「フリーゲージトレイン」の最高時速270キロ問題を考える。長崎以外でどの区間なら導入できるの?

九州新幹線長崎ルートで導入予定のフリーゲージトレイン(軌間可変電車)の新試験車両が完成し、2014年4月20日からJR九州で走行試験が開始されました。走行試験が行われているのは熊本~鹿児島中央間で、途中の新八代に設置された軌間可変装置を介して新在直通が行われます。今後3年かけて九州新幹線と在来線区間で計60万キロを試験走行し、安全性や耐久性を分析していくそうです。

今回の車両は、フリーゲージトレインとしては3代目で、「第3次車」とも呼ばれています。全電動車4両編成で、1号車から「FGT-9001」~「FGT-9004」の番号が振られていますので、車両形式は「FGT9000系」ということになるのでしょう。

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夢の技術がついに実現?

フリーゲージトレインは、日本の鉄道にとって、永らく「夢の技術」でした。これが実現すれば在来線に高速鉄道車両を直通させることができ、新幹線計画がない路線にも新幹線直通列車を運転できるからです。

在来線に高速鉄道車両を直通させることは、ヨーロッパではごく普通のことです。しかし、日本では新幹線と在来線の軌間が異なるため、現在に至るまで実現できていません。フリーゲージトレインができれば、ようやく日本の高速鉄道も「欧州並み」に到達できるのです。

フリーゲージトレイン
写真:川崎重工業

速度は遅くて、値段は高い

軌間可変電車の開発には時間がかかりました。日本における開発開始は1994年で、すでに20年も経っています。営業運転開始が九州新幹線長崎ルート開業の2022年になるとすると、実用化まで28年がかり、ということになります。開発開始当初、日本の技術力ならすぐにできるだろう、と楽観的に思われていましたが、研究開発に回り道が多く、時間がかかったようです。

20年かけてようやくできあがった車両のスペックは、残念ながら高いとはいえません。何より、最高速度が270km/hに抑えられてしまっていることは大きな課題です。山陽新幹線の最高速度は300km/hですから、それに30km/hも足らないのです。これを理由に、JR西日本は、山陽新幹線へのフリーゲージトレインの乗り入れに難色を示しています。

新大阪~博多間は553km(実キロ)ですので、300km/hと270km/hなら、単純計算で所要時間に10分以上の差がでます。これだけ遅いと、途中の駅を通過する「みずほ」や「さくら」タイプでの運転は難しくなります。かといって、「こだま」のような各駅停車タイプでは、大阪まで直通させる意味はなくなります。

車両価格の問題もあります、今回完成したFGT9000系は、4両で約43億円で、1両あたり約11億円もします。N700系の場合、1編成約48億円で、1両あたり約3億円にすぎません。フリーゲージトレインも量産化によって価格は下げられるでしょうが、既存の新幹線車両よりはかなり割高になりそうです。山陽新幹線にこれを走らせるとなると、JR西日本も車両を大量に保有しなければならなくなりますが、それに見合う増収が期待できるかは疑問です。

残念なことですが、「速度は遅くて、値段は高い」というのが現時点のフリーゲージトレインなのです。おまけにサイズも在来線仕様ですから、乗車定員も少なくなります。「在来線に乗り入れできる」というのは大きなメリットですが、新幹線区間を走らせることに関しては、デメリットも多いのです。これでは、JR西日本が消極的になるのは仕方ありません。

将来的には、フリーゲージトレインの最高速度も引き上げられることでしょう。しかし、現時点では、このFGT9000系をベースにした営業車が量産される見通しですので、2022年の長崎ルート開業時の最高速度は270km/hということになります。仮に最高速度300km/hのフリーゲージトレインが開発されるにしても、その次の世代の車両ですから、早くても2030年頃になるでしょう。フリーゲージトレインの開発の遅さを考えると、2035年の北海道新幹線開業時に間に合うかどうか、という時間軸かも知れません。

導入可能区間を考えてみる

それでは、現状の最高時速270km/hの車両で、どういった路線に導入可能なのでしょうか。新在直通には、他にも周波数の問題や雪対策などの課題もありますが、それらはクリアできるという前提で、導入可能路線を考えてみましょう。

先に書いたとおり、最高速度が270km/hの場合、新幹線の走行距離が長いとダイヤ上の障害になります。となると、270km/hフリーゲージトレインの導入可能性があるのは、「新幹線の走行区間が短く、直通によって大都市と地方都市を結ぶことができる区間」になるでしょう。

具体的には、「新大阪~岡山~高松」「新大阪~岡山~松山」の四国方面と、「新大阪~岡山~出雲市」の山陰方面は候補になりそうです。この場合、山陽新幹線の「新大阪~岡山」は各駅停車になると思いますが、それでも、それなりの直通効果はありそうです。

「東京~郡山~喜多方」の会津方面も、新幹線区間が各駅停車タイプでなら可能かもしれません。また、「東京~新潟~酒田」の羽越方面も候補になるでしょう。上越新幹線は最高速度が240km/hですので、速度は問題になりません。九州新幹線も最高速度が260km/hですから、「博多~鹿児島中央~宮崎間」も可能性はありそうです。

建設中の整備新幹線区間についても、最高速度が260km/hに抑えられているので、フリーゲージトレインの速度は問題になりません。とくに、北陸新幹線の「大阪~敦賀~金沢・富山」へは、JR西日本が導入を前提に研究開発を進めているので、実現は確実視されています。その場合、「名古屋~敦賀~金沢・富山」も実現できるでしょう。

東海道新幹線の実現可能性はなし

北海道新幹線函館開業では、新函館~東室蘭間が電化されない限り無理と思われます。札幌開業時の旭川乗り入れは可能でしょうが、東京までの乗り入れには320km/h運転が必要になりますので、実現可能性は低そうです。また、東海道新幹線は、JR東海が乗車定員を統一していますので、現時点ではフリーゲージトレインの実現可能性はありません。

ということで、フリーゲージトレイン開発で恩恵を受けそうな地域は少なくありませんが、現実味があるのは、「長崎」「四国」「北陸」「羽越」でしょうか。車両価格が高いままだと、四国や羽越は採算性の問題で難しいかもしれません。

待たれるのは、既存のミニ新幹線車両程度のスペックの次世代型です。それが低価格でできれば状況は変わり、「新大阪~大分」などの長距離設定ができるようになるでしょう。そこまで実現して、はじめて「フリーゲージ」は完成したといえるのではないでしょうか。

まだまだ時間はかかりそうですが、「夢の技術」の進歩に期待したいところです。

新幹線50年の技術史

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