国土交通省が「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」の第2期の議論を開始しました。ローカル線の再構築がおもなテーマですが、3年前に一定の結論を出したばかりです。改めて議論をする焦点は、芸備線の扱いにありそうです。
地域モビリティの刷新に関する検討会
国土交通省は「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(以下、地域モビリティ検討会)の第2期の第1回会合を、2025年10月10日に開催しました。
地域モビリティ検討会は2022年2月に初めて開催され、同年7月に提言をまとめています。
利用者の少ないローカル線について沿線自治体であり方を議論し、鉄道特性の活かせる路線については必要な投資をおこない、そうでない路線については、BRTやバスへの転換も視野に入れることが、提言の骨子でした。
提言を基に、2023年に「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」(地域交通法)が改正され、鉄道事業の再構築について、制度面・予算面でのしくみが整えられ、国の補助が手厚くなりました。
「鉄道ネットワークのあり方」に意見
その検討会の「第2期」が開催されるわけです。
国交省によると、法改正から約2年が経過し、ローカル鉄道に関する制度や全国的な鉄道ネットワークのあり方などについて、さまざまな意見が出てきたことが、第2期を開催する理由とのことです。
「さまざまな意見」というのは、2025年4月に、滋賀・広島・鳥取・山口の4県知事が、石破茂首相に対し、「全国的な鉄道ネットワークのあり方に関する特別要望」をおこなったことなどを指すようです。
特別要望を受け取った石破首相は、「国と知事の間で一度議論をおこなう必要がある」旨の発言をしました。首相発言は重く、2025年8月に、国土交通省と関係知事による意見交換会が開かれています。
意見交換会では、各県知事が「鉄道ネットワークのあり方を国として示すこと」「JRの内部補助の考え方を確認すること」「国の責任のあり方を示し、財源を手当てすること」などを求めました。
知事の正式な要望ですから、国として回答をしなければなりません。回答のための議論をするのが、地域モビリティ検討会第2期という位置づけになるようです。
「骨太の方針」も背景に
もうひとつ、第2期開催の背景として挙げられるのが、いわゆる「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)の2025年版です。このなかで、「ローカル鉄道の再構築、鉄道ネットワークの在り方等の議論の深化」が示されました。
骨太の方針とは、国が国民に対して示した約束ともいえるので、これも「議論」をしなければなりません。
こうした背景を踏まえ、地域モビリティ検討会第2期では、「これまでのローカル鉄道の再構築にかかる取組みのフォローアップ」をしたうえで、「ローカル鉄道の再構築を巡る議論の深化を図り、さらなる取組みにつなげる検討・議論」をおこないます。
「2023年の地域交通法改正により制度化された、ローカル鉄道の再構築について総括し、今後のあり方を議論する」ということです。
計画認定は19件
簡単にいうと、「2年前に制度化されたローカル線の再構築制度について、修正を加える」のが目的の検討会といえます。
2023年の法改正以来、鉄道事業再構築実施計画が認定されたのは、19件にのぼります。これらはいずれも、新車導入するなど、鉄道を存続させるための取り組みです。すなわち、ローカル線に必要な投資をして存続させる場合、新制度は機能しているといえます。
「廃止議論」は機能せず
いっぽうで、鉄道を廃止する場合の再構築については、あまり機能していません。
法改正により、鉄道事業者が再構築協議会の開催を要請できるようになりましたが、実際に鉄道事業者が要請したのは、JR芸備線の1件にとどまります。その芸備線の議論も、スムーズに進行しているようには見えません。
再構築協議会は、存続、廃止の前提を置かず、3年以内を目安に一定の方向性を示すことになっています。しかし、議論の状況を見ていると、JR側は廃止ありきで議論しているように映りますし、沿線自治体は、なし崩しの廃止を警戒しています。
廃止が暗黙の前提に置かれているのは明らかで、こうした議論のもと、双方が納得する形で結論を出すのは、なかなか難しいように感じられます。
廃止の考え方を整理
検討会の資料でも、JR芸備線の再構築協議の状況が詳しく紹介されていて、これが今回の大きな焦点であることが見て取れます。
芸備線は、中国山地の鉄道ネットワークの骨格となる線形を有する路線です。しかし、利用者が少なすぎ、民営化したJRの内部補助で維持するには、合理性を欠く水準です。
地域モビリティ検討会第2期の論点が「鉄道ネットワークのあり方」ならば、こうした路線をどう扱うか、考え方を整理するということでしょう。
つまり、鉄道を廃止する場合の再構築について、もう一度考え方を整理し、制度を修正していくことが、大きな論点になるのではないでしょうか。(鎌倉淳)