線の高速化が実現すればリニア開業による便益が大きくなる一方、実現しなければリニアによる波及効果が限定されるのです。
今回、伊那市長は、高速化の前段として特急「あずさ」の飯田線乗り入れを求めました。実現したとしてもキャンペーンにあわせた一時的な運行と見られますが、それでも「特急運行」の実績を積んでおきたい、ということなのでしょう。
どのくらい時間短縮される?
リニア開業後、飯田線の高速化が実現し、特急が走った場合、どの程度の時間短縮が達成されるのでしょうか。
高速化にどの程度の投資をするかにもよりますが、特急による通過効果とあわせて、「みすず」に比べ、飯田~駒ヶ根・伊那間で15~20分程度の短縮は見込めそうです。そうなると、品川から駒ヶ根まで1時間45分程度、伊那まで2時間程度には短縮されるでしょう。
これだけ短縮されれば、対東京では高速バスより明らかに速いですから、飯田線特急を運転する価値があるかもしれません。
中央東線沿線にはメリットなし
一方、飯田線が高速化されたとしても、中央東線沿線への効果は小さそうです。たとえば、飯田~松本は約100kmも離れており、特急が運転されたとしても2時間程度はかかるでしょう。
東京~松本間で見た場合、リニアと飯田線を乗り継いでも、中央東線の特急「スーパーあずさ」より速く着くことは難しそうです。飯田線高速化のメリットは伊那市以南に限られるでしょう。
飯田新駅でのリニアと飯田線の接続がどうなるかも気がかりです。上述したように、両駅は300mほど離れた位置になり、標高差も20mくらいあるとのことです。動く歩道のようなものを設置したとしても、「乗り換え不便な駅」と敬遠されるかもしれません。
近くには高速インターも
ところで、リニア駅と中央自動車道は、直線距離で3kmも離れていません。近くには、座光寺スマートインターチェンジが設置されています。このインターからリニア駅までの道路も整備される見通しです。
つまり、リニア駅は高速道路へのアクセスがいいわけで、駅前には高速バスも乗り入れることでしょう。となると、飯田線特急が実現しても、リニア駅を発着する高速バスと競合します。ならば、2次交通をバスに任せた方が、費用対効果が高いかもしれません。
リニアの2次交通が、何が何でも鉄道である必要はありません。飯田線の高速化にどれほどの投資が適切かは、よく検討する必要がありそうです。(鎌倉淳)