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北海道新幹線札幌延伸「1.2兆円増」で収まるのか。総額3.5兆円、当初の2倍に

さらなる上振れも?

北海道新幹線札幌延伸の事業費が、最大1.2兆円も増加して、約3.5兆円に達するおそれがあることが明らかになりました。2022年に約2.3兆円と公表してから、わずか3年で1.5倍に膨らみます。しかも、最終的にこの金額で収まるかは定かではありません。

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当初計画から2.1倍に

北海道新幹線の新函館北斗~札幌間の事業費について、建設主体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)は、最大で1兆2000億円増加するという見通しを発表しました。

事業費はこれまでの見積もりの約2兆3100億円から、約3兆5000億円に膨らみ、約1.5倍になります。

北海道新幹線の札幌延伸の事業費は、2011年当初計画で約1兆6700億円でした。2022年に約2兆3100億円に増える試算を明らかにし、それからわずか3年で、再び大幅な見直しをしたわけです。当初金額からみれば、約2.1倍に膨らむことになります。

北海道新幹線

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資材価格の高騰が響く

鉄道・運輸機構が明らかにした、見直しの内訳は以下の通りです。

・工事資材価格の上昇 5,000億~5500億円
・予期せぬ自然条件への対応(トンネルの岩塊撤去など) 2,000億~2,500億円
・法令改正などへの対応(労働時間規制など) 1,000億~1,500億円
・関係者との協議への対応(騒音対策の追加など) 1,000億~1,500億円
・工期短縮策などの実施 500億~1,000億円

内訳として大きいのが資材価格の上昇です。鉄道・運輸機構によれば、2023年3月の変更認可時点では、建設デフレーターの上昇を年2.0%と見込んでいましたが、2022年度の実績上昇率が9.0%、2023年度が4.8%となっており、想定以上の事業費の増加が生じたということです。

いっぽう、2024年度の実績上昇率は2.4%と落ち着く傾向にあることから、今後の建設デフレーターの上昇を前回同様2.0%と見込んで試算したとのことです。

北海道新幹線建設費
画像:鉄道・運輸機構

 
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工事費高騰が響く

建設デフレーターとは、建設工事費の物価指数で、資材価格や人件費などの上昇を反映します。簡単にいえば建設費のインフレ率です。

北海道新幹線札幌延伸の場合、直近の建設工事費の高騰が、変更申請時に想定していた以上になってしまったことが、建設費増の大きな要因というわけです。

不確定要素について余裕をもって見積もったという事情もあります。トンネルの未掘削区間の地質状況が不確定であることや、労務費などの変動リスクも踏まえたうえで、「幅をもって試算」したそうです。

つまり、ある程度の余裕を持たせ新たな事業費を試算したところ、金額が大きくなったということです。

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残事業B/Cはどうなる?

事業費増で気になるのは、費用便益費(B/C)です。

2023年におこなわれた、当時の事業費増を反映した事業再評価では、事業全体のB/Cは0.9に落ち込んだものの、残事業では1.3を確保できるとしました。事業を継続した場合の投資効果が1を上回ったため、事業を続行しています。

しかし、それからわずか3年足らずで事業費が1.5倍に膨らんでしまいました。新たに再評価をおこなった場合、残事業のB/Cが1を切る可能性もありそうです。

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財源をどうするのか

B/Cの懸念もさることながら、最大の問題は、1兆2000億円も増加する事業費の財源を、どこから調達するか、ということです。政府は整備新幹線の既開業区間の貸付料を順次値上げすることで、一定の財源としたいようですが、JR東日本が強硬に反発しています。

いうまでもありませんが、1兆2000億円というのは、相当な金額です。北陸新幹線金沢~敦賀間の事業費が1兆6700億円でしたので、それに近い金額が上積みされるわけです。

増額分をどう手当てするのかは決まっていません。ちなみに、2022年の増額時には、6450億円の増額分のうち、2922億円の財源措置が示され、貸付料で約66%(1926億円)をまかない、国が約23%(664億円)、地元自治体が約11%(332億円)を負担する形で決着しています。

この割合でいけば、今回の1兆2000億円増のうち、11%となる約1300億円を沿線自治体で分担することになります。北海道庁の年間予算が3兆円程度なので、その4%に匹敵する金額です。

北海道の鈴木直道知事は「地元負担の可能な限りの軽減を図るといった地域の切実な実情に寄り添った対応を強く求める」とコメントしました。「切実な実情」という表現に、「ない袖は振れない」という悲鳴が込められているようです。

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2%で収まるのか

とはいえ、いまさら工事を止めるという判断をするとも思えません。財源をなんとか確保して、建設工事を続行するでしょうが、その場合にも不安が残ります。

何よりも、今後の建設デフレーターの上昇率見込みを、2%程度で落ち着くとみなしている点です。この予想が外れて上振れすると、事業費のさらなる増嵩もあり得ることになります。

直近の状況に限っても、名鉄名古屋駅の再開発事業中止の経緯などをみると、今年の建設デフレーターが2%で収まっているのだろうかという疑問が生じます。

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半年で3.5ポイント上昇

実際、国土交通省が公表している建設工事費デフレーター(鉄道軌道)では、2025年3月の128.9が、9月には132.4となっていて、半年で3.5ポイントも上昇しています。

北海道新幹線の札幌延伸開業は2038年度と見込まれていて、あと10年以上かかります。その間、平均2%の上昇率で落ち着くというのは、楽観的な見通しにも感じられます。

現時点で、あまりに高い数値を予想に用いるのは適切ではないので、こうした数字を落とし込んでいるのかもしれません。

とはいえ、近年の物価の状況を鑑みれば、工事を続行した場合に本当に3.5兆円で済むかは疑わしくも感じられます。不確定要素について幅をもって試算しているとはいえ、その想定を上回る可能性もあるでしょう。

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北陸新幹線延伸にも影響

北海道新幹線の建設費増は、北陸新幹線の新大阪延伸にも影を落とします。

上述したように、政府は、2022年増加分の多くを整備新幹線の貸付料でまかなおうとしています。今回も同様にするのであれば、北海道新幹線の事業費が増えるほど、北陸新幹線の建設に貸付料を回せなくなってしまいます。

しかも、整備新幹線の開業31年目以降の貸付料金額は確定していません。JR東日本は、着工時に「行政契約」があったとして、減額を求める姿勢を明確にしています。最終的な決着は見通せませんが、将来の貸付料収入すら確実な財源とは言い切れない状況になっています。

新たな財源を政府が用意できれば、状況は変わるでしょう。それが難しいなら、今後の新幹線整備は、ますます厳しくなるというほかなさそうです。(鎌倉淳)

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