近鉄が複数集電方式に対応するための新技術を開発しました。近鉄奈良線と大阪メトロ中央線を直通運転するための可動式集電靴で、「夢洲直通特急」の実現へ前進です。
集電靴を折りたたむ
近鉄けいはんな線と大阪メトロ中央線は、線路横にある第三軌条から集電して電車を動かしています。これに対し、近鉄奈良線は架線からパンタグラフを使い集電しています。両線は生駒駅で接していますが、集電方式の違いから、線路をつなげたとしても直通運転はできません。
近鉄では、この集電方式の違いを乗り越えるため複数集電方式の電車の開発を進めており、必要な技術として「可動式第三軌条用集電装置」の試作品が完成したと発表しました。
第三軌条方式の車両をそのまま架線区間に持ち込むと、集電装置である「集電靴」が車両限界からはみ出してしまいます。可動式集電装置は、集電靴を折りたたむことで、架線集電の車両限界に収めるようにしたもので、関連会社の近畿車輛が2020年に特許を出願していました。
近鉄では、完成した試作品を用いて、各種試験に着手することを明らかにしました。
奈良線から夢洲へ
大阪メトロ中央線は夢洲までの延伸工事中です。夢洲にはIR計画があり、実現すれば近鉄は奈良線から夢洲へ直通する特急を走らせる検討を進めています。
複数集電方式は、この「夢洲直通特急」に使われる新技術です。試作品による試験を始めることから、実現へ向け大きく前進したと言えるでしょう。
複数集電方式の列車は国内に前例がなく、実現すれば画期的な車両となります。
運行区間は?
では、技術開発が順調にいったとして、この車両はどの区間に運転されるのでしょうか。
近鉄は、複数集電車両の開発目的を「夢洲と当社路線を結ぶ直通列車を実現し、夢洲から沿線各地に誘客する」こととしています。そのため、近鉄各駅が目的地の候補ですが、なんといっても観光客の多い京都・奈良と夢洲を結ぶ区間が最有力でしょう。
夢洲にはMICE施設やホテル、エンターテインメント施設などが計画されており、そうした施設の利用客が国際的観光地である京都・奈良へ乗り換えなしで行ければ便利です。
運行開始時期も未定ですが、夢洲IRの開業は、順調にいけば2029年頃とされていて、その頃には営業投入の可能性があります。
IRが計画通りに完成し期待に違わぬ施設になる、という前提ですが、登場が楽しみです。(鎌倉淳)