阪急電鉄が伊丹空港への連絡線を検討していることがわかりました。北梅田駅~十三駅~新大阪駅に至る「新大阪連絡線」も実現に向け動き出しています。阪急は新路線の建設で、どんな沿線の未来地図を描いているのでしょうか。
阪急側が構想示す
阪急電鉄が検討しているのは、宝塚線曽根駅と伊丹空港(大阪国際空港)を結ぶ約3kmの新線です。国土交通省が2017年7月に開いた「近畿圏における空港アクセス鉄道ネットワーク検討会」で、阪急側が伊丹空港への新線構想を示したそうです。
現時点では構想段階です。今後、乗客の需要予測をしたうえで、採算に乗るかを見極めてから事業化を決めるとのことです。
梅田・空港が15分?
阪急「伊丹空港連絡線」は、曽根駅と伊丹空港の間を地下で結ぶ構想です。阪急がどういうルートを検討してるのかは不明ですが、曽根駅付近で地下に潜り宝塚線に沿って北進し豊中付近で西進するか、曽根駅付近で西に折れて阪神高速に沿って北進する、といった経路が想定されます。
実現すれば大阪・梅田と伊丹空港が直通列車で結ばれます。十三駅、曽根駅のみ停車の「エアポート急行」が設定されたとして、阪急梅田駅~伊丹空港間は15分くらいの所要時間になりそうです。
1,000億円規模の事業費
現在、伊丹空港に乗り入れている軌道系交通機関は大阪モノレールのみで、梅田からは蛍池駅で乗り換えが必要です。大阪市中心部から伊丹空港へはリムジンバスの所要時間が短く、乗り換えもなく便利なため、バスがアクセスの中心です。
梅田~伊丹空港のバスの利用者数は多く、空港アクセス鉄道ができればかなりの数が列車に移るとみられます。そのため、阪急では新線に十分な需要があると判断したようです。
各社報道では、新線の事業費は1,000億円規模になるとの見通しが示されています。現在建設中の北大阪急行の新箕面延伸事業が2.5kmで650億円ですから、3kmで1,000億円はそれに比べれば高いです。ただ、住宅街の真ん中を突っ切る路線ですので、そのくらいの建設費がかかってもおかしくはないでしょう。
伊丹空港の民営化も背景に
阪急の伊丹空港連絡線は、非公式な構想なら昔からありました。しかし、阪急が前向きな姿勢を見せたことは、少なくともこの数十年はなかったと思います。
そんな「永遠の妄想線」に思えた伊丹空港連絡線が現実味を帯びてきたのは、伊丹空港の利用者が増えてきたことが直接的な理由のようです。2016年度の旅客数は1510万人と、5年間で約2割増えているそうです。
背景として挙げられるのが、訪日外国人旅行者の増加です。外国人利用者は関西空港利用が主体と思われがちですが、国内移動には伊丹空港も使います。
また、かつての伊丹空港は、関西空港との兼ね合いで縮小論がありました。空港まで線路を敷いたところで、空港の利用者が減ってしまっては成り立ちません。
しかし、2016年に関西空港とあわせて民営化されたことで、今後、規模が縮小されるリスクはなくなったといえます。現在は大規模なリニュアール工事を進めており、2020年度に完成する予定です。
沿線利用者は急減
阪急宝塚線沿線の人口減が予測されていることも背景としてあげられるでしょう。
宝塚線沿線の都市である豊中市、池田市、箕面市、川西市、宝塚市では、2010年に合計100万人いた人口が、2040年に86万人に減少すると見込まれています。
生産年齢人口に限れば、63万人が45万人と、約3割も減ると予測されていて、将来はさらに減ることが確実視されています。生産年齢人口の急減は、通勤・通学を主体とする鉄道路線にとっては利用者減に直結します。
さらに、先述した北大阪急行の新箕面延伸工事も進められていて、2020年度に開業する予定です。開業後は、阪急宝塚線から一定の利用者を奪うでしょう。
伊丹空港連絡線建設は、空港利用者を取り込むことで、宝塚線に新たな需要を生じさせ、人口減少などによる利用者減を穴埋めしようという施策ともいえそうです。
関東では、京浜急行が巨費を投じて羽田空港輸送に力を入れていますが、これも背景として三浦半島の人口減少があります。伊丹空港連絡線構想も、同様の事情で具体化してきた側面もありそうです。
十三駅を阪急電車のハブに
阪急電鉄では、2031年春開業予定の新線「なにわ筋線」に直通する新線の計画も進めています。なにわ筋線の北梅田駅から十三駅を経て新大阪駅へ至る「新大阪連絡線」です。同線は阪急で初めての狭軌路線となり、南海電鉄に乗り入れて関西空港へ直通列車が運行される見込みです。
伊丹空港と新大阪駅へ「2つの連絡線」ができれば、十三駅から伊丹空港、関西空港、新大阪駅がそれぞれ直通電車で結ばれます。
十三駅は阪急電鉄主要3線のジャンクションですから、阪急沿線各駅から伊丹空港、関西空港、新幹線へのアクセスが格段に便利になるわけです。十三駅をハブとして、空港・新幹線アクセスを向上させ、阪急全線の沿線価値を上げる、というのが阪急電鉄の未来地図なのでしょう。
永続的な需要が見込める
前述したように、「阪急伊丹空港線」ができれば、阪急梅田駅~伊丹空港駅は直通列車で15分程度になると見込まれます。十三駅から12分、神戸三宮駅から乗り換え時間含めて40分程度、京都の河原町駅から55分程度になるでしょう。
リムジンバスでは、梅田から30分、三宮から40分、京都駅から55分です。伊丹空港連絡線ができれば、梅田エリアからは圧倒的に時間が短縮されます。三宮、京都からはリムジンバスと互角の所要時間ですが、定時性では鉄道に優位性がありそうです。
これまでバスでのアクセスしかなかった、伊丹空港~新大阪駅の移動も便利になる、といった効果もあるでしょう。
着工がほぼ固まった新大阪連絡線と違い、伊丹空港連絡線はまだ構想段階です。しかし、国内空港アクセスの需要は太く、完成後は多数の利用者が永続的に見込めることを考えれば、実現性は高いと言えるでしょう。
伊丹空港線の事業化は、新大阪連絡線の採算性向上にも寄与しそうです。今後、2つの新線の採算性をトータルで精査した後、具体化していくのではないでしょうか。(鎌倉淳)