外環道の東名延伸工事が中断しました。東京都調布市で発生した道路陥没によるものです。工事と陥没の因果関係は不明ですが、中断が長引けば道路開通時期に影響を及ぼしそうです。大深度地下の使用にもカゲを落としかねません。
地下47mで外環道工事
道路陥没は東京都調布市東つつじヶ丘2丁目で2020年10月18日に発生しました。京王線つつじヶ丘から南東に約400mの位置です。穴の大きさは長さ約5m、幅約3m、深さ約5mにおよび、空洞の大きさは約140立方メートルと推定されています。
現場付近の地下47mでは、東京外郭環状道路(外環道)のトンネル工事が行われていました。そのため事業を担当しているNEXCO東日本は工事を一時中断。学識経験者による東京外環トンネル施工等検討委員会を開催し、因果関係を調べています。
検討委員会の資料によりますと、10月18日午前9時30分頃から沈下を確認。舗装の亀裂が拡大し、12時30分頃に陥没が発生しました。当日深夜に緊急対策として砂を使って埋め戻した上で簡易舗装し、翌朝までに道路は応急復旧しました。
現地調査を実施
外環道延伸は、関越道から中央道を経て、東名高速をつなぐ約16kmの区間です。工事はシールド工法で行われていました。
陥没したのは外環道南行きトンネルの真上にあたり、シールド機が通過して約 1ヶ月経過した箇所です。掘削中の切羽位置からは約131.9m離れています。
記者会見で、検討委員会の小泉淳委員長は、陥没と工事の因果関係について「調べないとわからない」としながらも「因果関係がないとは言い切れないし、急にこういうふうに落ちることはない」と述べ、トンネル工事が原因である可能性が高いことを示唆しました。
そのうえで、陥没原因について、「考えられるとしたら、もともと空洞があったか、土を多く取りすぎたか、どちらか。適正に土の量を取っていて陥没するのは考えられない。ということであれば、シールドが原因ならば、土を取りこみすぎたことが原因だと考えられる」との見解も示しました。
検討委員会は、現地調査を実施することを決定。地中の空洞を調べるため、陥没箇所周辺の公道を「高解像度地中レーダーシステム」で調査します。また、陥没地点からシールドの掘削深さ1m上まで新たにボーリングを実施。さらに、音響トモグラフィにより縦断方向の地盤状況も確認します。
そのほか、造成経緯、井戸、防空壕などの地歴、文献調査の再確認や、地下水成分調査、埋設物の状況確認なども実施する予定です。
博多、横浜でも陥没
地下の土木工事を原因とする地上の陥没事故は過去にも起きていて、最近の大きな事例では2016年の博多駅前陥没事故があげられます。福岡市営地下鉄七隈線の延伸工事で、地下約30mを掘っていたところ、地上に縦横約30m、深さ約15mの大きな穴が空きました。
博多駅前事故でも、陥没後に追加ボーリング調査を行うなどの検証を実施。その結果、工事中の地下鉄トンネルの上部の地盤が割れ、地面とトンネルを通す岩盤層の間にあった地下水や土砂が坑内に流れ込んだことで、上部地盤が崩落したと結論づけました。検証と再発防止策の策定に時間を費やし、地下鉄の開業目標は2年遅れています。
調布陥没の原因究明はこれからですが、七隈線の当該区間はナトム工法、外環道はシールド工法なので、工法が異なります。また、NEXCO東日本によると、外環道トンネルにひび割れや漏水などの異常はなかったそうで、その点でも博多事故と異なります。
シールド工法の最近の陥没事例としては、2020年6月12日と30日に発生した、横浜の環状2号線陥没があります。1回目は長さ11m、幅8m、深さ4m、2回目は約300m離れた場所で長さ7m、幅6m、深さ2mにわたり陥没しました。
陥没地点の直下約18mでは相鉄・東急直通線の新横浜トンネルの掘削工事が行われていました。第三者委員会が陥没の原因究明を行ったところ、原因はシールドマシンが土砂を過剰に取り込み、地中に空隙が形成されたことと推定されました。
このときは、約2ヶ月後の9月2日に工事が再開され、相鉄・東急直通線の開業時期に影響は出ていません。
工期への影響は?
外環道大泉~東名間は、大泉ジャンクションと、東名ジャンクションから、それぞれ2基のシールドが掘削を行っています。今回問題となっているのは東名発進の本線南行きトンネルで、2017年2月に掘削をスタートしました。現在の掘削距離は4427m。掘削予定距離は約9.2kmですので、進捗率は約48%です。3年半かけて、ようやく半分まで掘り進んだことになります。
大泉ジャンクション発進のシールドは、2019年1月に掘削を開始し、先行している北行きトンネルの掘削距離は1,095m。掘削予定距離は約7.0kmですので、進捗率は約16%です。
外環道の大泉~東名間の開通時期は公表されていませんが、大泉ジャンクションを2019年1月に発進したシールドは、「2年半かけて掘り進む」と報じられました。となると、2021年夏に貫通予定ということになり、順調にいけば、付帯工事を含めて2020年代半ばの道路開通が見込まれます。
しかし、今回の陥没で工事が中断したため、「順調」とはいかなくなる可能性があります。工期への影響は現状ではわかりませんが、陥没と工事の因果関係の有無にかかわらず、トンネルの真上で陥没が起きてしまったことは事実なので、原因究明が必要になります。結果として因果関係が認められれば、再発防止策の策定に一定の時間を要するでしょう。
大深度地下とは?
外環道の大泉~東名間は、経路のほとんどがトンネルで、地下40mより深い位置を掘る「大深度」と呼ばれる地下空間を使用しています。
大深度地下は、2000年に成立した「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」により、利用方法が法制化されました。地下40mより深い地下を道路などで使用する際に、事前に補償をおこなうことなく使用権を設定でき、補償が必要になった場合は、事後請求で対応するという制度です。
簡単にいえば、大深度地下制度は、地下40mより深い位置ならば地上に住んでいる人の許可を得なくてもトンネルを掘れる仕組みです。
地上に影響は出ないのか
ただ、地下40mなら地上の建物に影響が絶対に出ないというわけではありません。実際、国交省も「大深度地下使用技術指針・同解説」で以下のように記しています。
『大深度地下は硬くよく締まった地盤で構成されていることから、一般的に想定しがたいものの、既存の建築物や地表に有意な変位を与えないように、工法を選択するとともに、適切に施工管理等を実施することが重要である』
『一般的に用いられる、泥水シールド工法、土圧シールド工法等は、地下水を乱さず工事を実施するものであり、適切な施工管理等を行えば問題ないと考えられる。実際に都市部で実施された工事においては、地表の沈下は数mm程度であり、地上の土地利用に対しては、支障は生じないものと考えられるが、必要に応じて地盤の変位等を適切に計測する必要がある』
適切な施行管理をすれば地表に有意な変異を与えないという趣旨です。逆に言えば、不適切な施行管理をすれば、地表に影響を与える可能性があることを示唆しているとも受け取れます。
仮定の話ですが、今回、土を取り込みすぎて陥没が起きたのであれば、「大深度地下であっても、施工ミスは地上に影響する」ことの証明になってしまいます。
リニアにも適用
大深度地下使用法を適用した最初の事例は、2007年に認可された神戸市大容量送水管整備事業です。ただ、このときの大深度区間は約270mにとどまりました。
本格的に適用されたのは外環道が初めてで、2014年に認可されました。さらに、リニア中央新幹線も2018年に認可を受けています。リニアは、品川区から町田市までの33kmと、春日井市から名古屋市までの17kmで大深度地下使用が認可されました。
調布の陥没と外環道トンネルの因果関係ははっきりしませんが、大深度地下使用法を初めて本格適用した事例で陥没が起きてしまったのであれば、今後の適用にカゲを落とすでしょう。無許可で自宅の地下を掘られる住民には大深度地下使用に反対する声も根強く、今回の陥没が、反対の論拠になってしまうからです。
陥没により、外環道の工事再開までどれくらいの時間を要するのかは、まだわかりません。徹底した原因究明と再発防止策の策定が待たれます。(鎌倉淳)