函館線山線代替バス「鉄道33本→バス13本」でまかなえるのか。運行計画の概要公表。

最大125本というけれど

北海道新幹線札幌延伸を機にJR北海道から経営分離される函館線長万部~小樽間のバス転換について、代替バスの運行計画の概要が示されました。

区間により1日最大125本のバスを運行しますが、既存のバス路線の活用を含めた本数で、鉄道の減少分に対応する増便は限られた数になりそうです。

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対策協議会第17回後志ブロック会議

北海道新幹線は新函館北斗~札幌間で延伸工事がおこなわれています。整備新幹線が開業すると並行在来線がJRから分離されるルールです。

北海道新幹線の札幌延伸では、函館線函館~小樽間が並行在来線に指定されていて、このうち長万部~小樽間は鉄道の廃止が決定していますが、代替バスについての詳細は決まっていません。

この問題について話し合う北海道新幹線並行在来線対策協議会の第17回後志ブロック会議が2024年8月28日に開催されました。

北海道新幹線h7系

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最大125本

会議では、代替バス運行の具体的な計画が初めて示されました。

公表された運行計画によれば、バスの運行区間は、「長万部~黒松内」「黒松内~蘭越」「蘭越~ニセコ」「ニセコ~倶知安」「倶知安~小沢」「小沢~然別」「然別~仁木」「仁木~余市」「余市~小樽」の9区間に分かれます。

運行本数は区間により異なりますが、余市~小樽間が最大で1日125本、長万部~黒松内間が最小の8本とされました。

これは往復の本数ですので、片道あたりなら、たとえば長万部~黒松内間は4本となります。

北海道新幹線並行在来線バス運行本数
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会の第17回後志ブロック会議資料

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JR33本をバス13本で代替

運行されるバスは、JR函館線列車の代替便が単純に設定されるわけではなく、既存のバス路線を含めて系統を整理します。そのため、資料では「新体系」と示されています。

新体系のバス路線は、既存のバスの運行本数に6~13本を増やしただけの形となっています。たとえば、もっとも混雑が予想される余市~小樽間では、既存のJR33本、バス112本を、新体系では125本にとどめています。数字だけをみれば、JRの列車33本の減少に対応するバス増便は13本にとどまります。

余市~小樽間には現状で112本ものバスが運行していますが、空席も多く、利用者数は定員より少ないようです。その空席を活用すれば、列車の減便に対応するバス増便は、13本で済むということなのでしょう。後述しますが、小樽や余市では、将来的な人口減少が想定されているので、そうした事情も加味しているようです。

とはいえ、さすがに「鉄道33本の代わりがバス13本」という部分だけを取り出すと、減らしすぎではないか、という気もします。

北海道新幹線並行在来線バス転換資料
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会の第17回後志ブロック会議資料

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「人手と車両の確保すら難しい」

バスの運行本数増を最小限にとどめた背景として、バスの運転士不足の問題もありそうです。よく知られている通り、バス運転士不足は深刻で、道内の各地でも、路線バスの減便や廃止が相次いでいます。

そのためか、今回の協議会には、沿線のバス事業者として、北海道中央バス、道南バス、ニセコバスの関係者が出席して、意見を述べています。

このうち北海道中央バスのバス事業部長は「バス事業はいま非常に深刻な状況。現在のバス路線の維持、人手と車両の確保すら難しい」と発言し、運転士確保について懸念を伝えました。バス会社としては、運転士の確保についても、車両の増備についても、責任を持てない姿勢を示したといえます。

ちなみに、北海道中央バスの有価証券報告書によりますと、2024年3月期の従業員数は1,379人で、平均年齢は53.0歳、平均勤続年数は18.6年です。5年前の2019年3月期の1,674人、平均48.7歳、平均勤続年数14.8年と比較すると、退職者が多いにもかかわらず、採用が進んでいない様子がうかがえます。

途中にコロナ禍という状況があったことは考慮しなければなりませんが、それでも、5年間で平均年齢が4.3歳も上がっているのは衝撃的です。現在の平均年齢が53歳で、採用が間に合っていないならば、新幹線が開業するころには、運転士の半分以上がリタイアしているかもしれません。

この数字をみると、中央バス担当者の「人手と車両の確保すら難しい」の言葉の重さがわかります。

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バス転換はいつになるのか

では、その新幹線開業はいつになるのでしょうか。

北海道新幹線の札幌延伸の建設工事は予定通りに進んでおらず、現時点で3~4年程度の遅延が生じています。さらなる遅延要因もあり、開業時期のメドは明らかにされていません。

工事の進捗状況の資料を読むと、たとえば札樽トンネルの札幌工区(8,446m)の掘削率18%で、あと6,888m残されていますが、1ヶ月の進捗は74mです。単純計算では開通まで7年9ヶ月が必要です。

実際には単純計算通りではなく、さまざまな工夫がなされるのでしょうが、それを勘案しても、開業は2030年代半ばにずれこむ可能性が高そうです。となると、バス転換もその時期に後ろ倒しになりますので、あと10年程度あります。

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通学人口は半分に

人口動態をみてみると、小樽市や余市町は、2030年から2050年にかけて大幅な減少が見込まれています。余市町の場合、2020年人口18,000人が、2040年に約12,100人に、2050年に約9,500人にまで減ります。

後志の将来人口
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会の第17回後志ブロック会議資料

一方、倶知安町や蘭越町は減り幅が小さく、ニセコ町はほぼ現状維持です。リゾート地としてのニセコエリアでは、居住人口がおおむね維持されるわけです。

通学に鉄道を利用する15~19歳人口をみても、小樽市や余市町の減少が著しく、ニセコエリアの減少は小さいです。余市町の通学人口は2020年の半分以下になるようで、この数字なら、鉄道を廃止しても、バスで運びきることは可能でしょう。

しかし、それでも一定数のバス運転士の確保が必要なことに変わりありません。

後志の15~19歳将来人口
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会の第17回後志ブロック会議資料

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新幹線利用への遷移もあるが

ニセコエリアは観光客の増加も見込まれます。そのため、観光客の足として、地域のバス路線を維持する必要があります。一方で、新幹線開業により、ニセコエリアから札幌方面の鉄道利用は、多くが新幹線に移ることが見込まれます。

倶知安から札幌まで新幹線なら30分程度なので、高速道路ができても2時間以上かかるバスを使う人は少なくなるでしょう。そう考えると、ニセコ~余市間の現在の鉄道利用者は、代替バスにほとんど移行しないかもしれません。

バス運転士不足、人口減少、観光客増加、新幹線開通。こうした複雑な要素をバス転換にどう落とし込み、地域公共交通を維持していくか。難しい判断となりそうです。(鎌倉淳)

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