鉄道ローカル線、地方自治体のスタンスを読み解く。論点はどこにあるのか

第2回「地域モビリティ検討会」資料から

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JRとの協議

ローカル線維持に関しては、地元自治体とJRとの間で活性化策などを話し合う意思疎通が重要との意見は幅広くあります。「危機認識を共有するためにも、まず、鉄道事業者と沿線自治体の双方の歩み寄りが必要であり、それぞれの立場の垣根を越える意識を持つことが最も重要」という冷静な指摘です。

第1回会合で、JRは、地元自治体との話し合いが進まないことに対し、利用者の少ない路線に関する協議の制度化を要求しました。JR側の主張に耳を傾けると、地元自治体が身構えて、協議を拒んでいるような印象がありました。

しかし、自治体からの視点は少し違うようです。「多くの場合、鉄道サービスの範囲は、沿線自治体の範囲を越えるため、沿線自治体による利便性向上の提案は『他地域との整合性』『全国的な慣行』といった理由で鉄道事業者から断られることが多い」という回答は、地元自治体が何かを提案しても、JRが支社レベルで受け流してしまっているような印象を受けます。

また、「JR各社は地域の基幹的な交通サービスを提供する主体として、独占的な地位を占めており、観光等への影響力も絶大である。そのため、交通サービスの維持や誘致、観光集客等の要望を行うことが多い沿線自治体は、JR各社等大手鉄道事業者と対等な議論がし難い」という声もありました。

JRという巨大企業は強い力を持っているため、都道府県レベルの自治体からみても、対等に話し合いができない、という感覚を抱いているということです。

つまり、JRの末端に小さな話を持ちかけても進まないし、進んだとしても組織の規模が違いすぎて対等な議論にならない、という感覚を、都道府県側が抱いているようです。要望がほとんど通らないなら協議をする意味がない、と自治体が考えているのであれば、自治体とJRの間に横たわる溝は、端から見るより深いのかも知れません。

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国の関与を求める

国に対しては、「政策面、財政面での強い関与が必要」という声が代表的でしょうか。

具体的には、「鉄道に係る国庫補助制度は、機能向上など設備投資に係る支援制度は比較的手厚いが、維持修繕に係る支援は非常に限定されている。維持修繕に対しても一定の支援ができるよう予算を拡充されたい」という、補修を目的とした設備投資に対する補助を求める声は複数ありました。

また、「人口が疎らな地域のローカル鉄道との連携においては、乗用タクシーの活用がカギとなるが、国の乗用タクシーへの支援がバス等に比べて非常に限られていることが活用促進のボトルネックとなっている」という指摘も具体的です。

「現行のバス補助制度から、バスのみではなく鉄道をはじめ他交通モードも含めた地域公共交通計画に対して一定率で手厚く補助するなどの補助制度への抜本的な見直しが必要」という意見もあります。これは、交通モードごとに補助金を設定するのではなく、地域全体の交通網を対象に補助をするべきという考え方です。

また、JRの持つデータの活用を求める声もありました。「鉄道事業は、JRをはじめオープンデータ化・オープンAPI化が最も遅れている」ことを指摘。鉄道ダイヤやルート情報に関しては「鉄道運輸規程でもアナログでは駅頭での掲示義務等がある」としたうえで、「オープンデータ提供やバス等他の交通手段の接続利便に大きく影響するロケーション情報のオープンAPI化」を求めました。

鉄道を地域と協働する「地域モビリティ」として位置づけるならば、オープンAPI化は必須であるという意見です。

データ提供の費用について疑義を唱える声もありました。「JR各社をはじめ多くの大手鉄道事業者はデータ化をしていないか、有償でのデータ提供を行っている。有償データ提供の価格設定は、範囲や金額の規模が地域モビリティとしては負担できないレベルにあり、オープンな連携や地域発・ベンチャー発の取組ができないため、情報検索の段階で地域モビリティと大手鉄道が接続できない状況にあることは大きな課題となっている」という指摘です。

本来はこうしたことこそ、地元自治体とJRが協議して解決すべきことなのでしょう。しかし、JRとしては、「他地域との整合性」などもあり、特定自治体にのみ安価にデータ提供をするわけにいかないのかもしれません。

そのほか、「地域の交通事業者は慢性的な運転手不足が続いており、将来にわたりモード転換後の公共交通を維持するためには、運行の効率化(自動運転技術の導入など)や人材確保・技術承継など運転手の確保のための支援が必要」という、全国に共通する課題も改めて指摘されました。

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論点はどこにあるのか

以上が、「地域モビリティ検討会」第2回の会合資料の概要です。自治体側の意見・要望は多岐にわたりまとめるのは難しいですが、いくつか論点をみてみましょう。

まず、地方自治体から多く求められたのが、情報公開です。JR各社が一般公開しているローカル線のデータは輸送密度くらい。自治体にはもう少し詳しい情報があるのかもしれませんが、利便性向上や収支の改善を真剣に検討するなら、それだけで足りないのは確かでしょう。

また、広島県が指摘したように、輸送密度の低い線区のみ取り出して赤字額を公表するというのは、恣意的といわれても仕方ありません。輸送密度と赤字額は比例しないので、経営難を理由に自治体に協力を求めるのであれば、幹線を含めた全ての路線の収支を明らかにせよという主張は理解できます。

自治体とJRの間で利用促進に取り組む体制が、日常的に取られていないことも大きな課題です。これには、自治体がJRに要望を投げかけても、実りが少なかったという過去の経験も影響しているようです。

MarSのような取り組みを地元主導で考案した際に、JRからのデータ提供に課題があることもうかがえました。

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国鉄改革の再検討

国の支援に関しては、国鉄改革にさかのぼる意見から、現実的な枠組みの構築までさまざまです。

国鉄改革に関しては、「JRはローカル線の赤字を内部補填する仕組みで発足した」という認識が、地方自治体に広く流布していることを感じさせます。国会で大臣がそう答弁しているわけですから、事実なのでしょう。この仕組みに基づけば、大都市路線や新幹線の黒字でローカル線を維持することは当然なので、地方自治体が「国が決めたルールを守れ」と主張することは理解できます。

一方のJRとしては、もはやこの仕組みが破綻しつつあると訴えているわけです。となると、JRが国鉄改革の経緯に基づき内部補填を続けなければならないローカル線とは、どの程度の利用者数のある路線までなのか、といった基準が必要になりそうです。

というよりも、それを定めるのが、今回の検討会の目的の一つかもしれません。

「地域モビリティ」への補助

新たな枠組みとして、鉄道とバス、タクシーを別々に補助するのではなく、全体として補助するべき、という意見は一考に値するでしょう。そもそも、「地域モビリティ」として、総合的に公共交通を再構築する旗を振っているのは国交省なので、総合的な補助金を検討する責任があるのではないか、という気もします。

実践的な意味では、近江鉄道で上下分離を経験した滋賀県の提言が参考になりそうです。上下分離といっても実現への道のりは簡単ではなく、協議の枠組み整備にはじまり、鉄道事業者の情報公開、人材確保、財政補助といった支援パッケージが必要だという内容でした。

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論点整理へ

地域モビリティ検討会は、2度の会合で鉄道事業者と地方自治体へのヒヤリングを終えました。次回で論点整理を行います。

ざっとみたところ、鉄道事業者側はJRの要望、自治体側は滋賀県の提言をベースとして、論点が整理されそうです。自治体と鉄道会社の協議の枠組み、柔軟な運賃制度、JRの情報公開、人材確保、モード転換時の支援、国鉄改革の経緯に基づく内部補填の考え方、などでしょうか。

最終的にどんな提言がまとめられるのかはわかりませんが、鉄道事業者と地方自治体が協力して、最適な地域公共交通網を構築するための仕組みを検討してほしいところです。(鎌倉淳)

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