花咲線、観光路線化に重点。東根室駅は「見直し」に。JR北海道『実行計画』の研究

都市間輸送の記述乏しく

JR北海道が、単独で維持困難とする8線区について、『事業の抜本的な改善方策の実現に向けた実行計画』を取りまとめました。そのなかから花咲線を取り上げ、今後、どう変わっていくのかをみてみましょう。

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赤字3億円の縮小が目標

JR花咲線は、釧路~根室間を結ぶ135.4kmのローカル線です。2017年度の営業収益(収入)は1億6300万円、費用は12億7200万円で、年間11億1000万円の赤字を出していました。同年度の輸送密度は264人です。

JR北海道では、2026年度までに、赤字額を約3億100万円縮小し、8億900万円にする目標を掲げました。輸送密度は264の維持を狙います。

そのための方針については後述しますが、まずは、花咲線の利用状況をみてみましょう。

花咲線地図
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 
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沿線市町村の人口

最初は、沿線市町村の人口です。起点の釧路市が大きく減少していますが、その他の自治体でも減少傾向が続いています。唯一、増加傾向だった釧路町も、近年は減少に転じています。

花咲線の沿線人口推移
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

次に、ローカル線の主たる利用者である通学年齢人口です。2030年の予測では、末端の根室市で600人、浜中町で130人くらいになります。

花咲線の沿線通学人口推移
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 

輸送密度の推移

輸送密度の推移です。1980年代までは1,000人以上を維持していましたが、近年は200人前後に落ち込んでいます。

花咲線輸送密度推移
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 
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駅別利用者数

過去5年平均の駅別利用者数です。利用が多いのは、釧路、東釧路、厚岸、根室の順です。1日10人以上が利用しているのは、これに茶内を加えた5駅のみです。

別当賀駅が1人未満で、廃止対象になりうる水準です。また、以前は10人以上だった東根室駅は、7.8人にまで落ち込んでいます。

花咲線駅別利用者数
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 

列車別乗車人員

列車別乗車人員です。朝の釧路行き、夕の釧路発が混雑します。ただ、いずれの時間帯も、バス1~2台で運びきれる人数です。

花咲線列車別乗車人員
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 

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駅間通過人員と定期券発売実績

駅間通過人員です。東釧路、厚岸で段差があります。茶内~落石間では、定期利用が非常に少ないことがわかります。

花咲線駅間利用者数推移
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

定期券発売実績です。釧路~厚岸間が多いのが見て取れます。釧路市内では、釧路~東釧路間に高校が集中しています。根室高校最寄り駅の東根室駅発着の通学定期は1枚も発売されていません。

花咲線定期券発売実績
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 

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74%が全く使わない

次に、花咲線の地域住民アンケートによると、花咲線を日常的に利用する人は0.4%ときわめて少なく、74%が全く使わないと回答しています。一方で、月に数回利用する人が18%も存在します。

今後の利用意向としては、32%が「利用するようになる」と答え、「利用する」と含めると、全体の49%が利用意向を持っています。

花咲線地域住民アンケート
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 

通学に84分

ローカル線の主たる利用者である高校通学生のアンケートをみると、JR通学理由の主な回答は、「運行時間が良い」「自宅から駅まで近い」「学校が駅から近い」「座って通学できる」といったことでした。

通学時間は合計で平均84.8分と非常に長いですが、回答者が厚岸~東釧路間の利用者が多かったためです。根室高校通学者(厚床~東根室)はあまり回答していないようです。

花咲線通学生アンケート
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 

根室高校生はバスに転移

根室高校向けには、落石~根室間にバスの実証運行を実施。根室高校前にバスが停まるため、通学生20人は、往路はほぼ全員がバス利用に転移しました。復路は時間帯の都合もあってか、JRなど他の交通手段に分散しています。

花咲線バス
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)

 

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指定席は一人旅が多く

一部列車で導入した指定席については、1便あたり1.6人の利用者増がみられました。指定席利用者は1人旅が非常に多く、83%が1人または2人の利用でした。

当初は、グループや家族での利用を見据えて、座席の確保ができるようにする目的があったのですが、現実には鉄道ファンの1人利用が多かったと察せられます。そのため、今後はボックス席以外での指定席化も検討するとしています。

花咲線指定席化実績
画像:『花咲線 (釧路~根室間)事業の抜本的な改善方策の
実現に向けた実行計画」(JR北海道)
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『実行計画』の基本方針

『実行計画』では、こうしたこれまでの取り組みを踏まえて、今後の花咲線は、観光客などの利用増によって、公共交通機関としての付加価値を高めることを狙います。

そのための基本方針は以下の通りです(原文ママ)

【基本方針】
・道内外から花咲線にお越しいただくための取組などにより、観光線区としての線区特性を最大限発揮する。
・利用促進、コスト削減の取組を推進し、線区の収支改善を図る。
・持続的な鉄道網の確立に向け、二次交通も含めたあるべき交通体系について、徹底的にデータとファクトに基づく議論を重ねる。

具体的取組内容は以下の通りです。

【利用促進】
(1)少人数でも利用しやすい指定席の導入
(2)普通列車を観光列車にする取り組みの認知度向上
(3)落石~根室間のバス実証運行等のバスとの連携
(4)ダイヤ改正 (観光鉄道体系の構築)
 ・観光列車体系の構築
 ・景勝区間での定期列車減速
(5)夏季繁忙期増結、海側指定席、指定席料金値上げ
(6)フリーパスの発売
(7)プロモーション等による利用促進
(8)フリーパス等の利用者に対する一部費用負担(観光客・地元利用者)

【コスト削減】
(1)運行体系の見直し
 ・利用の少ない列車の見直し
 ・利用の少ない駅見直し(東根室駅など)
(2)スリム化の推進

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指定席は継続

旅行者に関心の高そうなポイントをピックアップすると、まず、(1)指定席の継続でしょうか。少人数も利用しやすいように、すでに2024年シーズンでは、クロスシートにも設定されています。

(5)では指定席券の値上げも打ち出されています。現在は530円ですが、今後は値上げが実施されそうです。

東根室駅廃止方針を明記

(3)の落合~根室間のバスとの連携については内容が明らかではありませんが、「バスを活用することによる駅廃止や列車減便」を意味しているように受けとめられます。

コスト削減の(1)「利用の少ない駅見直し」で「東根室駅」が明記されたのは、その証左でしょう。「バスとの連携」と絡めて解釈すれば、利用状況が悪くなった、朝の根室行き列車を「バス代替」することも考えられるでしょう。すでに厚床~根室間では、同時間帯にバスが利用できる状況になっています。

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観光路線化に重点

関連して(4)の観光列車体系ダイヤの構築も注目点です。花咲線は、釧路~根室間の都市間輸送としての役割を持つ路線にみえますが、実際には、地元の用務客の利用状況は高くありません。

沿線で深刻な人口減少も見込まれます。こうしたことも背景にあってか、今後は観光路線化に重点を置くことを示したといえます。景勝区間での定期列車減速は、所要時間増をもたらしますが、都市間輸送よりも観光需要を優先することの帰結でしょう。

都市間輸送の記述に乏しく

花咲線の『実行計画』で特徴的なのは、利用促進策に都市間輸送や通学・生活輸送の記述が見当たらないことです。同じ「末端路線」の宗谷線では、「沿線住民の都市間利用の増加」を掲げていますが、花咲線にその記述はありません。

根室管内の中心都市は中標津町に移っていますので、根室市へ向かう路線で都市間需要が乏しいのでしょう。そもそも、都市間需要の核となる特急列車が走っていません。

都市間輸送については、特急バス「ねむろ号」との兼ね合いもあります。「ねむろ号」は利用者減少のため国の補助基準を満たさなくなっていて、2024年10月からは、沿線自治体が暫定的に補助金を積み増して運行を続けます。これを廃止するのであれば、花咲線にその代替の役割が期待されます。

しかし、沿線住民の利便性を考えれば、通院に便利なのは、病院の近くを通るバスであり、JRではないでしょう。そうした現実をみると、バス廃止は難しい面があります。

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道東観光を盛り上げられるか

ただ、持続性を考えると、鉄道とバスの両方に補助を続けるのも難しいでしょう。通院・通学といった生活需要にバスが必要不可欠ならば、鉄道は観光用として活かす方針を掲げるしかないのかもしれません。

となると、花咲線の将来は観光路線ということになるのでしょう。近くには釧網線という、より観光色の強い路線があるため、一体的に、道東観光を盛り上げる存在にすることが花咲線を残す方法、ということになるのでしょう。(鎌倉淳)

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