JR羽田空港アクセス線開業で、2040年の首都圏の鉄道系統はこう変わる!

相鉄線との兼ね合いも

JR東日本が羽田空港アクセス線の建設に動き出しました。羽田空港を起点に3路線を作る壮大な計画です。完成時期は未定ですが、この記事では3路線が2040年頃に全線開通すると仮定して、首都圏のJR路線網や鉄道系統がどう変わるのか、考えてみました。

広告

羽田に関わる6+3系統

まず、羽田空港線に関わりのありそうな、現在のJR首都圏路線網を整理しておきましょう。

◆東北・高崎線=東海道線系統(上野東京ライン)
◆常磐線=品川系統(上野東京ライン)
◆東北・高崎線=新宿=東海道・横須賀線系統(湘南新宿ライン)
◆埼京線=りんかい線系統
◆京葉線系統

直接的に関わるのは、上記5系統です。ただし、湘南新宿ラインが乗り入れている横須賀線にも影響が生じますので、

◆総武線=横須賀線系統

を含めた6系統と考えていいでしょう。

羽田空港アクセス線
画像:JR東日本グループ経営ビジョン「変革 2027」

さらに、2019年度には、相鉄線との直通が始まり、運転系統が増えます。相鉄・JR直通線がどういう系統で運行されるかは正式発表されていませんが、以下の3系統の可能性があります。

◇東北・高崎線=新宿=相鉄線系統(湘南新宿ライン)
◇埼京線=相鉄線系統
◇総武線=東京=相鉄線系統

相鉄線内のホームは10両編成までしか対応していませんので、相性がいいのは同じ10両の埼京線です。すなわち、「埼京線=相鉄線系統」が軸になりそうです。

相鉄・JR・東急直通線
画像:鉄道・運輸機構

羽田3線が全通すると?

羽田空港アクセス線には「東山手ルート」(羽田空港~田町・東京)、「西山手ルート」(羽田空港~大井町・大崎)、「臨海部ルート」(羽田空港~東京テレポート・新木場)の3路線が計画されています。

羽田空港アクセス線地図
画像:JR東日本グループ経営ビジョン「変革 2027」

この3線が全て開通した場合の路線系統の可能性を、以下に列挙してみます。

◇東北・高崎線=羽田系統(上野東京ライン・東山手ルート)
◇常磐線=羽田系統(上野東京ライン・東山手ルート)
◇東北・高崎線=新宿=羽田系統(湘南新宿ライン・西山手ルート)
◇埼京線=羽田系統(西山手ルート)
◇京葉・りんかい線=羽田系統(臨海部ルート)

このように、5系統が可能性として加わります。最後の「京葉・りんかい線=羽田系統」は、京葉線とりんかい線の直通運転を前提にしています。両線はレールはつながっていますので、物理的な直通運転は現在でも可能です。

りんかい線の運賃収受の問題がありJRとの直通運転は実現していませんが、羽田空港アクセス線臨海部ルートが作られる頃には、りんかい線をJRが買収するという形で、この問題は解決されていると思われます。

一番最初に掲載した図にも、臨海部ルートは「房総方面」と記されており、京葉線乗り入れを見越した表記となっています。

広告

利用者数はどのくらい?

さて、羽田空港アクセス線開業後の路線系統は、現状の6系統が上記14系統に増える可能性があるわけです。ただ、線路容量や需要の問題もありますので、どれだけの系統が実際に設定されるのかはわかりません。

2017年の羽田空港旅客ターミナルの利用者は、8,540万人。1日平均23万人あまりです。出発と到着を半々とすれば、片道毎日約12万人が羽田空港を使うわけです。1両の列車定員を1,500人とすれば、80本で運べます。鉄道の1日の運行時間帯は約20時間なので、全員を運ぶなら毎時4本、約15分間隔の運転本数で運びきれる計算です。

羽田空港アクセスにはバスやタクシー、クルマもありますし、鉄道としては京急もモノレールもあります。現在、京急の羽田空港駅の乗降客数は約11万人(国際線ターミナル含む)です。羽田空港アクセス線が開業したとして、全員がJRを利用するわけではありません。

各線毎時6本は欲しい

将来の羽田空港の利用者数の変化もあるでしょうし、JR羽田空港アクセス線の利用者数がどの程度になるのかを推測するのは簡単ではありません。ただ、全列車を満員にして動かすわけでもありませんし、3路線あわせて毎時12本程度の運転本数が設定されてもおかしくはなさそうです。現状の京急線も同程度です。

利用者の立場で考えれば、3路線でそれぞれ、毎時6本程度の列車が欲しいところです。しかし、毎時6本をすべて羽田空港に入れると、羽田空港駅は毎時18本の列車です。やや供給過多な気もしますので、路線によって、毎時3-6本程度とみておきます。

広告

西山手ルート

実際の運行系統を、西山手ルートから考えていきましょう。西山手ルートには、羽田空港アクセス線の乗り入れ先として埼京線と湘南新宿ラインの2路線があります。このうち、湘南新宿ラインは最長15両編成で、りんかい線の大井町駅のホーム長さが足りません。したがって、15両の湘南新宿ラインが羽田空港へ乗り入れる場合、大井町駅は通過となります。

しかし、それでは乗降客の多い大井町駅から羽田空港へ行きたい方は不便でしょう。かといって、湘南新宿ラインの10両のみを羽田乗り入れにすると、ダイヤの制約が厳しくなります。

そうした点を考慮すると、西山手ルートの乗り入れ先は10両編成の埼京線が主体になると推測できます。現在毎時6本ある新宿駅止まりの埼京線列車を、羽田空港まで延伸するといったことが考えられます。

相鉄線乗り入れの問題

ここで考慮しなければならないのが、相鉄線の乗り入れの問題です。相鉄線は、2019年度にJR線新宿方面への乗り入れを予定しています。

JR車両が相互直通運転する場合、相鉄線内は10両編成までしか対応していませんので、湘南新宿ラインの15両編成は乗り入れられません。また、グリーン車の扱いも生じることから、相鉄線に湘南新宿ラインの車両が入ることは、当面想定されていないでしょう。

となると、相鉄線と相互直通運転をするのは埼京線ということになります。新宿止まりの埼京線列車の一部は、羽田空港アクセス線開業以前に、相鉄線方面に回っているわけです。

羽田空港アクセス線西山手ルートが完成した場合、この処理をどうするのかはわかりません。一つの可能性として、相鉄線の埼京線乗り入れが中止され、線路容量に余裕のある横須賀線の東京駅方面乗り入れに振り替えられることが考えられます。相鉄線は東急東横線とも乗り入れますので、渋谷、新宿方面の利用者はそれを使えば済むからです。

大崎~池袋の線路容量が逼迫する

つまり、「埼京線=相鉄線系統」は、羽田空港アクセス線西山手ルートの開業にあわせて「埼京線=横須賀線系統」に変更されるかもしれないわけです。

ただ、その場合も、総武・横須賀線車両の11・15両編成は相鉄線に乗り入れられないという問題が生じます。解決するには、相鉄線の片乗り入れによる東京駅折り返しという形や、グリーン車のない10両編成をJR側が用意するという形が想定されます。

このあたりの予想は、なかなか難しく、JR社内でもまだ方向性は定まっていないでしょう。なんであれ、大崎~池袋間の線路容量は、相鉄線と羽田アクセス線乗り入れが両方行われると逼迫しますので、なんらかの方策は必要になりそうです。

なお、現状で湘南新宿ラインの増便には、大崎~西大井間の平面交差がネックになっています。これについては、JR東日本が解消のための工事を計画しており、すでに用地の一部を確保している模様です。将来的には、大崎の平面交差は解消されると考えていいでしょう。

広告

東山手ルート

さて、羽田空港アクセス線の主力路線は、東山手ルートでしょう。乗り入れ先は東北・高崎・常磐線です。いずれもグリーン車を連結した最長15両編成が走ります。そのため、東山手ルートは15両対応で作られると見られます。

運行系統上は、東山手ルートは、常磐線を主とするのが合理的です。上野東京ラインの常磐線は品川止まりなので、これを羽田空港へ行き先変更すれば具合がいいからです。そのため、品川発着の常磐線列車(特急除く)は、すべて羽田発着になるかもしれません。

上野駅改良が必要

ただ、常磐線と上野東京ラインにも平面交差のネックがあります。上野駅で常磐線下りと東北・高崎線上りが平面交差しており、常磐線の上野東京ラインの列車本数が制限されています。常磐線から上野東京ラインを経て羽田空港に至る列車について、ダイヤ上の制約なく走らせるには、この改良が必要になりそうです。

東北・高崎線系統の列車も、合計毎時2-3本は、羽田空港行きが求められるでしょう。そう考えると、東北線、高崎線、常磐線から、バランス良く羽田行きが設定されると予想します。

広告

臨海部ルート

臨海部ルートの列車は、新木場から京葉線に直通するでしょう。その場合の終点は、現状の路線網なら蘇我または府中本町が基本になります。

京葉線と武蔵野線沿線から羽田空港アクセスが改善しますが、それだけでは利便性の向上が限られるので、千葉駅や成田空港方面への乗り入れを考えたいところです。

そのためには、「総武線・京葉線接続新線」の実現が不可欠になります。2016年交通政策審議会答申第198号にも記載されている新線で、市川塩浜付近で京葉線から分岐し、津田沼付近で総武線に合流する構想です。

総武線・京葉線接続新線の具体的な建設計画は明らかにされていません。羽田アクセス線の臨海部ルートを作るなら、この接続新線もセットで作らないと整備効果が限定されそうです。

実現した場合は、羽田空港発、新木場経由千葉行きの列車が運行されることになりそうです。さらに成田空港まで直通させれば、両空港間のアクセス列車としても機能するでしょう。

広告

特急列車はどうなる?

ここまでは、普通・快速列車について記述してきました。では、羽田空港アクセス線や、総武線・京葉線接続新線が実現した場合に、特急列車が羽田空港に乗り入れる可能性はあるのでしょうか。

運行系統上、羽田空港に乗り入れる可能性がありそうな特急としては、以下の列車が挙げられます。

◆あずさ、かいじ
◆ひたち、ときわ
◆成田エクスプレス
◆さざなみ、わかしお、しおさい
◆日光、きぬがわ
◆草津、あかぎ

このうち、「あずさ、かいじ」は、新宿駅か東京駅で大規模な配線改良工事を行わない限り、乗り入れ可能な本数は限定されます。一方、「ひたち、ときわ」は品川発着の列車をそのまま羽田空港に回せばいいので、ハードルは高くありません。

「成田・羽田エクスプレス」は実現するか

「成田エクスプレス」は、総武線東京駅から羽田空港アクセス線へ乗り入れることができないため、羽田乗り入れは総武線・京葉線接続新線を抜けての新木場経由となります。この場合、東京駅を通らないのが難点です。

成田空港と羽田空港を乗り継ぎ移動する人の数はそれほど多くないので、東京駅や新宿駅を経由しない「成田エクスプレス」の需要が高いとは思えません。そのため「成田エクスプレス」が羽田空港に乗り入れて、「成田・羽田エクスプレス」として運転される可能性は低そうです。

「さざなみ、わかしお、しおさい」といった房総特急も同じで、東京駅や新宿駅を経由しない特急列車の設定は難しいでしょう。

「日光、きぬがわ」や「草津、あかぎ」といった列車は、観光特急としての側面と、東北、高崎、東武線沿線住民の空港アクセス利用としての側面があります。羽田空港から日光や草津へ直通する旅客は多くないにしても、羽田に乗り入れれば、列車全体の利用者増は見込めますので、実現可能性はありそうです。

広告

2040年の運転系統を予想

長々と書きましたが、結論としてまとめてみると、2040年に羽田空港アクセス線が全線開業したと仮定した場合、その関連路線の系統は以下のようになると予想(というか妄想)します。

◆は現存系統、◇は新設または変化のある系統です。適当な愛称を付けてみました。

◆上野東京ライン(東北・高崎・常磐線=東海道線系統)
◇東京羽田ライン(東北・高崎・常磐線=羽田系統)
◆湘南新宿ライン(東北・高崎線=東海道・横須賀線系統)
◇新宿羽田ライン(埼京線=羽田系統)
◇新宿りんかいライン(埼京線=りんかい線=京葉線系統)
◆京葉・武蔵野線(東京発着)
◆総武・横須賀線
◇東京相鉄ライン(相鉄線=横須賀・総武線系統)
◇りんかい羽田ライン(総武・京葉・りんかい線=羽田系統)

また、羽田乗り入れの可能性のある特急は、以下の通りです。

◇ひたち、ときわ(羽田空港~東京~水戸方面)
◇日光、きぬがわ(羽田空港~新宿~東武日光線方面)
◇草津、あかぎ(羽田空港~東京~高崎方面)

で、実現するの?

と、書きましたが、正直なところ、羽田空港アクセス線の3ルートが、2040年頃までにすべて実現するかはわかりません。

まずは東山手ルートを2030年頃までに建設し、すでに貨物線が通っている臨海ルートも、同時期に新木場駅まで整備するでしょう。その後、2040年頃までに臨海部、西山手ルートが実現していれば順調といえそうです。先の長い話ですが、それだけの夢のある話でもあります。

筆者にとって残念な点があるとすれば、これだけ長々と運転系統を予想したものの、正解を見届けられるか定かでないことでしょうか。(鎌倉淳)

広告
前の記事広島電鉄駅前大橋線は「架線レス」に。路面電車にバッテリー搭載
次の記事LCCピーチの手荷物料金が実質値上げ。価格はわかりやすく