ホーム 鉄道 鉄道新線

北陸新幹線延伸「米原ルート・新大阪直通」なら1.6兆円。新試算に意味はあるか

湖西ルートなら2兆円

北陸新幹線の新大阪延伸について、石川県選出の国会議員らによる自主研究会が、米原ルートと湖西ルートの事業費を試算しました。米原駅で東海道新幹線に乗り入れて新大阪まで直通する場合、事業費を1.6兆円と算出しています。

広告

米原・湖西両ルートで試算

北陸新幹線の敦賀~新大阪間の延伸計画については、政府が2024年に小浜・京都ルートの詳細案を示しています。それによりますと、建設費は3兆4000億円から3兆9000億円、工期は25~28年とされています。

これに対し、石川県選出の自民党国会議員らが、北陸新幹線のルートを検証する自主研究会を結成。交通工学が専門の中川大・京大名誉教授に試算を依頼していました。

中川氏は、米原駅ルートと湖西ルートについて、東海道新幹線に直通する形と、乗り換えで対応する形での事業費を算出し、2025年6月17日に公表しました。各社報道から、その内容をみてみましょう。

北陸新幹線白山

広告

米原乗り換えなら9,000億円

中川氏の試算によると、米原ルートの場合、米原止まりが9,000億円、東海道新幹線直通が1兆6000億円となりました。工期は15年です。

また、琵琶湖の西岸を経由する湖西ルートの場合、京都駅止まりが1兆3000億円、京都駅で東海道新幹線に乗り入れる場合に2兆円と算出しました。工期は22年です。

東海道新幹線に直通する場合の試算には、直通にともなうシステムの改修費用や安全対策費、車両基地の整備費などを上乗せしています。米原・湖西とも、その金額を7,000億円と見積もっているわけです。

さらに、在来線の線路に新幹線を走らせるフリーゲージトレイン(軌間可変列車、FGT)の導入費用も計算しました。事業費は3,000億円で、工期は10年です。ただし、フリーゲージトレイン車両の開発のメドは立っていません。

広告

試算比較

簡単にまとめると、次のようになります。

【小浜・京都ルート】3.4~3.9兆円、25~28年
【米原ルート直通】1.6兆円、15年
【米原ルート乗換】0.9兆円、15年
【湖西ルート直通】2.0兆円、22年
【湖西ルート乗換】1.3兆円、22年
【フリーゲージ】0.3兆円、10年

今回の試算は、政府の概算事業費の算定方法を推定のうえ、同様の方法で算出したとのこと。具体的には、高架、トンネルなど「構造別の距離」ごとに、「1kmあたり建設費」に基づいて算出し、駅や車両基地などの大規模施設の建設費と合算しています。

厳密に政府案の試算方法と同じではないでしょうが、おおむね同等の条件と考えて比較できそうです。当然、いずれのルートも、今後のインフレや人手不足で、事業費や工期が上振れする可能性があります。

広告

B/Cを満たせるか

北陸新幹線の新大阪延伸は、小浜・京都ルートで建設する方針が決定しています。ただし、事業費の高騰などもあり、事業着手の条件である費用便益比(B/C)の基準を満たせなくなっているようです。

今回の試算を見る限り、米原ルートで直通なしなら、費用便益比の基準を満たせそうです。直通の場合も、満たせるかもしれません。

工期は小浜・京都ルートに比べ10年以上短くなります。費用・工期からみれば、米原ルートに優位性があります。

しかし、実際に建設するとなると、ルート決定や環境アセスメントからやり直すことになりますし、滋賀県の事業費負担などの問題もあり、実現できるかといえば難しいでしょう。

広告

「意味がわからない」

米原ルートに関しては、運行主体のJR西日本の長谷川一明社長が、2025年6月13日の記者会見で「お金をかけて米原に伸ばす意味がわからない」と述べています。

JR西日本は、北陸新幹線の東海道新幹線乗り入れはできない、という立場を取っており、長谷川社長の発言は、米原乗り換えを前提にしたものとみられます。米原乗り換えも、今の敦賀乗り換えも、乗り換えの手間は変わらないので、巨費をかけて建設する意味があるのか、という話です。

逆にいえば、東海道新幹線に乗り入れれば、乗り換えはなくなりますので、建設する意味が出てくることになります。ただし、技術的に乗り入れが可能としても、ダイヤに厳しい制約が生じるのは間違いありません。その場合は、事業費とは別の側面で実現可能性が問われます。

広告

道筋見えづらく

単純にルートだけを考えれば、「小浜・京都ルート」が最も優れていることについて、異論は少ないでしょう。ただ、工事の難易度や、事業費負担、環境面の課題が大きく、実現への道筋が見えなくなりつつあるのも確かです。

事業費が安く、工期も短いのがフリーゲージトレイン案です。車両が開発できるのであれば、これが本命になるでしょう。ただ、新幹線のフリーゲージ車両の開発は頓挫しています。再び開発に乗り出すとしても、相当の開発費と時間がかかるでしょうし、実用化できるのかもわかりません。

今回の試算は、いわば過去に議論した話の焼き直しにすぎません。そのため、この試算により、急に何かが変わることはないでしょう。ただ、今後の議論の材料の一つにはなりそうです。(鎌倉淳)

広告